しっとりすぎる英語歌詞!Official髭男dism『Pretender』by Anonymouzを【徹底解剖】
Official髭男dismのMVを見たとき、台湾か香港のような風景に懐かしい気分を覚えました。
アジア1人弾丸ツアーに行った時に見たまんまの風景がPretenderのMVから垣間見えたからですね、きっと。
で、調べてみたらやっぱりこのMVの撮影地は台湾でした。
撮影地についての詳しい記事はこちら。台湾観光ドットコムさんの記事です。かなり詳しく書いてあって笑っちゃいました。
動画のサムネからチラッと見える「東方電影」なんてまさに存在しそうな映画館の名前だし(中国語で電影diànyǐngは"映画"の意味)。
しかも繁体字なので香港か台湾かマカオに絞られる(中国大陸は簡体字なので"電影"が"电影"になる)。
この動画を懐かしいな~なんて繰り返し眺めていたら、なんとまた英語Ver.を見つけてしまいました!!
あまりにもしっとりするメロディと英詞、そして歌唱。
またまたピアノも超絶おしゃれ。そして歌詞の気持ちよさ。素晴らしい。
これは徹底解剖しないわけにはいかない!
ということでYOASOBIの『夜に駆ける』に引き続き徹底解剖です。
と、ここで英詞を読み解くワンポイント。
①T, D, G, Hは脱落四天王なのでよくどこかにいなくなる。英語の歌詞の中でTやDが太文字になっていたら脱落しているという意味です。歌いません。発音しません。
②英文法で必須なはずの主語はたまに発音されない
他にも☆印で豆知識を散りばめながら解剖していくつもりです。
歌詞解剖
まず冒頭。のっけから素晴らしすぎます。
ストーリー×予想通りで踏まれた※脚韻がいとも簡単にour love story×no need to worryで返されています。
冒頭にして最大の山場、というくらい難易度高めでしたがレベルが高すぎる返しに拍子抜けしました。
00:00
英詞の表現もたまらん。
ひとり芝居≒monodramas。monoは英語の※接頭辞で1つを表します。
身近にもよくmonoは出てきます。例えばモノトーン(monotone)、モノレール(monorail)など。モノトーンは声色が1本調子、モノレールはレールが1本しかありません(電車は2本)。他にも経済の話でモノポライズ(monopolize)が出てきたら1人で独占する、小説でモノローグ(monologue)が出てきたら1人での独白シーンです。
他にもモノクローム(monochrome)は白黒という意味なので、Googleのウェブブラウザ「chrome」がもし「monochrome」だったら今のように赤、黄、緑、青とカラフルなデザインではなかったかもしれませんね。笑
ちなみに、ギリシャ語で1, 2, 3はmono, di, triです。
☆接頭辞を知っていると英語の試験や日常生活で分からない単語が出てきても冷静に意味を推測することができるようになります。特に英検の語彙レベルは高くて歯が立たないときもあるので、この接頭辞はとても役に立ちます。
ひとり芝居≒monodramasと訳されていますが複数形のsが付いていることに注目。ラブストーリーは1人ではできませんし、相手のmonodramaと主人公のmonodramaが切なく色めいているのがこの単語1つから想像できちゃいます。色がないのに色めいちゃうこの素晴らしさ、なんとも言えません。
結局ただの観客だ≒We are both just strangers in the darkもいいですね。
「We are both just strangers」だけで「ただの観客だ」というニュアンスが出ているのですが「in the dark≒暗闇の中で」が付けたされることにより完全に成立していないラブストーリーであることを強調しています。
脱線してしまいますが、彩り鮮やかな曲っていいですね。テイラースイフトの曲中にも赤や黒や青など頻繁に出てきて感動したことを覚えています。
00:18
ここは冒頭の「ストーリー×予想通り VS our love story×no need to worry」よりもさらに魅力的な英詞になっています。
アイムソーリー×いつも通りをI am sorry×kinda blurryで打ち返していることはもちろんですが、着目すべきはその中身!
