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密航者(2021年/アメリカ・ドイツ)感想 宇宙船を舞台に繰り広げられる葛藤と苦悩の人間ドラマ。


思ってたんと違う!!(良い意味で)


〘密航者〙

(STOWAWAY)

密航者ポス

画像引用元:ネットフリックス https://www.netflix.com/

以下、一部にネタバレを含む感想記事です。


■ストーリー

悪いなマイケル、この船3人乗りなんだ。


■内容

火星の将来的なテラフォーミングに向けて3人のスペシャリストを乗せた宇宙船が旅立ちます。

しかし地球を離れてわずか数時間後に何故か船内にうっかりもう一人余分に乗せてしまっていたことが発覚、そのうっかりさんであるマイケル青年も次第に皆に馴染んでいき「まぁもう一人くらい増えても問題ないか」的な空気感が漂い始めたのもつかの間、次々に彼らを災難が襲い始める、というのが大まかな内容でした。


地球への帰還は不可能な状況下で、ぶち当たる問題に立ち向かう4人の船員たちの活躍と葛藤が魅力な映画ですが、それ以上にリアリティ十分な船内外描写や宇宙景の圧倒的な美しさが印象的です。

宇宙を舞台に繰り広げられる人間ドラマと宇宙そのものの圧倒的な宇宙感をセットで楽しめちまう欲張り映画。


■感想

地球に帰還不可能な宇宙船内で、謎の密航者がクルーを襲撃する!!的な映画かと思っていたので、いい意味で期待を裏切られました。

そんなBな風味のストーリー展開は一切なく、むしろ乗組員が増えた事に起因する想定外の事態が事件の中心でした。


何か問題が起きて誰かを犠牲にしなければならない、でも犠牲者を出したくない、というこの映画の大部分を葛藤の人間ドラマはありふれた筋ではあるんですが、宇宙船を舞台にしたからこそ、というかSFに落とし込んだからこそ改めて輝くと感じました。

また、この映画の本腰入れ過ぎなリアリティまみれの宇宙描写の数々も、そこまで力を入れて現実感を再現しなくても、と思う所もあるんですが、逆にここまでリアルに画を作り込む事自体が、物凄くこの映画の魅力を引き立てている事にも気づきます。

わざわざ宇宙を舞台にして、わざわざリアルに宇宙船内外や空間を描き、想定外の事態に遭遇した人々の活躍を描く、アンリアルなSF宇宙映画の中だからこそ人間ドラマが映えると思うんですよね。

上手く言語化できないんですが、そういう現実主義的な画作りと作風の中に物語らしい物語が内在している面白さというか、そんな魅力がある映画だと思います。



火星に向けてウキウキで出発した三人、ところが二酸化炭素除去機器的なものを格納していた天上内装に何故か男が一人格納されていた事が発覚し、物語が動き始めます。

しかし、その男がなぜそんなところに閉じ込められていたのかが全く分からずその理由付けもされず、ただただこの後の全ての物語の起点の為だけにそこに男が配置されていたとしか言いようが無い点はなんとかするべきでしょうよ!!!

マイケルが善人なのか悪人なのか、わざと乗り込んだのか事故なのか、そういった物語を追っていく上で浮かんでくる疑問や予想に対する一切の楽しみを放棄するしか無く、勿体無さもありました。擬人化したフラグでしかないの。



ただでさえ二人乗り用の宇宙船を改造して三人乗りにしていたのに、更に二酸化炭素除去機が壊れた事が原因で酸素が圧倒的に足りないとの事で、とにかくこの後は酸素の確保の為に、様々な方法を試したり乗組員を犠牲にするかどうかの葛藤が描かれたりします。

ところが酸素確保の為に学者デヴィッドが自分の研究を放棄してまで量産した藻は2ロット用意した片方が全滅、その後残りも死滅してしまったり、ロケットの推進剤から酸素を取り出したのに、ちょっとしたアクシデントで酸素入れたタンクが宇宙の彼方へ飛んで行ってしまったり、どんどんクルーは追い詰められていきます。

これもやっぱりアンリアルすぎる露骨なアクシデントの連発でありながら、同時に「ギリギリセーフで間に合った!うおおおUSA!!USA!!」的な映画らしいご都合展開も蹴っていて面白いです。


最終的に医者でもあるゾーイが、太陽風吹き荒れる宇宙空間でもう一つの酸素タンクを回収、自らの命と引き換えに船長デヴィッドマイケルの三人を救う、というところで終劇。

ハッピーエンドでもバッドエンドでも無いんですよね、こういう終わり方結構好きです。


■〆

個人評価:★★★★☆

フィクションだからこそ描けるリアルな事態とそれに立ち向かう人達の苦悩と葛藤が堪能できる良SFだと思います。

マイケルがあんな理解を超えた位置に隔離されていた点、それを宇宙船の発射前どころか宇宙へ飛び立って数時間たっても誰も気づかなかった点、ここだけが本当につっこみどころとして際立ってしまって色々と勿体無い感じなんですが、個人的にはそれ以外はかなり好きな要素が詰まった映画でした。

ではまた。


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