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「遠距離介護と仕事の両立」Day 16: 事業対象者?

Day 16: 事業対象者?

地域包括支援センターの佐藤さんは、敏江に対していくつかの質問をした。その結果をみて、うなずきながら、敏江に話しかけた。「敏江さんはまだ要支援の状態ではないものの、最近は体力の低下を感じており、特に長時間の家事や階段の上り下りで疲れやすくなっているのですね。また、外出や人との交流が減りがちで、地域とのつながりが少なくなっているかもしれませんね。」
敏江もうなずいた。佐藤さんは「これらの結果から、敏江さんは「事業対象者」と考えられます。この状態は要介護状態や要支援の状態ではありませんが、今後支援が必要な状態になると思われる状態のことです。介護の必要な状態になることを少しでも遅らせるように、してみませんか?通所サービスや訪問介護などを利用すれば、敏江さんが将来的に介護状態になることを遅らせることができたり、日常生活が少し楽になりますよ。」と丁寧に説明した。

しかし、敏江はサービスの利用に抵抗感を示した。「今更交流なんてしたくない」「他人に家の中に入られるのは嫌だ」と言い、横を向いてしまった。
洋子は、敏江がもともと一回いやだといったら曲げない頑固であることを知っていたので、「無理にお願いするわけじゃないけれど、困ったときは頼ってほしい」と慎重に提案した。
洋子は遠距離介護を行っているため、今回のように直接支援に来られるのは限られている。だからこそ、早めのタイミングでのサービス利用を開始してほしいと感じていた。

敏江はしばらく考えた後、「もう少し自分で頑張ってみるけれど、本当に困ったら頼むかもしれない」と、少しだけ心を開いた。洋子はその言葉を聞き、安心しつつも、引き続き敏江のことを気にかけていた。


「事業対象者」とは何か
敏江のように、まだ要支援や要介護の認定を受けるほどではないが、将来的に支援が必要になるリスクがある人を指します。この段階では、身体的な衰えや社会的孤立が少しずつ見られるものの、日常生活に大きな支障はない状態です。佐藤さんは、このリスクを減らし、介護が必要になるのをできるだけ遅らせるために、予防的な支援を受けることを勧めています。具体的には、訪問介護や通所サービスを利用することで、敏江の日常生活が楽になり、将来的な介護リスクを遅らせることが目的です。

敏江の抵抗感と心理的背景
敏江は「他人に家に入られるのは嫌だ」「今更、交流なんてしたくない」と強く拒否します。この反応は、彼女の強い自尊心が影響していると考えられます。特に、高齢者にとって「他人の介入」というのは、自分の生活やプライバシーが侵される感覚を抱きやすく、心理的抵抗が強くなることがよくあります。また、長年一人で生活してきた敏江にとって、他人に頼ることは、自分が弱くなったと認めることになるため、精神的な葛藤が生じています。
この状態でサービス利用を強要すると、自尊心が傷つき、支援をしている人に対する被害妄想や配偶者に対する嫉妬妄想が生まれることがあります。

洋子の慎重な提案
洋子は遠距離介護を行っているため、頻繁に直接支援を提供することができない状況です。だからこそ、敏江が早めに外部の支援を受けることが重要だと感じています。敏江の強い性格を理解している洋子は、無理に強要することなく、あくまで「困ったときに頼ってほしい」と、敏江の意志を尊重する姿勢を示します。このような柔らかいアプローチは、高齢者が支援を受け入れる際に非常に重要なポイントです。

敏江の心の揺らぎ
敏江は初めは強く拒否したものの、しばらく考えた後で「もう少し自分で頑張ってみるけれど、困ったら頼むかもしれない」と少し心を開きます。この発言から、敏江は完全に拒絶しているわけではなく、時間をかけて自分の気持ちを整理しながら、サポートを受け入れる可能性があることが示唆されています。
サービスの利用までには数か月から年単位を要する事例まであります。サービスの強要は良いことにはつながりません。確かに転倒や鍋焦がし、肺炎などのリスクもありますが、じっくり時間を味方につけたかかわりをしていくことが、結果として早道となると思っています。


次回: Day 17 - サポート体制の模索洋子はサポート体制を模索し始めます。続きが気になる方は、スキ、シェア、フォローして次回をお楽しみに!




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石原哲郎|脳と心の石原クリニック院長
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