意味によっても差異化された「石巻工房」

武蔵野美術大学 大学院造形構想研究科 クリエイティブリーダシップコース クリエ イティブリーダシップ特論 第11回 芦沢啓治さん(2020年7月27日)

 クリエイティブリーダシップ特論・第11回の講師は、芦沢啓治建築設計事務所・代表の芦沢啓治さんです。

 芦沢さんは東京・小石川に事務所を置かれ、建築を始め家具等のプロダクトまで幅広い分野の設計・デザインを手掛けられていますが、本日の講義では、東日本大震災を受けて創立された地域社会自立支援型公共空間、「石巻工房」を中心にお話をしてくださいました。

 クライアントの被災をきっかけに、石巻のDIYを支援し、町の復旧・復興を皆で考える場として石巻工房を開設。屋外映画上映会のために地元の高校生と協働しベンチを生み出すなど、被災者とともに家具づくりをするワークショップの開催を続けておられます。 
 また、活動を継続するためには、ボランティアとしてではなくビジネスとして成り立たせることが必要と考え、「DIYメーカー」として制作した家具を「石巻工房ブランド」で販売するようになっています。
 この「石巻工房ブランド」のデザイン性やストーリー性が、ロンドンの家具ブランド・SCP等の海外の家具メーカーやデザイナーに注目されて、イギリス、ドイツ、フィリピン、インド等の海外では、現地の事業者が現地の材料で現地生産する「Made in Local」として展開しているそうです。

 こうした石巻工房との協力関係に基づく「Made in Local」が進行する一方で、石巻工房の家具のデザインはシンプルなので、それを真似た「なんちゃって石巻工房」的な商品も見られるようになってきているそうです。
 知財屋である自分には聞き捨てならない話になってきましたが、芦沢さんは、「本当に競合するような関係になってきたらそうも言っていられないが」との注釈付きで、「まぁいいんじゃないか」的なスタンスをとられているとのこと。
 知財のセオリーから言えば、意匠権を取得して模倣品を排除しましょう、となるところですが、この状況をどのように考えるべきなのか。

 自分が気になったのは、「なんちゃって」に走る同業者がいる一方で、石巻工房と協働したい、と申し出る海外メーカー等が少なからず存在するということです。各々の国で何らかの権利取得をされているか否かは不明ですが、後者はなぜ「なんちゃって」に走らずに、石巻工房と手を組みたいと考えるのか。
 それは、石巻工房の家具のデザインだけでなく、そのストーリー性や人々の力に、魅了されているからに他ならないでしょう。

 こんなことを言うと本業の知財の世界では怒られてしまいそうですが、模倣品対策について自分は常々、コピー商品を叩くことに躍起になるより、自分たちが本家本元・元祖であることをしっかり伝えて、ストーリー性も含めた「意味」によって差異化することが王道だと思っています。
 顧客の立場で考えた場合、他に選択肢がない状態でその商品を選ぶより、なんちゃって商品がある中で自分が「本物」を選んで使っているという満足感が、商品の提供者との関係をより深めて、真のブランド形成につながると考えるからです。
 もちろん、その「意味」にもタダ乗りしてくるような輩には、しっかりと対処が必要ですが。

 石巻工房の家具が、そのデザイン性や機能性だけでなく、意味によっても差異化された商品として、世界中に広まっていくことを楽しみにしています。

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