金縛りの話(2020年ごろのスケッチ)

夜、私はソファで寝ている。テーブルには夕食の食べ残しがそのままになっていて、私は風呂にも入っていない体で、ソファにのけぞるように寝ている。最後の意識を振り絞って、リモコンで照明を消した。
私は半分眠りながら、玄関のカギを閉めたか気にしている。けれども体は動かない。脳と身体が切り離されて、不随意運動以外の動きがままならない。

それは、以前住んでいた部屋だ。高速道路の高架のすぐ横の、2Kのアパート。和室だったのを無理やり洋室にしたせいで、ふすまが異常に重たい。そして三角形の一角をぶった切ったような、不思議な間取り。洗濯物はいつも、排ガスの匂いがした。

軽い圧迫感を覚えつつ、私は誰かが玄関を開けて入ってくるのを感じた。もう間に合わないが、早く目を覚まして何かの行動をとらないと。私は知っている、そいつは悪意をもっている。私の身体は動かない。
奴は私のすぐそばまで来た。私は目を開けることもできず、奴が何をしようとしているのかが分からない。圧迫感が強くなる。私は息をすることも苦しくなって、それでも身体は動かない。

何をしようとしているんだ? この距離なら何でもできる、殺すことだって容易だ。私は何の抵抗もできない、危機が迫っていることをよく知っていながらも、されるがまましかできないのだ。
やがて、脳と身体が徐々に連携を始める。私は、身体が動くようになったらテーブルの上のナイフを掴もう、と考える。あと少しだ。

そして、ようやくソファから飛び起きる。部屋には私しかいない。

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