新定義『マダミス』について、LARPクリエイターの立場からの対話と提言

拒絶ではなく対話をしよう

にっしーさんのマダミス再定義記事( https://note.com/nissy_mmg/n/nc3e7c1507f83を読んで、納得する部分と「それはちょっと勇み足では……」という部分があったので、それらに関する対話をしたいと思い、本記事を書いています。
自分はMATH-GAMEという団体で、主としてライブアクションRPG(LARP)というジャンルの遊びを制作し、イベントとして運営している人間です。代表作に『5DIVE』『聖罰ギャンビット』などがあります。
本記事執筆に当たり、LARPクリエイターとして提言できるものがある立場だと、自分では思っています(おまえに語られたくねえよ! って人も当然いるとは思いますが、一応は商業的にやってる人間だよっていう感じで捉えてくれると嬉しいです)。

まず最初に言っておくことは、これは自分からにっしーさんへのアンサーであるということです。提言に対する再提言と言っても良いかもしれません。
にっしーさんはマーダーミステリーというジャンルの作品を多く遊んでいる立場から、「こうしろ」と居丈高に言っているわけではなく、「こうしてみてはどうか」という提言をしてくれました。
ならばLARP作品を作っている自分がすべきは「うるせえ知るか!」とドアを閉じてしまうことではなく、「そっちはいいけど、ここはもっとこうした方がいいよ」と応答することなのではないでしょうか。

拒絶は簡単ですが、論は深まりません。
マーダーミステリーは更にここから少しずつ人口を増やしたり減らしたりしていくことになると思いますが、人口増加率は間違いなく近年の体験型コンテンツの中で一、二を争うものでしょう。
そして悲しいことに、LARPの人口増加率は正直まだまだです。ジャンルとして、もっとプレイ人口を増やすポテンシャルはあるはずなのだから、先行者の提言にアンサーすることは誠実な振る舞いだと信じています。

この提言は何のために為されたものなのか?

にっしーさんが記事中で『マダミス』を再定義した意味は、恐らく下記の文章であると思います。

これから新たなプレイヤーが激増するとなると、マダミスやTRPGといったアナログゲームやその文化、文脈をまったく知らない人たちが参入します。
そうした新規層に向けては、従来のマダミスとストプレ、LARPを区別することよりも、そもそも物語体験エンターテイメント全体の存在を認知してもらうことが重要です。

これに関して、私から異論を挟むことはありません。
マダミスもTRPGも何も知らない、けれど最近流行ってるらしいからやってみたいという人にとって、小分類はあまり大きな意味を持たないでしょう。
というより、「この『A』と名付けられた遊びは、一体私に何をもたらしてくれるのか/何を求めてくるのか」の方が遥かに大事だと思います。簡単に言えば「結局この遊びって何するもんなのよ」ってことです。
なんだかわからないものに、人は時間もお金も使いません。いきなり「なぁ、今度の日曜日、ウポポムーナに行こうぜ! 料金は4000円な!」と誘われても「よくわかんないから嫌だ」となるでしょう。少なくとも自分は乗らないです、そんな誘い。怖いよ。

あえていえば「LARP」が合致しますが(中略)アクロニムゆえに単語から内容を想像しがたいです。

という言説にも、その通りだと感じます。
アクロニムというのは「連なったアルファベットを通常の単語と同じように発音して読むもの」です。たとえば「NASA」を「ナサ」と読むようなものですね。Wikipediaで調べたので確かです。
LARPはそのまま「ラープ」と読みますが、ぶっちゃけこれだけ聞いて遊びの内容を即座に連想できる人はまずいないと思います。ラップの緩い版みたいな想像しかできません。

だからってマダミスという言葉に含めていいのかというと勿論そんなことはなく、マダミスはマダミスであり、LARPはLARPです。

顧客ニーズとのミスマッチは確かに提供側の努力である程度解決できるとは思いますが、とっくの昔に「プレイヤーの中に犯人がいて、皆で議論して犯人を突き止める」という前提に則らない作品はいくつも出ていますし、何だったら人が死なない作品だって沢山あります。

ここらへんも含めて「物語体験型エンターテイメント」の枠組みに押し込めることはできますが、「マダミス」という言葉に押し込めるのはいささか窮屈と言えるでしょう。
というか、溢れます。明らかに。
何だったら今でも器から溢れてるし(そして「こんなの私が期待してたマダミスじゃない!」という声は沢山挙がってますし)、ネタバレ厳禁というマダミスの特性上、事前にある程度の注意書きをすることがかなり難しいという制約もあるからです(それでも今は協力型と告知するとか、色々事前にミスマッチを防ぐ方法は考案・実施されています)。

何だったらLARPの溢れっぷりは更に顕著です。
剣を振りゴブリンを倒すLARP、冒険者になってダンジョンに潜入するLARP、宇宙船の乗客となって目的地までの時間を共に過ごすLARP、言葉の通じない異星人になって必死に和平会議をするLARP、猛吹雪の中エンストした自動車の中でひたすら今後のことについて話すLARP、羊牧場でアナキン・スカイウォーカーやニンジャになって一日羊と語り合うLARP(海外ですけど本当にあります)……本当に色々です。

言ってしまえば「LARP」はメチャクチャにデカい大分類です。
「デジタルゲーム」みたいなもんです。
その中にRPGとかアクションとかパズルとかレースとか、とにかく色んな分類があるわけで、さすがに大分類を大分類で包括するのは厳しい部分があります。それこそ提供側の努力だけでは何ともできないミスマッチが発生してしまうでしょう。
「本作はマダミスです(なお、作中では人は死にませんしプレイヤーの中にも犯罪者はいませんが、キャラの中には妖精とゴブリンがいて、舞台はカビくさい洞窟です! みんなで頑張って食料を確保しましょう!)」とかって事前告知は、とてもじゃないけどミスマッチを防ぐ役には立たないでしょう。むしろ「マダミス」という言葉の持つ意味を薄れさせてしまう可能性すらあります。
もちろんこれは極論ですけど、現実的に発生し得る事態ではありますしね。

「マダミス」と「LARP」は重なり合わないのか?