「All the false 'I am sorry' s made our love kinda blurry≒"ごめんね"の言葉が僕らの恋を曇らせていた」と訳すとは味わい深い。
☆kindaはkind ofの省略形。単体で使えばkind of≒まぁね、という相槌にもなるしI'm kind of busy≒ちょっと忙しいんだよね、という表現にもなります。
☆last≒続くという意味の動詞。How long will it last?≒どれくらい続くの? は定番表現。
☆reason I は引っ付いてresonI(リーズンナイ)になります。知ってるとカラオケが上手に。
00:38
曲調もこれまでタラララ~タラララ~だったものがBメロでウンタッタ♪ウンタッタ♪に変化。小気味が良い。
英訳の難しい「世界線選べたらよかった」を「not in this world」でそつなくまとめて、1行目のJust some other relationsと3行目のjust with other emotionsでちゃっかり韻を踏んでいる。さすが抜け目がない。
☆ちなみに日本語の「エモい」はこの「emotion」から来ています。emotion≒強い感情、情緒という意味です。「エモい≒得も言われぬ」という説もあり言葉の面白さを感じます。
そして心を打たれたのは「If I had met you somewhere else, just somewhere else not in this world≒もし違う場所で会えていたのなら」の滑らかさ、しっとり加減。
※リンキングサウンドがここぞとばかりに表れて、まるで全部まとめてひとつの単語かのような滑らかさが表現されています。
※☆英語には前の単語と後ろの単語が繋がるリンキングサウンド(linking sound)というものがあります。このおかげで我々日本人が英語を聞いた際に"速い"と感じてリスニングについていけなかったり、単語を聞き逃したりしてしまいます。体育が「たいく」になるイメージだと思えば分かりやすいですね。
☆逆に、このリンキングサウンドを抑えておけばリスニングについていけたり、単語を聞き逃したりすることがなくなる。
カタカナで歌詞を無理やり書くとこんな感じ。「イファーイハメッチューサムウェアルス、ジャスサムウェアルスナーインジスワー」。典型的なカタカナ読みが「イフアイハッドメットユーサムウェアエルス、ジャストサムウェアエルスノットインディスワールド」であることを考えれば、明らかに語数が減っていることに気づくはずです。
これがリンキングサウンドです。
比べてみると明らかですね。ぜひ文中の「/」で区切って読んでみてください。読み終わるまでにかかる時間の違いにびっくりしますよ。1秒くらい差が出るはずです。
この1秒が大きい。この読み方で音楽に合わせて口ずさんでみると綺麗に歌えることにびっくりするはずです。知っていれば簡単ですね。リスニングも同じ要領です。
「愛を伝えられたらいいな」のいいなが「and change how we are」のwe areとドンピシャに重なっているのが何気に点数高いです。
☆「Just with different values≒違う価値観で」のdifferent valuesは覚えておくと便利な表現です。"価値観"といざ言おうと思ってもなかなか出てこないので。
I understood your values≒君の価値観は理解したよ、は外国人と話をするときに必須ですね。あとはfrom my perspective≒私の視点から言うと、が似た表現だと思います。
☆valuがあるもの→valuables≒貴重品、という意味もあります。your belongings≒持ち物、も関連表現。
01:04
さぁ、いよいよサビです。
いや~、それにしても非常にいろんなものが詰まったサビになっています。
まず英語の最大の特徴「先に結論から言う」がいきなり炸裂しています。
「It's not me~♪」うわ~結論きた~。とグサグサ刺さりました。日本語だと「君の~運命の~ヒト~はぼ~く……」を聞きながら「じゃない」を待つ心の余裕があるのにit's not me!! と激しい否定。メンタルやられました。
メンタルやられたそばからit's not me, destinyの韻でさらにえぐられる精神。耳が忙しくて過労死寸前。
destiny knows I'm not the one for you≒私はあなたにとっての正しい人じゃないと運命は知っている(直訳)、がいかにも英語っぽい。※無生物主語ですもんね。
※無生物主語:日本語だと私やあなたといった生きているものが主語になりやすいですが、英語は生きていないものも頻繁に主語になります。
そういえば00:18にも無生物主語がありました。
All the false 'I am sorry' s made our love kinda blurry.≒"ごめんね"の言葉が僕らの恋を曇らせていた。
やっぱり無生物主語があるとびしっと英語らしく決まる気がしますね。
☆the one≒正しい人、運命の人。似た表現にthe right person≒運命の人、があります。
そしてmean。これは非常にトリッキーな単語で文脈によってコロコロと意味が変わります。単純にmean≒意味ですし、He was very mean to me≒彼は意地悪だった、という意味にもなります。
もうこの単語自体が難しすぎてvery mean to me≒意地悪、ですよ。笑
ここではmeant to beとmeanの過去形meant+to beの形になっていますね。「mean to≒するつもり」→「meant to be≒させられた」→「meant to be≒運命づけられていた」なのでしょう。否定形のnotが付いているので「not meant to be≒君の運命のヒトは僕じゃない、それも否めない。そう運命づけられているから」という訳し方です。
『destiny』は僕が君の運命のヒトじゃないと知っていて、僕は君の運命のヒトじゃないと『destiny』に運命づけられているわけですよ。なんとも切ない……。もうどうしようもないじゃないですか!
