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ダブルケアについて考える


2月11日10時から「ダブルケア」研究の第一人者である相馬直子先生のお話を伺いました。

相馬先生は、2011年の東日本大震災後に、ご友人が言ったひとこと、「私、子育てと介護のダブルなんだよね」、からダブルケアという認識をしたとのことでした。相馬先生自体がケアラーであったということで、精力的に研究をすすめておられます。

本講演は、主に2023年にソニー生命が相馬教授とブリストル大学の山下先生の協同で行ったインターネットアンケート調査から見えてくることを中心にお話しされました。

https://www.sonylife.co.jp/company/news/2023/nr_240125.html#sec1

アンケートの調査結果についてはリンクからご覧いただくとよいかと思います。


ダブルケアとは?

相馬先生によると、「育児と介護が同時進行しなければならず、責任や負担、ニーズが様々にのしかかってくる状態。」

そして、広い意味では、親子関係のみならず、親族など親密な関係下での複数のケアが同時進行し、ケア責任、負担、ニーズが複合的にのしかかってくる状態のことを指すそうです。

アンケートによると、実際にダブルケアを経験した人であっても、自分がダブルケアをしていると認識している人は約5割ほどでした。半数の人は「ダブルケア」という言葉を知らずにダブルケアをしていたということです。

そうはいってもたった12年で、これだけの人がダブルケアという言葉を認識しているのは驚きました。それくらい、キャッチ―で当事者意識を持ちやすい言葉なのだと思います。


ケアラーが感じている具体的な困難感

ダブルケアに直面しているケアラーが感じている具体的な困難や感情は以下の通りです:

  • 子育ての負担の偏り: 特に母親に子育ての負担が偏りすぎている点が指摘されています。支援は存在するものの、その内容が不十分であったり、手続きの複雑さがさらなる労力を要求しています。

  • 自由時間の不足: ダブルケアの状況にあると、ほとんど自由な時間がなくなると感じています。特に、子どもが寝静まった後にでも利用できるような、夜間の電話相談サービスの不在が課題とされています。

  • 手続きの煩雑さ: 複数のケアに関連する手続きが煩雑であり、時間がかかるうえに、オンラインで完結しないことが不便と感じられています。


Caring Democracy

「Caring Democracy」とは、ケアを社会的価値として再評価し、それを民主主義の基盤とする考え方です。この概念は、ケアの不足が民主主義の不足であると考え、より人間らしく、ケアに満ちた社会構築を目指しています。これは、個々の当事者に近い支援者が当事者の葛藤や孤立を理解し、当事者を中心につながることを意味します。

「Caring Democracy」の考え方は、以下の5つの要素に基づいています:

  1. Caring about: どのようなニーズがあるのか

  2. Caring for: 誰に対しての支援か

  3. Caregiving: ケアを提供する立場の人

  4. Care-receiving: ケアを受ける立場

  5. Caring With: 連帯や正義、公平を基盤とした共同のケア

このアプローチは、社会全体が互いにケアし合い、支え合うことを通じて、より公正で包括的な社会を構築することを目指しています。この視点からは、ケアは個々人の責任だけではなく、社会全体の責任として捉えられ、政策や制度、社会的態度においても反映されるべき価値とされています。


「選択」の幅を広げる取り組みが必要

相馬先生は、ダブルケアラーにとっては「選択」の余地がない実態があると指摘しています。ダブルケア当事者は親、娘、妻、嫁、職場での複数のアイデンティティを葛藤させながら複数のケア責任に直面しています。このような背景の中で、責任を分担する人の不足、地域資源の不足、ダブルケアラーにとって利用しづらいサービスが存在していると述べています​​。

また、ダブルケア問題の解決に向けて、個々のケア責任を強いるのではなく、支援体系や社会構造の改善を求めています。ジェンダー構造や労働市場の構造、対象別の近代社会政策の非効率性や政策不足などのマクロレベルの問題に対処することで、ダブルケアラーの負担を軽減し、「選択」の幅を広げることを提案しているとのことでした。


「磁石」としてのダブルケア

相馬先生は、「磁石」というメタファーを使ってダブルケアを表現していました。

たとえば、Bさんはフルタイムで働く母親で、小さな子どもを育てながら高齢の親の介護もしています。このダブルケアの状況は、Bさんにいくつかの社会的課題を経験させることになります。

性別に基づく役割の期待: 社会からは、Bさんに対して母親として、また娘としての「ケアする役割」が強く期待されています。これは、性別に基づく役割分担の観念が根強いことを示しており、Bさんにとって大きなプレッシャーとなります。

職場の長時間労働文化: Bさんの職場では、長時間労働が当たり前とされています。しかし、ダブルケアの責任を担うBさんにとって、長時間労働は育児や介護との両立を困難にし、ストレスや疲労を増大させます。

不安定な雇用状況: Bさんは契約社員として働いており、雇用が不安定です。このような状況は、経済的な不安をもたらし、ダブルケアの負担をさらに重くします。

これらの社会的課題は、ダブルケアをする人々にとっての「磁石」として機能し、さまざまな問題を引き寄せます。
一方で、Bさんの周りでは、友人が時々子どもの面倒を見てくれたり、同僚が介護の情報を共有してくれたりするなど、支え合いのネットワークが形成されていく場合もあります。このように、ダブルケアの状況がコミュニティ内での支援と連帯を促進することがあります。


具体的な取り組み

ダブルケアに関して、以下のような具体的な取り組みが行われています:

  1. ダブルケアカフェ: ダブルケアラーが情報交換や悩みを共有するためのカジュアルな集まりを提供しています。

  2. 地域ケア会議でダブルケアを扱う: 地域のケア会議においてダブルケアの課題を取り上げ、地域全体でのサポート体制を検討しています。

  3. ダブルケア総合相談窓口(堺市): ダブルケアに関する一元的な相談窓口を設置し、必要な情報提供やサポートを行っています。

  4. ダブルケア支援人材育成(京都府): ダブルケアをサポートする専門人材の育成に力を入れ、質の高い支援を提供しようとしています。

  5. 育児と介護の情報統合・ハンドブック(岐阜県・岐阜市はじめ各地): 育児と介護に関する情報を統合し、ハンドブックなどを通じて情報提供を行っています。

  6. 自治体レベルの実態調査(堺市、北九州、広島、北海道など): ダブルケアの実態を把握するための調査を自治体レベルで実施し、その結果に基づいて対策を講じています。

  7. 保育・特養の入所基準の見直し(堺市、大阪市、横浜市、世田谷区(緊急保育)など): 保育所や特別養護老人ホームなどの入所基準を見直し、ダブルケアラーを優先するなどの対応を行っています


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