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高地戦(2011年/韓国) 感想 悲惨だとか怖いものだとかだけで終わらせない戦争映画は良い戦争映画なのよ。


ぼちぼち夏が近づいてきたので今年も戦争映画を観ていきます。


〘高地戦〙

(고지전/コジジョン)

高地戦ポス


以下、一部にネタバレを含む感想記事です。


■ストーリー

朝鮮戦争末期、軍調査部のカン・ウンピョ中尉は失言により左遷され、東部最前線の高地で戦う英雄部隊ワニ中隊の元へ、彼らの記録に残る不審な点や内通者の可能性を洗う為に派遣配属される。そこでウンピョは戦争の現実を目の当たりにする。


■内容

舞台となるのは1948年に始まった朝鮮戦争、その南北境界線に位置する高地です。

無限と思えるほど繰り返され続ける陣取り合戦と、そこで消耗し命を落とす兵士達、そして戦場の中に生まれる独特な人間関係や友情を中心に描かれ、その虚しさや彼らが戦った理由を、深く考えさせられるような映画でした。


停戦調停間近、と散々伝えられつつ一向に停戦へ向けた話し合いは進まず、その間にも消耗し続ける兵士達の姿を、その心情をかなりしっかり掘り下げつつ物語に落とし込んでいます。


物語の起点こそ、高地最前線で戦うワニ中隊の中に見受けられる不審な点の調査、というミステリアスな要素で進んでいきますが、これが中盤、終盤とどんどん事実が明らかになり、同時にそれが決して解決を意味しない物語構成が非常に面白かったです。



■感想(ネタバレあり)

物語の起点となった内通者の可能性と士官の死の謎、これを当初は追いかけつつ主人公のひとりウンピョ中尉は最前線であるエロック高地での戦闘に従事する通称ワニ中隊の元へ赴きます。


幾度となく繰り返されるエロック高地の奪い合いの中で、敵も味方も同じ営地を使う訳で、その中で次第にワニ中隊の一部のメンバーが敵と物資の交換や手紙のやりとりでコミュニケーションをこっそり行って、ちょっとした憩いと楽しみにしていたというのが内通者容疑の真実で、結構ほっこり要素で且つ戦場と陣取りをフックにしつつ人間味あふれるオチに繋げていて面白いです。

ただ、この敵軍とのやり取りもまた、戦闘という別要素で描かれる悲劇の一端にもなっていて、構成の上手さに驚きました。


ワニ中隊に恐れられていた敵軍女性スナイパー、通称”2秒”が、やり取りをしていた相手の内の一人で、彼女はやり取りの中で自分が手にかける(かけた)兵士がどんな人たちなのかを知っている上で、それでも引き金を引くしかない立場だったりします。相当メンタルぶっ壊れちゃう要素ですが実際2秒ちゃんはもうその事実を淡々と受け止めているかのように無感情に引き金を引いていきます。

いやマジで怖い2秒ちゃんの狙撃シーン、マジでこの映画の一番の見所。


またこの部分には、戦場の兵士達は兵士だから敵兵を殺す、という淡泊ながら異質な戦場の実態を描き出す要素としても機能していました。

そこに居る人間の意志とは関係なく、上層部の判断で殺し合いをしているだけ、ただそれだけの事実が全ての悲劇の正体であり、ワニ中隊の面々や、彼らとやり取りしていた朝鮮人民軍の面々も、誰一人として自らの意志で率先して戦闘をしている訳では無い事が何度も何度も、様々なシチュエーションで描かれていきます。

停戦調停が結ばれ戦闘終了に歓喜するもつかの間、協定効力が発動するまでの12時間で、韓国も北朝鮮も自国領土確保の為に前線の兵士達を戦地へ向かわせ、そして両陣営の兵士は最後の殺し合いを始めるクライマックス。

この展開自体がもう地獄すぎるんですが、上が戦えと言う以上それに従うしかないワニ中隊や敵の朝鮮人民軍の苦悩が強烈に描かれ胸が爆発しそうになります。やり場の無い言語化できない感情がそこにある。


ここが一番それを露骨に描いている場面で、ちょっと前まで水場で遭遇した両陣営の兵士達がお互いに戦闘終了を認め合うシーンなんかもあった上で、彼らが最後に再度殺し合いを始める展開が待ち受けているのは中々観ていてキツイです。キツイというかなんというか、地獄すぎて唖然としちゃうもんねあれは



ワニ中隊の面々の抱えるトラウマや過去の惨劇なども段階的に挟まれつつ物語は進んでいくので、当所彼らに対して覚える違和感は解消される、と同時に皆がすでに壊れかけている(何人かは壊れきっている)事実もどんどん判明していきます。

その一方で非戦闘時の、いわゆる日常パートのあまりにも牧歌的すぎるやりとりの数々とのギャップが猛烈で、戦場が如何に狂った空間なのか嫌でも分からされる凶悪な作風になってたりします。


かつて両陣営がこっそりやり取りをしていた営地で停戦のメッセージが無線から流れる中、それを聞いて狂ったように大笑いするウンピョと敵将というラストカット。

戦場にいない人たちが勝手に初めて勝手に決めた停戦、その中で大勢の仲間を失ったウンピョや敵将、何十万人も死んだ末に戦線は進みも退きもしない幕引き。

2者の笑いからは意味を見出せない、喪失だけが残った結末に対する何かを確かに感じられました。


■〆

個人評価:★★★★☆


戦場の悲惨な現実と常にある死の恐怖、をあくまで背景にして、その状況で生まれる人間ドラマが中心で、状況に振り回されながらも必死に生きようとする人々の姿を描いた映画です。

非常にクオリティの高い戦争映画でした。

ではまた。

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