DX戦記 第17話:データガバナンスチーム、結成します!
本連載小説は202X年、自己変革に苦しむ日本企業、JTC(ジャパン・トラディショナル・ケミカル)でDXに巻き込まれた一般社員 伝統 守(でんとう まもる)くんの奮闘記(半ノンフィクション)です。
DMコンサル「事前にヒアリングさせていただいたJTCさんの現状とゴールイメージを元にWBS(Work Breakdown Structure:ゴールまでのタスクを分解して整理したもの)を作成しました。3ヶ月という限られた期間でやることも多いですが、一緒に頑張っていきましょう!」
本間「よろしく〜」
守くん「よろしくお願いします!」
守くんと本間さんはデータマネジメントの進め方の戦略と基本方針を作るために、データマネジメントを専門とするコンサルティング会社に伴走型支援をしてもらうことにしました。というのも会社規模でデータマネジメントをどのように進めていくのかについてのノウハウはJTCにはなかったからです。
IT保守部ではコンサル会社を過去に何度も使ったことがあるようでしたので、本間さんに幾つかのコンサルの候補を数社出してもらって1社1社面談していきました。初めて知りましたが、こういう時は各コンサル会社にRFP(Request for Proposal:提案依頼書)を出すそうです。本間さんにRFPを作成してもらって、各コンサル会社から回答が出揃うまで2週間ほどかかりました。各社の提案書は大変立派なものから簡易なものまで様々でしたが、最終的に費用感と提案内容のバランスが良かったDMコンサルというコンサル会社に依頼することになりました。
DMコンサルの方とディスカッションしてわかったことは、海外も含めてJTCと同じようなデータの状態が多くの企業で存在するということです。だからこそ、再現性のある現象としてコンサルティングサービスが成り立つのだそうです。なるほど……、と納得しつつも守くんは「こんな状態ではDXとか言っている場合ではないのではないか?」と内心思いました。以前、どこかの書籍の中で読んだ、DXが必要なのは2000年以前に作られた企業だ、なぜなら新しい企業はそもそもデジタルがあるという前提で生まれているからだ、という話を思い出しました。つまりDXとは、デジタルを前提にしてこなかった企業がデジタルを前提とした企業にトランスフォーメーションすることなのです。データマネジメントの問題はDXをする上で避けては通れない難しい問題なのだ、ということを守くんは再認識しました。
DMコンサル「では、早速ですが基本方針書の雛形を用意しました。こちらを叩き案にしてJTCさんのデータマネジメント基本方針を作っていきましょう。他のドキュメント類も叩きはこちらで作成しますね」
本間「助かります。データマネジメントで決めていくべき視点は我々だけでは網羅的には検討できないので」
守くん「すごい量の雛形ですね……。全部で100ページ以上あります」
DMコンサル「そうですね〜、企業さんにもよりますが、基準書も含めたら200ページ以上になることもあります。それくらいデータマネジメントにおいては決めるべきことがたくさんあるということです。JTCにとって必要な考え方を一つひとつ整理していきましょう!」
DMコンサルの方は専門知識もあってとても頼りになりそうでした。データマネジメントの骨子を3ヶ月で作り上げていくことは非常にハードな仕事になるという感覚が守くんにはあったので、そのスタートをちゃんとした専門家と、そして社内でもかなりできるI Tエンジニアの本間さんと議論しながら進めることができて本当に良かったと思いました。守くん自身はまだまだ経験もスキルもないひよっこですが、このチームでデータマネジメントに取り組めるという状況の貴重さをなんとなく感じていました。
本間「ふぅ〜疲れた。データに関する社内のポリシーは、こんな感じかな」
守くん「いい感じだと思います! これらのポリシーをみんな守ればJTCのデータ環境はぶっちぎりで科学業界トップになれそうです」
本間「まあ、理想はそうだけど、全部のデータがこうなることはないね。管理コストもあるし。でもビジネス価値のあるデータは救っていけるといいな」
DMコンサル「良いポリシーだと思います! このポリシーを各種の管理ガイドラインに落とし込んでいきましょう」
最初の1ヶ月は現状把握と基本方針作成であっという間にすぎていきました。議論の中で特に白熱したのは、データに関するJTCのポリシーを作り上げるところ、データマネジメントを支援する組織であるデータガバナンスチームの立ち上げ計画、そしてロードマップでした。
基本方針書の中では、読んだ人がデータマネジメントをなぜやらなければいけないのかをきちんと理解できるように現状の課題を説明した上で、目指す姿を示す必要がありました。目指す姿はDXのゴールとも一致するのでそこまで悩むものではありませんでしたが、ポリシーを決めるのは時間がかかりました。というのも、ポリシーというのは誰でも理解できる必要がありますし、これからやろうとすることとすべて整合している必要があるからです。取り組み全体の外観を描かないことにはカチッとハマるポリシーを作ることはできません。議論は具体と抽象を行き来しながら何往復もしましたが、最終的に7つのポリシーに集約することができました。
次に苦戦したのはロードマップです。このロードマップでは、データマネジメントがJTC全体に展開されるまでの長期の時間軸でマイルストーンを設定していく必要がありました。マイルストーンの中では、ルール整備やその改訂プロセス、社則への反映に加え、データマネジメントの運営組織体制、システム基盤整備などこれからやっていくことのプロセスを丁寧に分解して整理するのはとても骨が折れました。データマネジメント知識体系ガイドに書かれているような理想系に対して、JTCに合わせた現実的な進め方を考える必要があったからです。
