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グッドデザイン・ベスト100、デザイン経営 etc.

 ミッドタウンのデザインハブにグッドデザイン・ベスト100を見に行ってきました。
 今年は「グッドデザイン賞受賞展」が開催されず、受賞デザインの一部を実際に見れるのはこの機会に限れるとのこと。展示数は限られてしまいますが、そのぶん全体を俯瞰しやすく、「デザインとは何か」を改めて考えるよい機会になりました。

 今回改めて感じたのは、デザインの本質は問題解決にあって、外観の装飾はその一部でしかない、ということです。何を今さらという話ではありますが、それを具体的かつリアルに感じられる展示でした。
 それゆえに大事になるのは解決すべき問題、すなわち「問い」であり、どれだけみんながそう感じていて共感できる問いをたてられるかが、デザインの良し悪しを大きく左右するのだと思います。

 その「問い」には、共創に関するものとか、環境(特にサーキュラーエコノミー )、地域コミュニティーの再生といったテーマが目立ちましたが、展示の中で特に印象的だったのが、岐阜県多治見駅前の虎渓用水広場です。

 日本各地の駅前が、バスやタクシーで埋め尽くされた、単なる乗り換えの拠点である「交通広場」となる中、まちで一番人が集まりやすくて便利な「駅前」の意味を問い直し、その土地固有の表情をもった「まちの顔」にしようという試みです。
 虎渓用水広場は、明治時代からの多治見市の重要な遺産である農業用水を環境用水として駅前に引き込み、「水と緑に包まれた」広場としてデザインしたとのこと。交通広場は脇に寄せ、駅前には歩行者空間を展開させて、広場を通って駅から役所や商業施設へと抜けられる空間になっているそうです。

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     (「グッドデザイン・ベスト100」虎渓陽水広場の展示用パネルより)

 まちで一番人が集まる場所が土地固有の表情を失ってしまっているという問題を解決するためのデザインであり、デザイン本来の意味や、機能的価値(交通の利便性)から意味的価値(まちの顔)へという社会の変化を、とてもわかりやすく示した例であると思います。

 問題解決について、知財屋の視点で改めて考えてみると、社会の課題を探索して解決策を見出すという流れは、知財の世界でいえば特許を考える思考(背景技術→解決課題→解決手段→効果)とほとんど同じです。そうすると、解決手段が技術の領域に限られるものの、発明も問題を解決するデザインの一種といえるでしょう。
 ところが「デザイン経営宣言」では、産業財産権に関しては意匠権にフォーカスしていて、それが「デザイン経営」本来の意味に誤解(デザインを狭義に解して洗練された外観の自社商品を作るのがデザイン経営である、といった誤解)を生じさせやすい要因になっているのではないでしょうか。

 特許庁のホームページには、「デザイン経営」が次のように定義されています。

「デザイン経営」とは、デザインの力をブランドの構築やイノベーションの創出に活用する経営手法です。その本質は、人(ユーザー)を中心に考えることで、根本的な課題を発見し、これまでの発想にとらわれない、それでいて実現可能な解決策を、柔軟に反復・改善を繰り返しながら生み出すことです。
(https://www.jpo.go.jp/introduction/soshiki/design_keiei.html)

 このうち、「柔軟に反復・改善を繰り返しながら」(=アジャイル型で)という部分が、VUCAの時代にデザインが求められる肝だと思うのですが、これを実践しようとすると、今の特許制度との関係で、いろいろ不適合が生じてくることが予想されます。例えば、反復のどのタイミングで特許を出願するのかとか、改善の都度追加で特許を出すのかとか、アジャイル開発のスピード感に出願準備や意思決定がついていけるのかとか、反復の過程で新規性を喪失しないかとか...
 中長期の計画に基づく「モノの研究開発」を前提に設計されている特許制度や特許の意味を、「成果物の保護」が全てなのかということも含めて、根本的に考え直すことが必要な時期にきているのではないでしょうか。 

 話がマニアックな方向にいってしまいましたが、解決すべき問題、すなわち「問い」が重要であるというところに戻って、深沢直人さんの「ふつう」に、めちゃくちゃ刺さることが書いてあったので、自分の備忘録として書き留めておきたいと思います。

 ・・・ すべての人が感じ入ることのできる未来のビジョンを具体的に提示できなければ、みんなが間違えた決断をしてしまう。人は「感じていること」と「考えること」とが必ずしも同じではない。「感じること」は人間の本能だから生態的に言えば皆同じである。しかし考えて出そうとする意見や答えはみんなが感じ取っている素直な感想とは異なる場合があるし、ひとつにはまとまらない。考えや話し合いだけでは誤った決断をしてしまうことがある。 ・・・ デザインとは人が共通に感じている真実を明示して同調の基礎を築くことである。
   (深澤直人『ふつう』D&DEPARTMENT PROJECT,2020年,219-220p.)



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