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雑感(2023冬)

12.19 Tue

カウリスマキ『枯れ葉』を予約した昨日の自分は偉かった。たまたま仕事で落ち込むことがあり、図らずもうってつけのタイミングになったのだ。

劇場の薄暗い絨毯に迎え入れられると、いつだって1杯のココアを受け取るように安心してしまう。そこでは同じようなひとり客ばかりが椅子にもたれ静かに笑っていて、好ましい80分が過ぎた。美しいパンフレットを購入して仕事鞄へ差し込む。深夜の電車は眩しすぎる。

最寄駅に着く頃には、成層圏のふちが家々のそばにまで降りてきてしまっていた。アレクサに家のエアコンを点けてもらう。暗くてあたたかな場所を目指して帰る。

素のツリーを飾っていた12月


12.31 Sun → 01.01 Mon

芦ノ湖のほとりにあるホテルで寝転んでいると、イヤホンの外から尋常でない爆発音が耳をつんざいた。

(へ?嫌だなあ…)にわかにゾッとしつつリュックを掴んでベランダに出れば、目の前の水面に次々と花火が上がっている。そうして一切は、呆気にとられた私ごと2024年へ踏み入ったのだった。

今年も地続きの明日がありますように。

雲の層に入ったり出たりした


01.16 Tue

駅ビルの最上階、日々名前を見るようなチェーン店の群の奥に大好きな蕎麦屋がある。いつだって舌の上でつるんとして、刺身は分厚く艶やか、銀杏はもちもち、何より会いたくなる店員さんがいる。

「ちょっと上着に掛け布失礼いたしますね。今日寒かったでしょう…。ね。すぐお茶を熱々でお出ししますから。」

在りし日の祖母を思い出す。このお店はひとりで来ている女性がとても多いのだけれど、少しわかる気がする。


02.12 Sun

つぎの週末にとある催しを控えていて、今日は最後の練習だった。この歳になっても学生時代からのささやかな趣味を灯しているとは、むかしの自分には多分想像ができなかった。

やらない?と誘われたのは復職して間もない頃だったと記憶している。

全員もれなく大人に成り果て、それぞれ別の生活や苦悩があるはずの中で緩やかに、しかし定点的に集まれたことがありがたかった。ありがとう。


02.23 Fri

箱根へ通い過ぎているかもしれない。健保のポイントで少しの贅沢を許し、仙石原に佇むクラシックホテルを予約した。雪降るすすき野原には、いつもに増して魔法がかかっているようだった。

外気に触れ続けるのは体調に障る予感があったため散策を早々に切り上げ、あとはベッドで本を読んで過ごした。

あんまり楽しいから、夕食は忘れてしまった。

翌朝には天使がいた


03.05 Tue

しょっちゅう許容量以上の情報を集めるからか、緊急時の思考のシャットダウンはもうお手のものである。電車の席にすわったまま爆音と言って差し支えないイヤホンを両耳に突っ込み、目と口をきゅっと閉じる。朝の7時。

真っ暗闇に浸した意識でダウンの暖かさに集中し、私は私の今日をこなしていく。すぐに次の春がくるのだ。

でも見聞きすることは諦めないでいたい



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