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飛べない私はただの私(第一話)

読者諸兄の中に、今から飛び降ります、という場面で引き留められた経験がある方がいれば、ぜひ助言を求めたい。
 

 私は17にして自分の人生に絶望している。というか、絶望に値する出来事を経験してしまった。
 多分、人によってはそんなこと気にする必要ないとか、そんなもの忘れてしまえばいいなんて思うかもしれない。
 けど。
 私にはそう思えなかった。人生で一度しか経験できない大切なものを奪われた、そんな風にしか思えない。
 絶望から抜け出せない私が、次にどんな行動をとればいいかなんて言われなくてもわかる。そう、人生で一度しか経験できないなら、その人生を終わらせればいい。次の人生に期待しようってやつだ。それ以上でもそれ以下でもない。
 その方法ならいくらでもあるが、私が選んだのは、7階建てのビル(廃ビル)から飛び降りるという至極一般的なものだ。理由は単純明快。どうせなら最期くらい楽しみたい。およそ誰も経験したことがないことをしたい。ものすごくありふれている理由だ。他にもっともらしいことを言うなら、地上三階建ての高さから落ちると途中で気を失うという。つまり、落下時の痛みや恐怖を経験することなく、まさに天に飛び立つことができるのだ。
 こんなにメリットにまみれているのだ、これ以外を選ぶ奴は相当な馬鹿かマゾ野郎だ。
 さて、前置きが長くなってしまったが、齢17にして旅立とうと思う。
 先立つ不孝をお許しください。
……
 両親いないんだった。
 ならばこう言った方がいいだろう。
 いまからそちらに向かいます、と。
 朝焼けに照らされている街を見下ろすと、きれいの一言で表していいのか疑問に感じる。
 そうか、こんなにきれいな街で生きていたのか。
 こんなきれいな街で終われるのか。
 幸せ者、そのものだ。
 決するほどの意もないが、ここは様式美に従ってこうつづるとしよう。
私は意を決して、屋上の淵から足を踏み出した。
身体に重力がかかった。が、地面に向かって落ちていくときのそれではなかった。私の身体は、落下を強制的に遮断させられたのだ。

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