そしてこのサビ最後の難関。「その髪に触れただけで痛いやいやでも甘いな いやいや」です。日本語の直接表さない奥ゆかしい表現でとても好きなのですが、これを直接的な表現を好む英語で表そうとするとかなり骨が折れます。
実際に自分が「その髪に触れただけで痛いやいやでも甘いないやいや。を通訳してくれ」と言われてもその意味を一発でスカッと伝えられる自信はありません。笑
なのでこの表現をどうやって英詞に落とし込むのかとても興味がありました。
英訳は「When I touch your hair it really tears me apart inside inside my heart 」「indulgent thoughts invite me in」となっています。
意訳すると「あなたの髪に触れると心の奥の奥が引き裂かれる」「甘い誘惑に誘われて」となるでしょうか。う~ん、素晴らしい……。
正直私は歌詞を聞いた時「痛いやいやでも甘いないやいや」の意味があまりよく分かっていませんでした。きっとメロディに合わせるための言葉選びというか、悪く言ってしまえば空白を埋めるための言葉だとさえ思っていました。だってぴったり音にハマっているんだもん。むしろ特別な意味なんてなくても大丈夫だと思わせるくらいに。
でも、違いました。ごめんなさい。ただの間に合わせのための「いやいやいやいや」ではありません。それは Anonymouzの英詞を見れば明らかです。
ここでは「あなたの髪に甘く誘われる私」VS「僕は君の運命のヒトじゃないと知っている私」の激しい葛藤が描かれているのです。
いやいやいやいやにココまで詰まっているとは。いやいや髭男おそるべし、いやいや。
きっとあなたの髪に触れることは抗えない欲望のはずなんですよ。しかし、僕と君とは生きる世界線が違う。だから胸が痛いのです。心の奥の奥が引き裂かれるのです。う~ん、なんと素晴らしいサビよ…………。エモい。絶句です。
☆「甘く誘われる私」と似たような表現は1999年発売のaikoの名曲『カブトムシ』の中にもありました。
01:29
不思議と日本語だとドストレートすぎるって感じてしまう「君は綺麗だ」も英訳するとごく自然な「You are beautiful」に落ち着きますね。
もちろん歌詞も素晴らしいのですが、ここでは声の素晴らしさに感銘を受けました。
「I'll never know the reason why, honestly I never wanna know」の「why, honestly」のところで声がイっちゃってるんですよ。高い声がピーンと。遠くに抜けるって言うんですかね、うまく言い表せないんですが曲のスパイスみたいで個人的にすごくゾクゾクしました。
☆ちなみに、アコースティックギターを弾いているときに弦が※キュッキュッとなる現象も好きです。星野源の『くだらないの中に』の動画でも00:03, 00:08, 00:11, 00:16, 00:18, 00:32, 00:46・・・と無限に出てきます。アコギいいなぁ。
『引き裂かれるのはinside my heart』で『美しいと思うのはfrom bottom of my heart』。
☆ I apologize from the bottom of my heartは英会話でも頻繁に聞きますね。心からの謝罪、といったところでしょうか。
それから自信はありませんがknowとohで韻を踏んでいる気もします。
それでまたhurtとbeautifulのビブラートが綺麗なことと言ったら。hurtで軽く左ジャブをもらってbeautifulで右ストレート→K.O.くらいました。
☆K.O.=knok out
そしてthereでRの巻き舌音がしっかりと聞こえるのでAnonymouzさんの英語はアメリカ英語じゃなかろうかと推測できますね。イギリス英語とオーストラリア英語はRを発音しないので。
01:48
怒涛の前半を終え、超絶おしゃれな間奏へと入っていきます。
2つのmonodramasが交差する様子がまざまざと見えてくるようなメロディ。
01:50の3連符でグググとさらに奥の奥まで引き込まれます。
02:08
髭男のオリジナル曲にある以下の歌詞はこの英語Ver.には出てきません。
間奏のあと、サビの繰り返しです。
「いたって純な心で」という表現は初めて聞きました。ここの英詞も非常に気になるところです。あなたならどう英訳しますか? 人によって英訳が違うこともワクワク要素のひとつですね!
