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とある日の営業マン #49

それはとある日の夜のこと。

自分が所有している車の保険でずっとお世話になっていた方が退職されたということで、別の方に交代することになった。その方はお世話になっていた方の後輩に当たる人であるそう。

ずっとお世話になった方との電話📞。「次の人は、新卒2年目の若手の者ですけど、またよろしくお願いしますね。」

電話は切れた。お礼の言葉も伝えた。

次の人の名前は高橋さん(仮名)。

別に変わった名前でもないし、どこにでもいる名前なので、特に意識していなかった。唯一意識していたことを挙げれば、自分と同じ「社会人2年目」ということくらいだろうか。

そして日が経ち、我が家へ新しい人が挨拶に来るそうだ。

約束時間は夜の18時。時計は18時5分。「遅いな〜、新卒2年目だろ?時間は大事にせな〜。」少し自分の気持ちがピリつく。目の前にはキムチ鍋。早く食べたい。

時計は18時15分。「おい、なんしとんねん。」営業マンは時間が命ちゃうの?と思いっていた矢先。「ピンポーン」家のインターホンが鳴った。

やっとかー、本当に待ったよ。一体どんな人なんだろうか。第一印象はいまのところ最悪だ。

ドアを開ける。父親と一緒に玄関で迎えた。

「こんばんわ、遅くなってすみません。お世話になります高橋です。夜分遅くに申し訳ありません」

すごく丁寧で物腰の柔らかい方。高身長、いかにもスポーツをバリバリやってきたかのような体格。うん、好印象。

そして名刺を渡される。「高橋〇〇」
「名詞ってかっこいいよな〜憧れるわ〜」
みたいなことを考えていて、ふと感じた。

「ん?なんか見たことある名前やな」
「待てよ、顔もなんか見たことあるぞ」

一気に記憶が思い起こされた。
中学校時代にほんの1か月だけ一緒のクラブチームで野球をやっていた高橋くんや。高校でも対戦しとる、あの高橋くんや。

記憶は一方的だった。自分が思い出しただけだ。相手はきっと覚えていないだろう。でも間違いない。一緒にキャッチボールもした高橋くん。

なんだか、懐かしく、嬉しくなった。

世の中って狭いなぁと思った。

高橋くんはキレキレの声と素敵な笑顔で、「また今後ともよろしくお願いします!」と言って、去って行った。

ふと思った。

「今は日曜日の18時だぞ?こんな日に仕事してんの??」

父親は言った。「保険の営業マンなんて、土日仕事は当たり前だわ。」自分の無知さを感じた。

それにしても日曜の18時に仕事なんて、営業もすごい大変なんだあと実感。営業をやってみたいと思っていたけど、ちょっと無理そうだ。それにしても、こんな土砂降りの雨の中、日曜18時に我が家に来てくれた高橋くんを見て、少し自分が情けなくなった。

「ああ、自分はまだまだ未熟者である。」

世の中には大変な中、働いている人がたくさんいる。いろんな働き方で、身を削って、土日も勤務して、生きていくために働いている。日曜日の18時に家族全員でキムチ鍋を食べれる自分は幸せ者なのかもしれない。

働き方を選択するのはその人自身だ。それでも、自分以外の誰かが汗水垂らして働いているからこそ、経済は回り、安心して暮らせて、何不自由ない生活ができる。

自分の仕事に限って、不満ばかりを探して、転職したい理由をかき集め、隣の芝は青いとばかりに他の人を羨む。でも、キラキラしているその人も、旅行ばかり行っているあの人も、もしかしすると、自分の見えないところで沢山の苦労をしているかもしれない。

高橋くんに会って、いろいろと考えた。

中学校のみんなは何しているのかな。
高校のみんなは、どんな働き方をしているだろう。元気にやっているかな。

みんな色々な形で働いている。場所や環境は違えど、僕も頑張っていこう。


キムチ鍋は美味しかった。
「営業マン」
かっこいいな。

今度、高橋くんにイタズラ電話でもしてみよう。

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