平等院の『尼比恵』は「アマビエ」か

(当初予定してたテーマと違ってしまいましたが、ここ何日かの備忘まとめとして。すみません。)

先日、こんなニュースがネットで話題になった。

昨年来のコロナ禍の中、にわかに脚光を浴びいまや日本で最もメジャーな妖怪の一柱となった「アマビエ」。その姿を写した札が、「疫病退散 尼比恵」と書かれた封筒に収められ、世界遺産でもある平等院の塔頭から昨年1月に発見されていた、というのである。

札に描かれた絵柄は、現在「アマビエ」を描いた当時資料(とされるもの)で唯一所在が明らかである京大附属図書館の瓦版(と見られる)資料と酷似しており、それを模写したものと記事中では推定されている。これを専門家は「アマビエへの信仰が広がっていたことを裏付ける貴重な史料だ」としている、というのだがちょっと待て

まず仮にこれが真品の当時資料であるとしても、たった1枚見つかっただけな上に当時どう取り扱われていたかの情報が一切見つかっていないものを以て「信仰」が「広がっていた」ことの「証拠」になろうはずがない

さらにこの「封筒入りアマビエ札」、昨年アマビエが知られはじめた昨年3月にナンブ寛永さんが新たに作成した木版アマビエ札を、ブームが過熱した頃に古物に見せかけてネットオークションで高値で転売するという詐欺の手口として使われ、その後(ナンブ寛永さんのお札の転売ということが知れ渡ったためか)中身を変えて同様の偽造品と見られるアマビエ札のパッケージとして取引されていたシロモノなのである。

そのあたりの経緯は、氷厘亭氷泉さんの妖怪仝友会ウェブページ『大佐用』の以下の記事に詳しい(というか自分もこちらで勉強させていただきました)ので参照されたい。

さて、件の平等院所蔵の『尼比恵』札。同寺の説明する経緯としては、

・2020年1月に塔頭より発見

・2020年6月に複写して檀家に配布

・2021年5月に読売新聞にてニュースに

とのことであるが、まあこの経緯の真偽についてはとりあえずさておく。問題はこの資料がマジモンニセモンかということである。

最初にこのニュースで件の封筒と札を見た際に感じた自分の感想は

であった。冒頭に引用した記事から該当の画像が参照できるので見てほしい。木版でもなく筆でもない。自分は少しイラストなんかも嗜んだ時期があったのだが、この絵と文字からは慣れ親しんだチャコペンの気配を感じた。筆だとしても毛筆ではなく筆ペンっぽい、そんな感じの線のまとまり方。

まあそのあたりは実資料を見ない限り判断は難しいのであるが、次に気になったのは封筒に書かれた文字の字体である。正直江戸・明治期の古典籍としては違和感がありすぎるし、所々根本的な間違いがある上に書き手のクセが強すぎ、しかも過去にネットオークションに出された贋物とそのクセが共通している。このあたりは以下のように画像つきでつぶやいた。

要は「当時の人間が書いたならまずしないであろう誤り」が、まったく別の資料であるはずの複数の『尼比恵』封筒に共通して表れ、それが今回の平等院資料にもはっきりと見て取れるということである。

これは書道家である益滿新吾さんにも以下のようにコメントをいただいた。

※(2021.5.21.追記)実はこの『尼比恵』封筒には他にも「共通する違和感」が各文字ごとにある。それについて以下にまとめたので併せてご参照いただきたい。

さあ、心の中の江戸川コナンが「あれれー?おかしいなー?」と囁きはじめてくるわけである、が。続いて尼比恵そのものについても見てみよう。

今回読売新聞の記事になった平等院の『尼比恵』は、先述の通り2020年6月に複写され檀家に「寄付のお願い状とともに」配布されており、そのひとつがネットオークションにかけられている。

画像1

画像2

(画像は下記リンクより)

https://aucfree.com/items/k479373001

図柄は新聞記事と共通するので、ほぼ間違いなく両者は同一のもの。にじみの強調され具合からしてカラーコピーにでもかけたような印象がある。

さて、この『尼比恵』札のサイズであるが、実はこの商品画像に大きな手掛かりがある。御覧の通り、背景にが写っているが、この畳の目は全国共通、目ひとつが1.51cm(半寸)なので、札と重なった畳の目数を数えればサイズがわかるのだ。画像の札の縦は10目。よっておよそ15.1cmと判別できる。縦15cm程度で、大量印刷・配布(600枚配ったという)のために既製の規格紙を使うとすればA6(14.8センチ×10.5センチ)あたりであろうと推定できる。

