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産業医ってなあに?

 労働安全衛生法によって50人以上の企業に選任義務がある産業医ですが、実際の仕事についてご紹介します。

 まず、産業医とは「産業界の医者」だと言うことをご理解下さい。病院という場所は一般的に臨床と言われ、そこに居るのが臨床医。行政にも医者がいて、そこに居る医者は医官、自衛隊にも医者がいて自衛隊医官と言っています。

 産業界に居る医者である産業医は何をするかというと、医学の専門家ではない経営者や労働者に医学や医療の事柄を知らせ・調べ・ちょっとだけ実行し・意見を述べるということをします。もう少し踏み込んで言ってしまえば、医学の面から企業を良くするということです。
 企業の顧問弁護士は法律の面から、企業に雇われている会計士は会計や税制の面から、それぞれ企業を良くするために業務をしますが、産業医は医学・医療の知識や技術を使って企業に貢献します。

 良く「産業医は企業の見方ですか?」と言われることがありますが、そうではありません。企業からも労働者からも独立して、適切な行為を行い、意見を述べる立場にあります。
 時には、両者から嫌われても言うべきことを言う必要があります。

 具体的な仕事ですが、
   1. 職場巡視
   2. 衛生委員会
   3. 健康診断事後措置
   4. 面接
   5. スタッフとの打ち合わせ
等です。では、それぞれ具体的に見ていきます。

1. 職場巡視

 月に1回、職場巡視を行います。そこで気になったことを指摘するのですが、必ずしも「悪いこと」を指摘する訳ではありません。もちろん、「これやったら監督署から使用停止命令でるぞ」級のことに気がつけば指摘しますが、そればかりではなく「これ、そろそろ止めませんか?」という単なる意見も述べて、会社の判断を頂くということもします。このやり取りができる会社の担当者との関係はとても大切です。

 指摘する内容は医者だから医学的なこと以外には言わないだろうと思われるかも知れませんが、私の場合は多くの会社の産業医経験があるので、その会社にとって良いこととなるのであれば、医学的なこと以外にも意見を言います。

 例えば、5S(整理、整頓、清掃、掃除、習慣化)に関しても気がつけば言います。得意技は「家に帰るまでが遠足、掃除道具がきれいになるまでが掃除、分かってますか?」です。

2. 衛生委員会

 衛生委員会の事業者側の委員としての参加になります。しかし、会社の味方の意見を述べるだけではありません。勘違いをしている人が多いのですが、衛生委員会や安全衛生委員会は、何かを決める場所ではありません。そう思っている人って、おそらく法律を読んでいないんですね。衛生委員会や安全衛生委員会は、労使双方から同数の委員を決めて、事業者に対して意見を述べる場です。その意見を聞いた上で、事業者が何かを決定する訳ですね。従って、この決定に対して責任を持つのは事業者です。

 具体的に産業医の個々での仕事は、健康診断の結果や作業環境測定の結果、その他、医学の専門家として意見を述べるという立場になります。例えば、昨今の新型コロナウイルス関連で言うと、「誰かが感染していてその人が出社したとしても、社内クラスターを出さない状況を会社の中で作っておく必要があります。濃厚接触を誰ともしないで仕事を進めて下さい」等と言ったりします。また、「発症者の濃厚接触者の濃厚接触者は、ただの人ですから出社を妨げる理由はありません」とも言ったりします。

3. 健康診断事後措置

 健康診断の結果が分かるのは産業医だけでしょうから、健康診断の情報を加工して「就業判定」をして、再検査や精密検査の必要な人を一覧表にまとめて、担当者に渡します。

 絶対にどの契約企業でも行っているのが、就業判定です。
 具体的には、このまま働かせていたら病勢が悪化する可能性が否定できない人を就業させるのは労働安全衛生法違反(68条)となります。実は、これ、あまり知られていないようで、今まで新規の産業医を引き受けたところではすべてされていませんでした。これをしないと産業医が訴えられる可能性が出てきます。

 実際には、ある基準を設けて、それより悪い場合は就業禁止にするのではなく、「就業判定を保留」します。そして、就業可能と記載された診断書の提出を求めます。それが期限内に提出されない場合に、就業禁止にするように事業者に意見を述べます。

 再検査や精密検査の対象者には、企業から知らせが行くようにしますが、専用の書式を使って知らせて、受診結果を報告させるか担当者からの知らせだけにするかは、会社と相談です。

