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「親ガチャ」、子供にとって「ハズレ」の親とは

「親ガチャ」という言葉が話題になっている。

一部では「親ガチャ」について、「親に経済力があるか」「習い事や校外学習など能力を伸ばしてくれる環境があるか」等……つまり今風に言えば、実家が「太い」(裕福である)かどうかに焦点が当てられている。しかし俺が思うに、そういった裕福な環境に生まれ落ちても、心を病んだり、犯罪に走ったりする子供はいる。それは拙著『「子供を殺してください」という親たち』でもさんざん書いてきたことだ。

俺は親からの依頼で、心を病んだり犯罪に走ったりした多くの子供(といっても俺が会ったときにはすでにいい大人なのだが)に携わってきたが、遺伝子や気質など、本人の努力ではどうしようもないものを持たされて生まれてくる人間も、確かにいる。それでも、「もし親が違ったら、もうちょっとマシな人生になっていただろうな」と思うことがある。親が裕福かどうかは関係ない。

もちろん、親が裕福であれば、子供が享受できるチャンスが増えることは事実だろう。だけどそういう親たちの中にも、ガチャで言うところの「ハズレ」の親はいる。つまり「ハズレ」に関しては、貧富や学歴・肩書きの有無に関係なく、存在するっていうことだ。

俺が究極に「ハズレ」だと思う親は、「子供を自分の手駒としか見ない。一人の人間として尊重しない」親だ。

分かりやすい例で言えば、子供を虐待する親。産後うつなどメンタルヘルスの問題が原因の場合はさておき、精神的・身体的虐待は、我が子を自分の「感情」の捌け口としてしか見ていないからこそできる行為だ。しかも虐待をする親に限って、第三者から指摘を受けると「私だって大変なんだ。こんなに大変な中、子供を育てているんだ」と言う。また、「誰が何と言おうと、この子の親は私だけなんだ」と、やたら「親子」を強調するのも特徴である。子供に健全な愛情を注いでいないくせに、子供には「いい学校に行け、金を稼げるようになれ、それで親孝行しろ」と圧力をかける。

高所得・高学歴の家庭であっても、本質的に同じことをしている親がいる。「親としての体裁」「家族の見栄え」を良くしたいがために、子供に「どこその学校を目指せ」「〇〇になれ」と強要する。子供にそれだけの能力がないと分かるや否や、ひどく落胆する。

高所得・高学歴の親たちは、世間体があるから即座に子供を捨てることはない。表面的には方向転換して、子供の言うことを聞いたり、やりたいことをやらせたりする。でも内面ではすでに、子供を切って捨てている。俺の前で、「自分のキャリアはすべてうまくいっていたのに、この子だけが唯一の失敗だ」と嘆いた親もいた。子供を自分の「感情」でしか扱っていないのだ。

子供は親の本音が分かっている。いつか手の平返しをされて本当に捨てられるのではないかと怯えてもいる。だから、幾ら小遣いをもらおうと、好きな生活をさせてもらおうと、親への憎しみを募らせていく。

2019年に、元農水事務次官が長男を殺害した事件があった。長男がひきこもりで親に暴力を振るっており、そんな長男に対して、父親は職探しやコミケ出品を手伝っていたという報道もあり、世間は父親に同情的だった。だけど俺は、この父親は本心では長男を認められず、「恥ずかしい息子」という気持ちがあったのではないかと思う(このことは、当時もnoteに書いた)。

裕福な家庭では、衣食住など目に見える部分でのSOSが発せられないため、第三者が介入しづらく、子供の歪みにも気づきにくい。その子がだいぶ大人になって、内面をこじらせまくってから、俺のような人間に相談に来る。

子供は決して、親の思い通りになどならない。親がいくら知能指数や身体能力に優れていたとして、その才能を受け継ぐとは限らない。才能を受け継いだとして、子供がどんな生き方を選択するかはまた別の話である。それなのに親は、往々にして他者からの評価を恐れるあまりに、自分が「知っている」「見ている」範囲の小さな「枠」に押し込めようとする。

親に抑えつけられ、虐げられて育った子供ほど、親がひた隠しにしてきた親自身の性格や悪癖……たとえば性格のひねくれた部分や、手癖・酒癖・性癖などを受け続いで開花していく。親は問題ばかり起こす子供を見て、「誰に似たのか……」と嘆くけど、いやいや、それは親から引き継いだ要素の一つであり、親の感情的な子育てが、そのコックを全開にしちゃったんだよ、と俺は思う。

親から子供に対しては、身体だけでなく「心」、「魂」の殺人もありえる。身も心も殺されるレベルの環境で育って、諦念の境地で「親ガチャ」という表現を使っている子供もいると思う。そんな「ハズレ」の親など、子供から切って捨てるしかない。だが日本では、まだまだ家族の絆を押し付けられる場面が多い。精神科医療においても、退院後の帰属先は「家庭」がスタンダードだ。社会が寛容になり、困った子供が駆け込める受け皿が増え、「ハズレ」の親などポイッと捨てられるようになればいい。

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