この問いに関しては「当然重なり合う部分がある」が答えです。
体験型コンテンツの中では、マダミス、LARP、TRPGは極めて近い位置にいるでしょう。これらのジャンルを横断する作品もあります。
たとえば拙作『5DIVE』は、意図的にマーダーミステリーと重なるように制作した作品です。謎の犯罪者がいて、PC達はそいつを取り調べしつつ事件の真相に迫る……というプロットは、まさに「マダミス」的だと思います。
自分のフォロワーさんが仰っていましたが、「拡張したマダミスの定義にLARPの一部が含まれる、ならワンチャン」はまさにその通りで、『5DIVE』もマダミスと呼べるのではないかと言われれば、それはまさにその通りであると首肯します。

現状の佐賀屋火花が考える体験型コンテンツと「マダミス」の新定義

ですが『5DIVE』はあくまでも単一シナリオであり、LARPという恐ろしく振り幅の拾いジャンルの中に転がっている、マダミス的な作品の一つでしかありません。
とてもじゃないですが、これだけで判断はできないのです。

他ジャンルを「マダミス」に内包して定義し直すというより、「マダミス」を他ジャンルとグラデーションによって重なる範囲がある体験型コンテンツとして再定義する、というぐらいに留めておくのが良いのではないでしょうか。
「マダミス」という言葉を使うことで逆に考えが縛られてしまうのなら、それこそ「体験型コンテンツ」という言葉はこれまで既に存在していましたし、比較的便利なワードです。
「これだ!」とピンポイントで遊びの内容を察せられるような言葉ではないものの、「きっとこういうことをするんだろうなぁ」とぼんやり想像するぐらいのことはギリできそうですしね。

猫の画像を見た自分達が「猫」という言葉を思い浮かべるように、特定のものに対し「それを指し示す言葉」が必要である、という論には同意します。
マーダーミステリーは今やかつての形態を失い、独自の形に発展・変化しました。単に「マダミス」と言っても、AというシナリオとBというシナリオでは全然やることも体験感も違う、なんてことはザラです。
新規層にとって、これがハードルになることは間違いありません。
「前にマダミスやって楽しかったのに、今回のは全然やることも何もかも違うじゃないか! 看板詐欺だ!」って言われかねません。

ですが「マーダーミステリー」という大分類を定義し直すのならば、「マーダーミステリー」という言葉を捨てる必要もなければ、変える必要もありません。隣接他ジャンルを内包する必要もありません。
今現在変化し、拡大した様々な要素を丁寧に拾い集め、まとめた上で、これこそが「マーダーミステリー」であると定義し直す。その上で「新しく定義したマダミスという言葉は、従来型マダミスよりも更に広く、LARPやTRPGなどの隣接他ジャンルとも重なり合う部分を持つエンタテイメントである」と定義するのが良いのではないでしょうか(今もそんな感じで捉えられているフシはありますが……)。
その上で「マダミスもTRPGもLARPもそれぞれに異なるものだが、似た楽しみを経験できる遊びであり、もしも気になったのなら是非他ジャンルにも触れて欲しい」と訴えることもまた、必要なのではないかと思います。

物凄く面倒な作業ですし、これをしたから誰が得をするというものでもありません。
もしかしたら将来、このジャンルに足を踏み入れる人の一人や二人が「そういえば、前にSNSでマダミスってこういう遊びだって書いてあったの見かけたわ」と思い出してくれるぐらいのことでしょう。
でも一人か二人そんな人がいたのなら、面倒な作業をするだけの甲斐はあると、少なくとも自分は思います!

補記

ちなみに自分はこれまで頑なに定議論には触れてきませんでしたし、今回以降もできる限り避けていきます。
何故なら、面倒臭いからです! 「面倒な作業をするだけの甲斐はある」とか言っといてアレですけど!
だって定議論って「あなたはそう言うけど、じゃあこれはどうなんですか」「こっちのは違うんですか」みたいに言われまくるに決まってるし、触れることのメリットがデメリットを上回ることは原則ないですし。

それでも、自分が日頃親しんでいるLARPという遊びに目を向けてくれるのは嬉しいですし、提言という形を受けたのならば、アンサーを返すのは全然嫌なことじゃありません。
ましてそこに新規層を取り入れたいという願いがあるのなら、自分だって当然もっともっと沢山の人にLARPを遊んで欲しいと思っているので、「それいいね! こうしたらもっとナイスなんじゃないかな!」を答えるぐらいはしたいのです。

……ちなみに「これこそがマダミスだ!」みたいなのに加わるつもりもないですが! 嫌だ! 面倒ですそんなの! 自分はLARP畑の人間なんで!

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