 しかし、最近は健康経営の関係か、しっかりと数字をつかんで改善するような仕組みを会社内で構築する意欲のある企業が増えている印象です。

4. 面接

 産業医面接と言って実は何種類かあります。なので、分類して勘所をお話ししましょう。

 1. ストレスチェックの高ストレス者面接
 ご存じ、ストレスチェック制度では高ストレス者に対して事業者は求める者には産業医との面接の場を提供しなければならないとされています。しかし、実際にやってみると「あの人の○○がストレスで・・・」という話が多くて、「それを産業医に相談して何を求めますか?」という面接が増えていますというよりも急増中です。それ、相談するところが会社にないの?と本当に思うのですが、やはり人事部門の相談体制が弱いんでしょうね。
 法律には書いてありませんが、日頃から耐えられないストレスがある場合は、基本は上司が相談相手です。その上司に相談が出来ないようなストレス、例えば上司そのものがストレスになっている場合は、その上の上司か人事部門に相談ができるようになってないといけません。
 一方で、睡眠障害やパーソナリティ障害、発達障害の相談がこの機会にあるのも事実です。この点は、教育が出来ている企業と出来ていない企業で差が生まれるところでもあります。

 2. 長時間残業者面接
 これは、昨今の事情から激減しています。一時期は、長時間残業面接をしてくれる産業医を探している企業が多く、おかげさまで弊社も顧客を増やしたという事情もあります。
 何をやるかというと、疲れているか否かを確認します。耐え難いほど疲れているか、疲れているけどちょっとなら大丈夫か、この程度ならやれるか、全く問題ないか程度に分類して、その後の対処を考えると言うことになります。
 「耐え難いほど疲れているので、すぐに業務の軽減が必要」という産業医の意見を面接記録に残して、この場合は直接上司に電話をすることもあります。
 また、当然のことながら睡眠の状態は必須の情報です。
 意外とこの面接で、疲れていないけど睡眠に問題がある場合が見つかることもあります。
 それと過去に一度だけ、「疲れていますか?」に無回答、つまり黙秘権(そんなのあるのか?)を使った社員がいました。何度か丁寧にうかがったのですが、答えないので「お答えにならないので、面接止めましょう」と面接を中断して、面接記録には「疲れていますか?の問いに回答を頂けませんでしたので、この労働者に法定時間を超える残業をさせるべきではない」と産業医意見を書いたことがあります。

 3. 会社依頼面接
 復職面接や健康状態の悪い社員との面接、その他会社が抱える案件に関する面接です。すべて、会社から依頼を受けて行いますので、依頼した社員と面接する対象の社員と一緒に面接を行う場合がほとんどです。
 特に復職面接は、5回程度いっしょに面接をすると面接を依頼した人事担当者は面接の勘所を理解します。なので、復職できない人を見極めてくれるようになります。結果、無駄な面接が減ります。
 特にメンタル(適応障害やうつ病)に関する復職面接のポイントは1.ストレスは除去されているか?2.症状は安定しているか?3.体力は回復しているか?ということになります。これさえ理解できていれば、産業医の面接前にほぼ復職の可否はついています。最後に産業医面接で、ご本人の発達障害やパーソナリティ障害について示唆します。これはやはり、医者じゃないと言及は難しいですね。
 その他にも腰痛等で作業に配慮が必要な場合は、よく話を聞いて期限を定めた診断書を取ったり、作業内容に変更を求めたりと産業医の意見を述べるための面接を行います。

 4. 社員の希望面接
 これは、社員とふたりだけで面接をします。実はストレスチェックの高ストレス者で会社に面接内容が知られたくない人は、こっちにまわってもらっています。
 ここで気をつけるのは「その面接内容は会社で産業医と面接する内容としてふさわしいか?」ということです。睡眠障害ですとか、めまいがあって・・・、とか病院に行こうかどうしようか迷っているというものなら当然お受けしますし、それが産業医の正しいご利用方法なのですが、「この前病院に行ったら、こうゆう事されて訴えようかと・・・」という面接も過去にありました。
 会社で話すことにふさわしくないでしょう。こういった面接はなかったことになります。どちらにしても、このカテゴリーの面接はプライバシーに配慮して会社には面接内容を知らせません。ただし、後々のことも考慮して自分のPCにだけは記録を残しておきます。

5. スタッフとの打ち合わせ

 会社に訪問したときには、まず、担当者と前回の訪問からあったことなどの話を必ずします。色々な企画や計画を提供したり、相談を受けたらりします。契約企業でISOの規格や監査に意欲的なところでは仕事も増えます。
 スタッフの意欲と産業医のやりがいはだいたい比例します。
 私の場合、大手企業での産業医の経験もあるので、その経験からご提案の幅も広いのかも知れません。

 こんなところが、産業医の仕事です。他にも営業や経理、総務といった仕事もありますよ。あ、noteへの投稿も産業医の仕事か・・・


#私の仕事

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