そっと耳元で君が囁き私は永遠の沼に落ちた WF−1000XM3

「あぁ……」
深いため息、哀愁、獲物を逃して惜しい、何かを恋い願う気持ち、全てが入り混じっている。
長身の男はシックなスーツに身を包み、うらぶれた街の夜道で息を吐く。耳元でそんなことをされたら、全身から右耳へ血が集まって熱くなって溶けてしまう。

「嘘なんてない」
嘘なんてない。たとえそれが真実だったとしてももう許せない。間違った方向に進むあなたとは一緒にいられない。私は太陽の当たる道を行きたいのに。もう十分でしょう。私を逃して。

「正しいのは俺だ」
職業が刑事だとしても、その正しさは刑事の目から見る世界で正しいだけ。私は私が正しいと思う選択をする。そんなこと、頭のいいあなたはわかっている。だからお前が間違ってるとは言わない。なのに息がかかる。右耳から入る低い音の波が私の底の方をそっと撫でる。右耳に全ての感覚が集まる。

なんでこんなことするの

「なんでって、愛してるからだよ」
愛してるとか大好きとか、本心で思っていたとしても10%くらいしか気持ちの伝わらない言葉。薄っぺらなくせに、鼓膜から入り脳をくすぐる。

「俺が死ぬときは、お前に……頼みたいんだ」
彼は過去に事件を起こして失敗し、大火傷を負い、顔に大きなあざが残る。
カバンには大量の札、テーブルにはピストル。

「やらねぇよ。それよりお前は生きろ。生きてりゃなんとかなる。俺たちはアメリカの修羅場を乗り越えた同志だ」
そう言って部屋を出てしばらくしてから、豪邸に銃声が鳴り響いた。銃声は左から右に抜けた。

私は何度も彼らの声に囁かれ、永遠の沼に落ちた。今年一番の買い物、それは
SONY WF-1000XM3

WF-1000XM3を耳に埋め込んでBluetoothを接続し、真夜中の車通りさえない時間に、誰もいない部屋で、映画なりドラマなりミュージカルなり自分の好きな作品をかける。脇机にはハイボール。できればイケボの俳優が良い。
外界の全ての音が遮断され、耳はドラマの世界へ入る。主人公は私に囁く。
「あぁ……」
あぁ……、がこれほどまでに深く、濃く、重く、なのに彩り豊かに胸に迫ったことがあっただろうか! 画面右側に立っている彼の声は私の右耳から内部に侵入する。深いため息、哀愁、獲物を逃して惜しい、何かを恋い願う気持ち、過去から背負ってきた歴史、女への思い、諦め、失望、しかしきっと彼女は離れないという自信……全て詰め込んで発せられるたった2音のあぁ、それは2秒ほどで消えてしまうのに何十時間も何百時間も、あぁ、を聞いた人の時間を奪う。彼のあぁ、は余計な音がない世界で、彼の口から発せられた通りそのままに私の鼓膜に届く。WF-1000XM3の手によって。あぁ……。

天使の歌声は文字通り天からもたらされるので頭の真上から入ってくる。ソウルフルな熱唱は頭蓋骨をガツンと殴る。無限の声色は何度聴いても脳に新しい刺激をもたらす。きっと同感してくださる方は多いだろう。神経を逆撫でするようなヒョロヒョロした歌を歌う歌手は好みでない。脳に直接アプローチしてくる、そんな歌を歌える歌手が好きだ。

歌が好きなあなたにもWF−1000XM3が恩恵をもたらす。この場合も静かな場所で聴くのがポイント。本当に天使の声は脳天から降ってくるし、熱唱は身体の底の方から魂を震わせ、無限の声色はさらに解像度を増し知らなかった音を教えてくれる。

テレワークが始まった頃にTeams会議で有線イヤホンを頻繁に抜き差ししていたらLet‘s noteのイヤホンジャックが壊れ、パートナーのワイヤレスイヤホンのお下がりをもらっていたが、何かの拍子に無くしたので(ごめん)、秋葉原のヨドバシカメラに行った。世の中ワイヤレスイヤホンをしてなかったらダサいみたいな勢いで皆ワイヤレスイヤホンをしてる。地下鉄に乗れば有線イヤホンの人は5%くらいしかいない。それでも有線イヤホンを使う人は人目を気にせず意思決定のできるかっこいい人だと思う。案外体裁を気にする私はこれからはワイヤレスイヤホンユーザー。
ヨドバシカメラでは気前よく店頭のワイヤレスイヤホンを自分のiPhoneに繋いで曲を試聴することができた。MacBook, iPhone, iPadユーザーの私はうどんことAirPodsにしておいた方が良いかと思ったが、店員さんが作ったポップに音質が一番良いと書かれていたSONY WF-1000XM3にした。ぶっちゃけ試聴したときは違いがよくわからなかった。
WF−1000XM3はテレワーク時や外出する時、家事をしている時などに何気なく使って、まぁ普通に使い心地良いな、くらいにしか思っていなかった。しかし転機が訪れたのはある夜だった。

パートナーが寝静まり、もう結構遅い時間、大きな道路に面さない11階の部屋は無音。まだ眠くないし、録画していた作品見るか。
WF−1000XM3が本領を発揮する時。

さて今日は何を観ようか。


《終わり》


補足:私は宝塚&ミュージカルファンなのでオーシャンズ11、レミゼラブル、ワンスアポンナタイムインアメリカ、真彩希帆さんの歌声、礼真琴さんの歌声をWF−1000XM3で聴いた時を思い起こして書きました。スピーカーもいいですがワイヤレスイヤホンは本当に耳元で囁かれます。強い。沼ズブズブ。

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