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発症時の対応と復職が成功した典型例

 A氏30歳男性、営業職8年目。そもそも気が弱い面があり、厳しい営業先は避けるように上司が調整していた。この4月から主任になった。そのために厳しい営業先も受け持たなければならなくなった。営業先で、不条理なことを言われることがあり、そんな時には気分的に落ち込み、なかなか眠れない日もあった。
 6月から全く眠れない日もあり、朝起きることが困難な日もあった。

*睡眠障害が見られたこのタイミングで上司に相談すれば問題は大きくなりませんでした。眠れなくなったら必ず上司に相談して下さい。

 7月から週に1回の遅刻があり、その他にも仕事で日程の間違い、注文品の間違い等が頻繁に発生し、営業先からクレームが出るようになった。勤怠が悪いことを心配した上司から「眠れているか?」と言われ、「大丈夫です。眠れています。しかし、どうしても厳しい営業先が気になって・・・、でも主任になったんだから頑張ります」と答えた。

*「不眠→疲労蓄積→注意力・判断力欠如→単純ミス→精神的苦痛→不眠」の負のスパイラルに陥ってしまったのでしょう。しかし、「今、会社を休んでは周囲に迷惑がかかる」と思い、上司の「眠れているか?」問いにも正直に「眠れていない」と言い出せません。

 8月になると週に1回、当日の朝に体調不良と会社に連絡が入り休むようになった。上司に言われて精神科を受診したところ、うつ状態と診断され、1ヶ月の休職が望ましいと判断された。
 上司に報告して、1ヶ月休むことになった。

*うつ病の発症時対応の大原則は「精神的な負荷を取り除く」です。うつ病の場合、2週間程度は何もせずにゆっくりしてもらいます。

 2週間後に上司から連絡があり、「本当のストレスは何だった?」と聞かれ、厳しい営業先だと思いますと答えた。しかし、上司は「その程度の対処が出来ないと営業は難しいと思う。今後のことは、会社も考えるから、とにかくゆっくり休むように」と伝えられた。ちょっとショックであったが、納得も出来た。

*うつ病に陥る場合は必ず何かのストレスがあるはずです。そのストレスを取り除く必要があります。このケースでは「厳しい営業先」です。会社がこの問題をクリアできるかの準備に入ります。場合によっては困難なケースもあるでしょう。

 休職中は、昼夜逆転したが会社を休んでいることで、気分は楽になった。2週間して部屋が大変散らかっているので、片付けてみた。気分的に良くなったので、昼夜逆転状態を改善しようと頑張って、朝起きるように努めてみた。通院は週に1回、投薬治療を続けた。

*一方、本人も症状が改善してきたら復職に向けての準備に入る必要があります。昼夜逆転状態は早めに解消する必要があります。

 4週間休んで、規則正しい生活は出来ているし、症状もなくなったので復職しようと思い、上司に連絡した。しかし、上司からは「1日8時間を普通に働ける状態か?」と言われた。昼夜逆転はなくなったが、この1ヶ月、ほとんど運動らしいことはしていないので、体力的に自信はなかった。病院では主治医から「復職してみますか?」と言われたが、会社から通常の働き方が出来るか?と聞かれていることもあり、主治医には体力的に無理だと思うと伝えて、もうしばらく休むことにして休職の診断書を更新した。

*復職に失敗するケースの典型例は「症状がなくなったから復職する」というケースです。このまま復職すると「休職前よりも会社で働くと疲れる」状態になり、再度、休職することになります。復職は「頑張って」することではなく、余裕を持って行うことなのです。特に昼夜逆転状態に陥った場合は、かなり体力が消耗しているので注意が必要です。

 上司から「産業医が午前と午後に60分の散歩と90分の集中した読書がそれぞれ1回ずつ出来るようになることが復職の目安」と言っていると伝えられた。それと、「そもそものストレスは何だったのか?ということについて解決するようにとアドバイスされた」と言われたので、復職後の仕事について相談した。
 元のままの営業の主任では、厳しい営業先と付き合うことになり、営業職でこの会社でやっていくことに限界を感じていた。
上司からは、主任から降格して営業支援事務で復職する気はないかと言われた。給料は15%下がることになり、将来的には昇進は難しいが、それでも他の仕事を探すよりは良いと思い、その方向で復職することを伝えた。
 その2ヶ月後に、上司から言われた通りに60分の散歩と90分の集中した読書を午前と午後に1回ずつ出来るようになり、復職を申し出た。

*このケースでの最大のポイントは、「厳しい営業先」との付き合いを外せるか否かです。これからは「カスタマーズハラスメント(客によるパワーハラスメント)」も対策が取られる世の中に徐々になるでしょうが、現実問題としてはそうなっていません。今回は会社として、本人が真面目で事務作業は丁寧に行うこと、営業の仕事が増えてきている状況で、営業の仕事に精通して事務専門の働き手がいると会社として助かるという判断で「営業支援事務」という新しい働き方を試してみることにしました。

 復職を申し出た時に上司から「東京から京都への日帰り旅行でお寺を5つ廻って来いと言われたら喜んで行けるか?」と聞かれ、「今なら行きますが、2ヶ月前なら断っていました」と答えた。

*実際に復職できるかどうか分からない場合は実際にやってみて下さい。失敗したとしても「じっと座っていられないほど疲れる」経験をしてみることも、自分のうつ病の症状を理解する上で重要かも知れません。

 復職時に産業医と面接して、「回避性パーソナリティの傾向があるかも知れないからいろいろと本を読んでみては」とアドバイスされ復職することになった。回避性パーソナリティの本を読んでみると、確かに当てはまることがたくさんあった。このパーソナリティも自分の一部だと思い、不安を感じることは避けられないが、不安を和らげることは出来そうだと思った。

*自分自身のパーソナリティ障害や発達障害に気がついて見つめることはとても重要です。

 復職時には単純な事務作業を中心に5時間勤務を3日間、その後7時間勤務を7日を経て残業なしの8時間勤務を2ヶ月。営業の支援業務なので、仕事の内容は理解でき、スムーズに新しい業務に慣れた。その後、残業制限なしとなり、普通勤務を続けている。

実際の事例を元にした架空の事例です。

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