見出し画像

「いい買い物をした」という言葉を使うのは、きっと今なんだと思う

これはメガネを買う話。なんだけど、時間を少し戻す。

1ヶ月ほど前、夫が帰ってきたのは朝日がもう昇った時間だった。

お酒が好きで、酒飲みが多く所属する会社に勤めている夫の帰りが朝になることはよくある。その日も例に漏れず、お酒と眠気にふらふらになって帰ってきた。けれど、顔にかかっているはずのメガネがない。

聞くと、どこかで落としたらしい。いい大人が何をしてるんだろう。

スペアのメガネもなくコンタクトレンズ生活を続けていたある日、ふと「ちゃんとしたメガネがほしい」と言い出した夫。そうか、うーん……とわたしが挙げたお店が、下北沢にある『纏オプティカル』だった。以前、仕事でお邪魔したことがあった纏さんは、個性的なメガネが多くて、でもメガネを掛ける人の個性を活かす印象があったから。

お店のInstagramを見せると登場するメガネを見て「個性的すぎない? 似合うかな?」と夫はやや不安な様子だったけど、きっといいメガネを見つけられると思って、お邪魔することにした。

お店に行ったのは、とある週末。「お気に入りをぜひ見つけてください」と心地よいゆるさの雰囲気でお店の方は声をかけてくれた。開店すぐの時間だったのでお店にいたお客さんはわたしたちだけ。あれもこれも良さそうなフレームをいろいろかけさせてもらえた。

普段は絶対に自分で選ばないようなフレームが実は似合うことや大きな鏡で全身で見たときのバランスが大事なことを知ったし、度数に合わせたメガネの選び方も教えてもらった。特に夫は視力の悪さゆえレンズが分厚くなってしまうし、耳の位置は人より高いし、酔っ払ってメガネを失くす。フレームを選びながらそんな話をしていたので「それならこちらのほうがよさそう」といい具合におすすめしてもらって、フレームが決まった。

お店の方とぽんぽん会話が弾んでいる様子を見て、すごい楽しそうに買い物してるなーとぼんやり感じていたわたしも「これほしい……!」と思うフレームを見つけてしまった。誕生日に買おうかな。

メガネってフレームだけじゃないんだなと思ったのが、視力検査をしているとき。利き目とか見方の癖とか、そういうことを総合的に判断して納得するレンズを選んでもらっていた。夫の目は見方の癖が強いみたいだったけど、ひとつひとつ真摯に問題を見つけながら解決して、を繰り返してぴったりの組み合わせができたみたい。仕事もゲームもしやすくなりそうとうれしそう。

後日、できあがったメガネを受け取りに行ったときの最後の微調整も念入りだった。メガネのつるの、耳にかかるところのカーブってあんなに細かに修正できるなんて、知らなかったなあ。

「下を向いてください。ちょっと引っ張りますね」

そんな確認を何度か見ていて、これならきっと電車で寝ていてもメガネを落とさないだろうなと感じていた。酔って失くしたメガネの先代は、電車で寝落ちしたときに失くしていたから。だから正直ちゃんとしたメガネを買うことは心配だったのだけど、これなら安心だし、何より気に入っているからぞんざいに扱うことがなさそう。

纏さんは、似顔絵が描かれた袋に入れてメガネを渡してくれる。

わたしはこの袋を知っていた上でうれしかったのだけど、事前情報のなかった夫は素直に驚いていた。オーダーメイドではないんだけれど、こんなに自分のこと考えてくれたんだと思うと、なんというか、うれしい。

もっとびっくりしたことがあるんだけど、これは買った人にだけわかるシステムで買ったときに驚いてほしいから内緒。

***

「ここまでちゃんとカウンセリングしてもらえるの、初めてだった!」

買い物を終えた帰り道に入ったお店で、夫はクラフトビールを飲みながらほくほくした表情を見せる。

「安いメガネはいっつもずり落ちてくるし鼻あてのところが痛いから、なんだかなーって思ったけど、このメガネはそんなことなさそう!」

喜ぶ顔を見て、わたしもうれしくなった。

ファッションだからと安く手軽に買えるメガネも魅力的だけど、年齢を重ねた今のわたしたちは自分にフィットするプロダクトに、そしてそれを提供してくれる素敵な人たちにお金を払いたい年頃なのかもしれない。お金を払うポイントが、20代のころとは変わってきたことを実感した買い物だった。

シンプルに納得感の強い買い物は、気持ちがいい。

とにかく、いい買い物をした。本当に。


↓お店Instagramです。



読んでいただきありがとうございました。ゆるやかなあたたかさで、これからもお付き合いいただけるとうれしいです。