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冬を迎えに
東京に出てきて14回目の冬、職場で「白鳥って飛ぶんですか?」と聞かれてひどく驚いた。東京で生まれ育った彼には、飛んでいる白鳥のほうが珍しいらしい。
鉛色の空。V字の隊列で空を横切る白鳥。田んぼを染める真っ白な雪。それが私の育った雪国の景色。何もない故郷だったけれど、なんでもあると思っていた東京にはそれがないのだと今さら気づいた。
故郷にはしばらく帰っていなかった。でも、今、春が来る前にどうしても冬の景色が見たい。突き動かされるように故郷へのチケットを取っていた。
向かう日の朝、東京は雨だった。テレビから流れる天気予報によると2月の終わりから降る雨を催花雨と呼ぶらしい。花を催す雨。冬の終わりを告げられた気がした。
テレビは全国の天気予報に画面が切り替わる。無意識に故郷の天気を追っていた。今日も曇りときどき雪。今もきっと、まだ冬の途中。
疎ましかったはずの鉛色の冬を目指して、私は東京の家を飛び出した。
読んでいただきありがとうございました。ゆるやかなあたたかさで、これからもお付き合いいただけるとうれしいです。