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考えれば考えるほど、結局は哲学に向かう。

武蔵野美術大学 大学院造形構想研究科 クリエイティブリーダシップコース クリエ イティブリーダシップ特論 第13回 吉澤 到 さん(2021年10月4日)

 クリエイティブリーダシップ特論第13回の講師は、博報堂の新規事業開発部門「ミライの事業室」室長の吉澤 到さんです。

 吉澤さんは、博報堂でコピーライター、クリエイティブディレクターとして20年以上にわたり活躍されていて、その間にロンドン・ビジネス・スクールへの留学も経験されています。2019年4月には、博報堂初の新規事業開発組織「ミライの事業室」室長に就任され、「つながりを力に、新しい社会と産業をデザインする」ことに取り組んでおられます。
 クリエイティブリーダーシップ特論にご登壇される講師の先生は、ほんとバラエティに富んでいます。正直なところ、回によってはいろんな面で距離感がありすぎて、講義のエッセンスを掴みきれなかったりすることもありますが、今日はこの大学院に入学してから感じたこと・考えてきたことが集約されていたというか、これが最終回かと思っていしまいそうな、クリエ イティブリーダシップの総括的なお話で、頭の中がとてもスッキリしました。

 その中でも特に印象に残った点を、いくつか挙げておきたいと思います。

① コピーライターの役割について

 コピーライターって、文字通り商品のキャッチコピーやネーミングのような簡潔な言葉を創る仕事をイメージしていたのですが、スピーチ原稿やPRリリースなどの原稿を書く仕事も担当するとのこと。そんなコピーライターの仕事を、吉澤さんは「広告会社が関係するありとあらゆる言葉まわりに責任をもつ」ことと定義されていました。
 ありとあらゆる言葉まわりということは、どんな領域も含まれてしまうわけで、吉澤さんは「コピーとは、経営そのもの」と捉えているそうです。
 コピーの役割について、「経営者の思いを伝える」「進むべき方向を示す」などの他に、「現場の創意工夫を引き出す」を挙げられたのがちょっと意外でしたが、そのためには様々な現場に適用できるように、いろんな解釈ができる言葉本質をついているが曖昧さを残した言葉が有効だそうです。
 例えば、博報堂が掲げる「生活者インターフェース市場」。
 たしかに、それって何?とちょっと考えさせられる言葉で、様々な解釈が可能です。だからそこには、生活者のインターフェースに関わる様々なアイデアが生まれる余地が生じる、ということかと思います。これって、すごく応用が効きそうな考え方なので、自分も使わせていただきたいと思います。

② 近年のMBAについて

 吉澤さんがロンドン・ビジネス・スクールに留学されていた頃のエピソードについても、いろいろお話しいただきました。
 エンロン事件やリーマンショック以降、その反省から欧米のビジネススクールでは、計数管理のハードスキルから、組織行動学やリーダーシップ論などのソフトスキルを重視するようになっているとのこと。そうした傾向は、経営の現場や株式市場、ビジネス雑誌などのメディアでも顕在化しているように思いますが、欧米のビジネススクールでは、経済学やファイナンスの教授よりも心理学者のほうが多いと言われているそうで、ロジカルシンキングの総本山でもそこまでの変化が起こっていることには、ちょっと驚かされました。
 そんな中、それに逆行するかのような政策の動きを目にすることもあり、ほんと大丈夫なのか、日本は...

③「生活者発想」と「パートナー主義」について

 博報堂のフィロソフィーである「生活者発想」と「パートナー主義」。
 人を消費者ではなく、主体性を持って生きる生活者として全方位的に捉え、その洞察から新しい価値を創造するという「生活者発想」、クライアントと課題を共有してともに創造するパートナーになるという「パートナー主義」、これって、サービス・ドミナント・ロジック(S-Dロジック)そのものですね。
 今の社会が抱える多くの問題は、G-DロジックとS-Dロジックの対比によって構造的に捉えやすく、目指すべき方向性はやっぱりそっちだな、ということを改めて確認することができました。

④ 結局は哲学に向かう

 最後に、吉澤さんも強調されていた、哲学の重要性。考えれば考えるほど、結局はそちらにヒントを求め、哲学的な思考に行き着くのだと思います。
 自分がこの大学院に入ってからの最大の変化も、「それってどういうこと?」と考え、哲学系の本をよく読むようになったことかもしれません。

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