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『滑らかな虹』が出ます(創元文芸文庫)

2022年9月30日、『滑らかな虹』の文庫(上下巻)が出ます。
レーベルは〈創元文芸文庫〉です。創元推理文庫ではありません。

背表紙は白です

今回、文庫化にあたって装画を担当いただいたのは丹地陽子さん、装幀は西村広美さん、そして解説は瀧井朝世さんです。加えて上巻の帯には朝井リョウさんの推薦コメントまで。どこを切っても錚々たる顔ぶれになっており、正直今も信じられない気持ちがしていますが、いくら寝て起きても醒めないので夢ではなさそうです。

書店に並ぶタイミングについては多少前後あるようですが、お見かけの際は何卒よろしくお願いします。
各オンライン書店でも取り扱いがあります。もちろん電子書籍も。

経過や現況などつらつら

1月末のnoteから早いもので8ヵ月たちました。思えばあの時点では、今ごろは口座の残高も底を尽き、大袈裟でもなんでもなく廃業している見込みでした。実際に残高は尽きているわけですが、今回の文庫化のおかげで辛うじて廃業には至らず、もう少しだけしがみついていられそうです。ご心配いただいた方々には心より御礼を申しあげます。ありがとうございました。

公の場で責任者が「心より謝罪申しあげたいと思います」などと述べたあと、実際には謝罪の言葉を口にせず話を進める姿を見て「意思表示は聞いたがまだ謝ってはいないな~?」と思うことがあります。本当に心から謝るつもりで出てきているのか、と謝罪対象に訝られては損だしちゃんと謝ればいいのにね、なんて思いますが、まあこれは関係のない話です。

1月末にnoteで窮状を明かしたあと、それを見た東京創元社さんからすぐさま(本当に10分もしないくらいすぐさま)連絡があって、その一月ひとつきほど後には正式に『滑らかな虹』の文庫化が9月と決まりました。この短期間で廃業タイムリミットでもある9月に刊行予定を滑りこませる、というのは社内で相応の調整が必要だったと思われるので、担当者さんには感謝しかありません。大変ありがたいことです。

この恩情に応えるには、一も二もなく売上で結果を出す以外にない――わけですが、これが何より難しいという現実があります。とかく現実とは険しいもので、現実の険しさを和らげる効果をときにフィクションは持ちえるはずですが、そのフィクションを書いていく先にはこうして現実が待ちかまえています。皮肉ですね。皮と肉。骨がない。食べやすい。食べていけないのが悩みなのに。パクパク。

少し前に読んだ本の中で、ある作家さんが「一人ひとりの読者の中で大切にされるんだけど拡散していかないタイプの小説と、人に勧めやすく拡散していくタイプの小説がある」みたいなことをおっしゃっていて、はー、なるほど、と膝を打ちました。

〈売れる〉ためには評判が拡散しやすいほうがいいに決まっています。その方はこれまでの作風が前者寄りという自覚があったそうで、意図的に後者のタイプを書くことで現在ものすごい結果を出している(理解わからせている)んですが、そこをコントロールするというのが並大抵の器用さ・熱意・力量では不可能なことは容易に想像がつきます。すごい。

『滑らかな虹』を含めたこれまでの自著がどちら(か)に当てはまるかはともかく、自分に書けるのは自分に書けるものだけ、というのは常日頃から感じているところです。果たしてその檻を打ち破れる日はくるのかな、なんてことをその本を読みながら考えたりもしました。とはいえ、井の中のかわず大海を知らずそのおかげか狭いなりに幸せ、というパターンも割とある話で、まあ生きていけるのならどちらが正解かは本人次第ではありましょう。生きていけるのなら、ですが。

そんなわけで、今は「もう自分にできることはほぼないし、何かうまいことなって『滑らかな虹』を読んだ方が人に勧めたいと思ってくれてそれがなんかすごい広まっていって手に取ってくれた方や出版社の人が喜んだり褒めてくれる感じになあれ」とこっそり祈っています。どうしたらそうなるか全くわからないですが、とにかくそういう感じになあれ。そんな心持ちです。

こういう文章って終わらせ方が毎回わからなくなるんですが、今回もご多分に漏れずそうなりました。ともあれ、今回の文庫化にあたっては最新の調律を全力で施しておりますので、なるべく多くの方に手に取っていただけるといいなと思います。丁寧に読みほどいていただいた解説も収録されていますので(下巻)、それだけでも是非。

是非!

がんばる気持ちが湧いてにっこりします。