02:30
それにしても綺麗な音楽に綺麗な声。冒頭で始まったmonodramas。いつまでたっても交差しない雰囲気が続きます。儚い……。切ない……。
02:52
いや~最後の最後まで素敵でした。特に声を落として低音でコーラスしている部分。
私は低音英語が好きです。理由は、男性の場合、英語は低音で話せば話すほど英語らしくかっこよく聞こえるから。口で話すのではなく喉で話す感じですね。
女性の場合はその限りではないので高音だろうが低音だろうが好きなのですが、低音が好きという個人的趣味もありこのコーラス部分には眼福ならぬ耳福でした。
最後の最後まで交差しないmonodoramas。明らかに生きている世界線が違います。この胸が張り裂けるような悲しみは何なのでしょう。非常にエモい曲でしっとりとした素晴らしい曲でした。
と、ここで終わってもよかったのですが、ここまで歌詞を味わうと髭男がどのような気持ちでこの曲を書いたのか気になりました。
ということでインタビュー記事が載っているROCKI'ON JAPAN2019年6月号を購入しました。
インタビュー記事
ROCKI'ON JAPAN2019年6月号の176P~インタビュー記事。タイトルは「快進撃の真っただ中でキメの名曲"Pretender"を放つ!」。
このインタビューの中で心に残ったのは次の部分。
あんまり詳細には書けないので一部抜粋。
う~ん、つい読みふけってしまうインタビュー記事でした。世に放ったらみんなのものという言葉が特に心に残っています。勝手にそれぞれの人生と重なって響くも確かにそうかもしれないな、と思いました。聞く人の数だけ解釈があって良いってことですね、きっと。
Uta-Netの今日のうたにも藤原さん(ボーカル)のインタビュー記事がありました。
どういう思いでこの曲を作ったのかが割とテンション高めに書かれていて面白かったです。
〇前編
〇後編
特に気になったのは後編の次の部分。
Pretenderで頻繁に使われている<世界線>という言葉。あまり日常会話では使わない言葉なのでどこで閃いたのだろうと気にはなっていましたが、まさかアニメからインスピレーションを受けていたとは……。これは見るしかない!
ということでアニメ『STEINS;GATE(シュタインズ・ゲート)』も鑑賞してみることに。
アニメ『STEINS;GATE(シュタインズ・ゲート)』
ただ見るだけでも面白いのでしょうが、せっかくなのでキーワードの<世界線>という単語が作中で何度出てくるか数えながら見ることにしました。
結果は全24話で94回出てきました。
最初は中二病全開の展開+伏線準備の下ごしらえパートだったのであまり面白いとは思えませんでしたが、中盤以降の展開の早さと怒涛の伏線回収に息を飲むのも忘れて見入ってしまいました。
なので<世界線>という単語が出てきていても聞き逃しているかもしれません。笑
グラフにするとこんな感じ。
<世界線>の出現頻度と話の面白さはリンクしている気がします。
前半は下ごしらえなので少な目で、中盤で起承転結の"承""転"を迎え増加、そして終盤は怒涛の伏線回収で<世界線>多めです。
このアニメを見てからもう1度本家のPretenderを聞くとまた違ったmonodramasを楽しむことができました。
いや~奥が深い。面白過ぎる。勝手に私の人生と重なって響きました。Pretender。
以上、英語歌詞の徹底解剖に始まり、髭男のインタビュー記事を読んだり、アニメを見たりと1つの曲の歌詞をいろんな角度から味わう楽しさを満喫できました。
英語歌詞とその歌唱力、そしてピアノが素晴らしいAnonymouz(アノニムーズ)のPretender。It was so beautiful!
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