オークション画像は、斜めから撮っているため傾きがあるが、これをスキャンソフト「officelens」を使って平面に補正する。最近は便利なものが増えましたね。

2021_05_15 午後7_53 Office Lens

こんな感じに。

原図については、京大附属図書館デジタルアーカイブで公開されているので、画像をダウンロード。

さらに、同ページに記載されている情報を元に解像度を調整してサイズを原寸に合わせ、先のオークション画像を方形に補正したのちに想定される縦15cmにサイズを合わせ、それらを並べてみたのが以下の画像である。

まじめに2

サイズが合わない。

なんかものすごく似ている、というかこれトレスじゃろうというレベルの近似・相似であるがサイズは平等院『尼比恵』のほうが大きい。しかし、このサイズ差は意外な方法で埋まることになる。

京大図書館で公開されている「アマビエ」図のデジタルデータは、実は実寸ではない。カラーバー・バック紙含めて幅70cm・高さ56.51cmと、実際のサイズ(幅29cm・高さ23cm)の倍以上ある。

比較

これくらいの差。多分等倍出力だとA3が複数枚必要。ご家庭・コンビニでは難しいですな。

そこで、元画像を(カラーバー等も含めて)A3用紙1枚に収まるように出力(高さ29.7cmになるように縮小)してみるとサイズはどうなるか。さらにそれに原寸アマビエ平等院札『尼比恵』を並べてみるとどうなるか。

まじめに

なんかすげえしっくり来る。

さらに「京大図書館デジタルアーカイブ公開画像A3出力アマビエ」と「A6プリント想定平等院『尼比恵』」を重ねてGIF化したのがこちら。

奇跡の一致。

というか、ボリューミーな髪の毛の配分目・耳(?)・嘴(?)の位置足ひれ(?)の位置・分かれ方、背景の波濤の位置、さらにはその微妙な傾きまでありとあらゆる部分が細かいところまで一致。読売新聞記事にあるような「模写」ではこうは絶対になりません。不可能です。

というわけで、あくまで個人的所見ではありますが、平等院の『尼比恵』は、現在ネット上で入手できる情報群から勘案・推察するに、

京大附属図書館デジタルアーカイブで公開されたアマビエ(+カラーバー等もろもろ含む)画像A3で『用紙に合わせる』的な設定で出力したものをさらにトレスしたものという条件に限りなく限りなく近いもの」

であるといえると思います。

理論上、相似を保ちつつ拡大することは当時もやろうと思えばできたかもしれませんが、正直そこまでする意味が無いうえにこんな現代のPC上での作業に匹敵する精密変倍が可能な人間がいたとしたら歴史に残るレベルの超絶変態技巧の持ち主です。そんな技術をたかが瓦版の複写に使うか?という話で。

まあそんな超人がいて、大量複写に適した木版という手段をあえて択ばずに当時ほとんど類例のないトレス技法を駆使し、『尼比恵』を皆に広めんとその腕をふるい、さらにその甲斐あってか信仰の域にまで至っていたことがその他資料も含めた考証・検証作業を経て証明され、まさしく今回の『尼比恵』は京大附属図書館資料に記載された「アマビエ」と同一である確定されれば、それはそれで歴史を覆す超大発見ですので、登録博物館もお持ちの平等院様におかれましては是非誰もが納得する実証をお願いしたく、大いに期待しております。

といったところで今回の記事はおしまいです。どっとはらい。

※追記(2021/05/16 16:30追記)

どうも平等院の『尼比恵』原本のサイズ、15cm×10cmくらいの実に現代的なハガキサイズのようですね。このサイズの和紙は「和紙 ハガキサイズ」「和紙 ポストカードサイズ」等で検索すればいっぱい見つかります。「無地 手漉き」なんてつけるとまさに「それっぽい」のも。

大元の(転売の被害に遭った)ナンブ寛永さん作「アマビエ」札のサイズが14cm×7cmということで、それに最も近くて既製品で入手するとすればこのあたりが一番手っ取り早いんじゃないでしょうか。

それが平等院の『尼比恵』とほぼ同じサイズっていうのはたぶん

画像7

※追記2(2021.5.17 18:30)

工作を楽しんでみました。



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