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「課題ドリブン」の法律事務所作り

「もし自分がこれから全く新しい企業向けの法律事務所を作るとしたら、どんな法律事務所を作りたいか」という点について、何回かに分けて、私見たっぷりの妄想をつらつらと綴りたいと思います。

第4回は、「課題ドリブン」の法律事務所作りです。

今回は、田所雅之さんの「起業の科学」を参考に話を進めたいと思います。初回に述べた通り、私には法律事務所や会社経営の経験はなく、仮説に仮説を重ねたものですので、「いやいやそんなに甘くないよ」、「そんなにうまくいったら苦労はしない」といったご指摘いただければ幸甚です。

これまでに頂いた反応

これまでの一連のnoteに対して、実際に事務所を経営されているお二人の弁護士の方々から、とても貴重なコメントををいただきました。柴田先生、山本先生、誠にありがとうございます。誤解を恐れずにまとめさせていただくと、

カスタマーサクセスを充実させたり、UXを高めるためには、人手(すなわちコスト)がかかるため、十分な利益をあげられるか、また、必要な人材を確保できるかどうかが課題となる。

ということと理解いたしました。


(私の顔が二回も出てきて、うっとおしくてすいません。)

どうやって利益をあげるのか?

利益を上げるためには、売上をあげるか、費用を抑えることが必要です。

売上をあげるためには、単価をあげるか、クライアント数を増やすことが必要です。このうち、クライアント数を増やすために安価で面を取りに行くモデルは難しいと思います。理由は、UXが下がることと既に競合がたくさんいるからです。

どうやって単価をあげるのか?

単価をあげるためには、Willing To Payを高める必要があります

では、Willing To Payを高めるためには、どうすればいいのでしょうか。一つは、提供するサービスの希少性を高めることで、市場価値を高める(専門性を高める・大規模化など)ことです。もう一つは、クライアントがいくら払ってでも解決したいと考える課題を発見して、ソリューションを提供すること(課題ドリブン)だと私は考えました。

私は、過去から現在に至るまで、法律事務所の経営においては、前者の考え方が支配的だったと考えています。しかし、弁護士人口の増加とインターネットの発展により、弁護士のサービスの希少性は下がり、単価は上がるどころか下がっています。また、インハウス弁護士の増加により、法律事務所は、他の事務所のみならず、インハウス弁護士との競争にも晒されることになります。さらに、テクノロジーの凄まじいスピードの進化を目の当たりにすると、個別の法分野やインダストリー毎の専門性ではもはや対応できない事態も起こっています。

ここで「起業の科学」の知恵を借りるとすれば、新しい法律事務所は、「課題ドリブン」で作り上げることが求められます。法律事務所がクライアントすら気づいていない課題を掘り返し、それに対するソリューションを提供できれば、Willing To Pay、そして単価は自ずと向上していくのではないかというのが私の仮説です。考えている「課題」仮説は色々とありますが、ここには書ききれないのでここでは割愛します。

個人的には、本当の意味での法律事務所のUXの改善は、小手先の技術で達成できるものではなく、こういった「課題」の解決の先に達成されるものだと考えています。

これを達成するためには、「課題の発見と検証」に付き合っていただける、新しい法律事務所のビジョンやカルチャーに共感を覚えてくれるアーリーアダプターとしてのクライアントの存在が不可欠です。そして、これは、弁護士がより会社の内部に入り込み、法務だけではなくビジネスサイドとも密なコミュニケーションを取ることによって、初めて可能となります。

と、ここまで「起業の科学」をベースに話を進めてきましたが、法律事務所に、「起業の科学」をそのまま当てはめることはできません。なぜなら、法律事務所はスタートアップではなくスモールビジネスだからです。法律事務所は、(少なくともダイレクトには)外部からの資金調達を行うことができません。つまり、赤字を出すことは許されません。これが、最初に述べた柴田先生と山本先生のご指摘に繋がります。

どうやって費用を抑えればいいのか?

従来の法律事務所が当たり前のように支払ってきたコストについて、ゼロベースで見直すことが必要になります。すなわち、課題の発見と検証、ソリューションの提供、あるいはUXの向上に寄与しないようなコストを徹底的に削減する必要があります

例えば、もっとも大きな固定費は人件費と事務所賃料かと思いますが、半常駐やリモートを基本にするのであれば、割高な駅前に立派な法律事務所を構える必要性は乏しくなり、また、会議室スペースも不要(または、シェア会議室で足りる)かもしれません。また、既存のテクノロジーを使いこなすことにより、バックオフィスの人件費を削減できます。個人技に頼り、後回しになりがちなナレッジマネジメント(暗黙知の共有)を徹底する文化を作り上げ、さらにはテクノロジーと組み合わせることで、作業時間の大幅な短縮が可能になるかもしれません。

また、これは、課題の発見と検証、ソリューションの提供、あるいはUXの向上のため(すなわち、直接的にクライアントのためになること)にお金をかけることを可能にします。作業の効率化やUXの向上に資するサービスを自ら開発することも有用かもしれません。そして、この点については、工夫をすれば外部資金の調達が可能かしれません。

このように、法律事務所のコスト構造について、「クライアント起点」で再構成する必要があると考えました。小さく始めて大きく育てる発想です。これらは、意識的に進めないことには絶対に実現不可能です。

人手不足の懸念にはどう対応すればいいか?

弁護士の数が限られていることもあり、この業界はそもそも採用が簡単な業界ではありません。

しかし、法務人材やロースクール出身者などの法律のプロフェッショナルをもっと法律事務所に巻き込んでいけないかと考えています。独占業務の外側では、無資格者と有資格者の間に優劣はありません。適材適所で相互に得意・不得意を補完し合いながら、きっと価値を高めあえるはずです。

また、弁護士業界には、弁護士人口の急増により、先行者がパイの大部分を得てしまい、若年層が十分な待遇を得られないという構造的な問題点があると感じています。もし、新しい法律事務所について、魅力的なビジョン・カルチャーを提示することができ、ビジネス的にも軌道に乗せられることができれば、気概のある若手弁護士を惹きつけられる日もくるのではないかと想像しています。

まとめると…

思いつくままに取り留めもなく綴ってまいりましたが、言いたいことをまとめると

法律事務所が、クライアントの課題を能動的に掘り返す「課題」を起点として、組織・文化・コスト構造をゼロベースで作り上げるアーリーアダプターになってくれるパートナーが必要資格の有無に関わらず、ビジョンに共感してくれる人材を巻き込む

前回は、組織と文化の重要性について考えてきましたが、(スタートアップではなく)法律事務所である以上、お金の問題から離れることはできません。この辺りは私自身、経験が足りないこともあり極めてふわっとした妄想を垂れ流してしまいました。

ご意見・ご感想などございましたら、ぜひ(お手柔らかに)いただければ幸いです。

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