守くん「データガバナンスチームを作る必要があるっていうのは間違いないんですけど……」
本間「社長はDXを全社でやるっていってくれているけど、実際問題DX自体に関心がある社員はまだまだ少ない状況だから、新しく組織を立ち上げるっていうのは理解が得られにくそうだよね〜」
守くん「これまでJTCのいろいろな部署の人たちからデータ活用の状況や悩み事、相談を聞いてきましたけど、やっぱりまだ仕事とDXが結びついていないーーDXを通じた仕事の変革が必要だと思ってくれている人が少ないんですよね」
本間「DX部ができた時も社内的には結構悲観的な声もあったみたいだったから、新たしくデータガバナンスチームを立ち上げるっていっても、多分人を集めて来るのはかなり難しいだろうね」
山口部長「2人とも熱心にやってるね。どう、検討の調子は?」
守くん「あ、山口さん、お疲れ様です。それが、かくかくしかじかで……」
山口部長「なるほど、データガバナンスチームか。課題感はわかった。結論から言って、最初からしっかりした体制を作ってやるのは難しいだろうな。DX部の立ち上げもそうだったが、最小人数から始めて実績を作らないとJTCの社内で認めてもらうことは難しい」
本間「そうですよね〜」
守くん「実績ですか……」
山口部長「そう! だからロードマップとしては最初に最小メンバーである守くんと本間さんでチームを結成して、そこで着手できる案件を見つけてPoCをやる。それがうまくいったら次はチームを拡大しながら対応範囲を広げていくーーそんな感じに進め方を考えてみるといいと思う」
守くん「なるほど……」
本間「IT保守部とDX部の部署を跨いだバーチャルなチームですか……。うちの部長にもそういう構想でいくことは早めにいっておいた方がいいですね」
山口部長「そうだな。俺からも何かのついでに話しておくようにするよ。じゃ、引き続きよろしく!」
実績作り。それが、JTCでデータマネジメントを進めていく上での最初のマイルストーンになりました。
守くん「ーー最後にまとめです。これまでの活動で、データに関するJTCの課題は明らかになってきました。そしてその課題を解決するために、データマネジメントの基本指針やポリシー、ガイドラインの初案の整備が完了しました。後は実行していくだけです!」
下田社長「いいねぇ〜、守くん! 実行するには難しいこともあると思うけど、JTCが変わるためにはデータマネジメントが必要だと言うことがよくわかった。必要なサポートはしていくからしっかりやりきってほしい。守くん、本間くん、よろしく!」
本間・守くん「承知しました!」
DMコンサルの助けを借りながら、3ヶ月を走り抜け、DX部の担当役員である下田社長へのプレゼンが無事、終わりました。結果はGO。後はプレゼンで宣言したとおり、実行していくだけです!
最終的に出来上がった資料はパワーポイントで200枚以上。データモデル設計、データ品質・メタデータ管理、データ活用を前提としたセキュリティの考え方などそれでまでJTCで明確に決められていなかったデータ活用をするためのルール設計の第一案が出来上がっていました。これから、これらのドキュメントに基づいた運用ができるかどうか、社内ニーズのあるテーマについてPoC(Proof of Concept:最初に考えた仮説が正しいか検証すること)をしていくことになります。このテーマについてはすでにいくつか相談を受けている有力な候補があるので、そこから選んで実施していくことになりそうです。
本間「守くん、おつかれさま〜」
守くん「本間さんこそおつかれ様でした! 最初はどうやって行けばいいかわかりませんでした、本間さんと一緒に検討する中で様々勉強させてもらいました。ありがとうございました!」
本間「いやいや、こちらこそ。まあこれからが大変だから一緒に頑張ってきましょう」
守くん「はい!」
データガバナンスチームは今後の運用も考えてIT保守部が主管になり、DX部はデータ活用の観点から支援する形で結成することになりました。初期メンバーはIT保守部の本間さんがリーダーで、同じチームのエンジニアの方が2名、そしてDX部からは守くんが入った計4名でスタートすることになりました。
この取り組みを始めてから3ヶ月は半分の工数をこちらに振り分けていましたが、これからはDX部の業務量も増やして行けそうです。DX研修もそうですが、事業部門のデータ活用支援もしていく必要があります。やることはいくらでもあり、どれも挑戦的な活動です。次は何に挑戦していこう? 守くんは次のアクションを考え始めました。
DX担当者、守くんのメモ
専門のコンサルに伴走してもらいながらプロジェクトを完走したことについての個人的な振り返り:
コンサルから知識を引き出してプロジェクトを成功させるには、自社で以下のことを確実に実施することが大切。
目的達成のための適切な問いを立てること
コンサルからの提案を噛み砕くこと(鵜呑みにしないこと)
自分たちでも必要な知識を学習する(データマネジメントで言えば、DMBOKなど、その分野のスタンダードな知識は最低限学んだ上でコンサルと議論する)
コンサルを提案者としてだけではなく、議論の壁打ち役として活用すること
コンサルは饒舌だが、主体者・実行者はあくまで自分たちという意識を持つ。
コンサルの仕事は顧客の課題解決ではあるが、コンサルのKPIは売り上げや継続契約率だったりするので、利害関係がある。コントロールが必要。
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