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ミュージカル観るべきは私でなく忙殺リーマン

ある日、先輩方とご飯に行ったときのこと。
A「ダイビングいいですよ」
B「海とか、危なくない? 釣りでも死ぬ人いるのに」
毬「私シュノーケリング派なんですけど、海入ってると、ここで死ぬのならまぁいいやって思いますよ」
一同「えっ(ドン引き)」
というシーンがあった。
「達観しすぎじゃない?笑」とか、謎のフォローが入る。
まじか。通じないのか。私は本気で思ってるのに。
 
こういう人にはぜひミュージカルを観に行ってほしい。
大切なことを思い出させてくれるから。
 
某日、超ホワイト企業で研修中の私はアフター5にミュージカル鑑賞をキメていた。
『ZEROTOPIA』
初めて観る劇団(地球ゴージャス)だったけど、柚希礼音さん(元宝塚トップスター)出てるし気になるなぁ、という軽いノリで。
 
地球ゴージャスは俳優の岸谷五朗と寺脇康文が主催していて、固定メンバーはおらず、毎回作品にあったキャストを集めているそう。
 
サイトにはほとんどあらすじが書かれておらず、話の筋がわからない。
幕が開くとほぼ芸人? という感じの寺脇さんが、めちゃくちゃ笑かしにかかってくる。
けどノリがわからんから、なんか中途半端な笑いをしてしまう。
と思ったら、T.M.Revolutionの西川くん(めっちゃ小さい!)が激しく踊りだす。
なんか衣装、変やし(後に衣装担当が山本寛斎事務所だと発覚する。私のセンスが悪いですすみません)。
しょうもないギャグ多いし、同じギャグ何回も繰り返してくるし、ゴリラみたいな人は最早ちょっと気持ち悪い。
照明使いすぎ。音響激しすぎ。まぶしいうるさい。
 
こ、これはもしやハズレ公演か? 
ウケてる人も多いけど、私ちょっと苦手なやつかも。
このままずっと続くなら、2幕観るのやめよかな……。私の15000円……!
 
とまで思ってしまった。
流石にこんなこと思うケースはめったにない。
というか、ミュージカルおすすめする文章ちゃうんかい。
 
悶々としながらも、柚木さんの筋肉美と161cm色白猫背いじめられっこ根暗カッパ役が超似合う西川くん(48)をもう少し見たかったので(そして安易に15000円捨てることもできなかったので)2幕も観ることにした。
 
幕間に周りを見渡すと、9割以上女性だ。
ミュージカルはだいたいそう。東京の場合は特に、本当に存在するんだな、という有閑マダムがゴロゴロしている。
男性は、いない。おじさまたちはまだ働いている時間だ。
 
 
結局観終わって思ったのは、ミュージカルを見るべきは私や有閑マダムではなく、忙殺されているサラリーマンの皆さんだった。
 
・ZEROTOPIAに漂着した人は、何らかの闇を抱えていた
紛争、民族破壊、ISといった、少し遠い世界のものから
いじめ、肉親の死、自分が犯してしまった裏切りといった、身近なものまで。
闇は怒りとなり、やがて大きな憎しみになった。
 
・ZEROTOPIAに彼らを呼んだ奴は
人から”憎しみ”のエネルギーを抽出して兵器を作ろうとしていた。
ついでに感情もなくしてしまい、自然状態のヒトに戻して帰そうとしていた。
そうすれば不条理はなくなる。

・ZEROTOPIAには色彩がなかった
地球が怒った結果、花はなく、草木は灰色と化していた。
 
多分、事実なのだ。
皆が心の中に何らかの闇を抱えていること。
人間は地球に大きな負荷をかけていること。
このままだと地球は壊れること。
入社同期の、関東出身の彼女はこう言った。
「3.11のとき、嗚呼、私たちの便利な暮らしって福島の人の安全の犠牲の上に成り立ってたんだな、と思ったの」
こんな感覚を持つ素敵な同期と会わせてくれたこの街には感謝するけど
すし詰めの満員電車も、空を狭くするビル群も、何かの犠牲の上に成り立っている。
 
東京に来て3ヶ月が経ち、少しずつ、慣れてきてしまった。
満員電車に空間を見つけうまくポジションを取る方法。
池袋サンシャイン、ドコモタワー、東京ミッドタウン日比谷といったビルの名前。
 
そんなこと覚えて、人の矮小さや自然の力強さを忘れたら、元も子もない。
私は一人で泳いでいたときに、水深5mくらいあるところで、波に吹っ飛ばされて、マスク(ゴーグル)から水が入ってきたとき、本気で
「ここで死ぬならまぁいいや(というかどうにもできない)」
と思った。
津波が来たとき、皆も自然の力強さは思い知ったはずなのに、もう忘れてる。
 
忙しくなると、大事なことは忘れがち。
たまにきっかけがあって思い出しても、すぐに忘れてしまうもの。
そういうものだから、仕方ない。
 
だからこそ、時々思い出さないといけない。
思い出すにしても、しょっちゅう死にかけたり地球が崩壊するような事象は起こらないから、人為的に思い出さないといけない。
そのツールの一つが、ミュージカル。
いろんな芸術の力を集結して、思い出すべきメッセージを伝えてくれる。
 
例えば
Les miserable は、信じること。
Romeo and Juliette は、若さの美しさ。
オペラ座の怪人 は、音楽の力。
1789 は、自由の意味。

忘れてるでしょう、こんなこと。
だから忙しい人に、観てほしい。
 
そんな時間はないとわかっているけれど。
 

《終わり》


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