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Mystery に立ち向かえ。

武蔵野美術大学 大学院造形構想研究科 クリエイティブリーダシップコース クリエ イティブリーダシップ特論 第14回  佐々木 康裕さん(2021年10月11日)

 クリエイティブリーダシップ特論第14回の講師は、デザインファームTakramのディレクター/ビジネスデザイナー、佐々木 康裕さんです。
 Takramといえば、代表の田川さんが書かれたイノベーション・スキルセットがゴチャゴチャになってきていた頭をスッキリさせてくれるとても良い本で、佐々木さんもご著書のD2Cなどで著名な方ですので、CL特論の最終回、今年度の予定表を見たときからとても楽しみにしていました。

 本日の講義では、ビジネスデザイナーとしての佐々木さんの仕事の領域や、留学されていたイリノイ工科大学のデザインスクール(ID)についてお話しいただきましたが、その中でも特に印象的だったのが、留学時に学ばれた、新規事業創出における「超・多様性」と「創造性非依存の再現性のあるアプローチ」です。

 世界には、答えがある Puzzle(例えば「ビンラディンを殺害せよ」)と、答えがない Mystery(例えば「アフガニスタンを再建せよ」)の2つの問題がある。
 Puzzle は、論理思考、資源投入で解決が可能だが、
 Mystery は、システム思考・デザイン思考を駆使して、プロトタイピングを繰り返していくしかない。
 新規事業創出に限らず、パンデミック、気候変動など、今の時代に対処しなければならない問題はまさに Mystery である。ここまではよく耳にする話ですが、そのために求められるのが、デザイン思考や論理思考その他を有機的に組み合わせた新しいアプローチ=超・多様性であり、創造性やインスピレーションに依存せず、高い再現可能性を持った規律的プロセスとして新規事業創出を行う創造性非依存の再現性あるアプローチとのことです。

 IDといえばすごくクリエイティブなイメージだったのですが、さすがはアメリカの工科大学だけあって科学的なアプローチです。サイエンスとクリエイティブの関係って、なかなか難しいテーマですが、やはり問題解決に対してはサイエンスをベースに積み上げていくのが基本となるのでしょうか。
 そうすると、クリエイティブな要素はどこに効いてくるのか、そもそもクリエイティブって何かという話ですが、どうしても固定した枠内に収まりがちな論理思考に対して、その前提を疑ってみたり、崩してみたり、ジャンプしてみたりする、そういう揺さぶり的な要素が、クリエイティブに求められる重要な役割ということかもしれません。この1年半の美大での経験を通じても、そのように感じています。
 あと、計画や議論に時間を費やして、準備段階で徒に完成度をあげようとするのではなく、とにかくやってみる、やってみながら考える、ということの重要性も、今年仕事で取り組んでいるプロジェクトなどで実感しているところです。

 話は変わりますが、佐々木さんがデザインを学ぼうと思われたきっかけの一つが、ダニエル・ピンクのハイ・コンセプトとのこと。日本では2006年に出版された、ビジネスにおける右脳+左脳による創造性の走りみたいな本で、懐かしく思い出しましたが、そういえば当時、自分もブログにこんなことを書いていました。

 情報を的確に処理する機能を担う左脳に対して、全体的な思考力や新しい発想力を司る右脳の重要性が増している。
■ 左脳の役割は、コンピュータ、インド、中国に代替されていく。
■ システムエンジニア、医師、弁護士などの専門職は、左脳的な価値から右脳的な価値を売るようにならないと生き残れない。
■ だからといって、左脳を鍛えなくてよいということではなく、従来同様の左脳の働きを前提に、右脳と左脳で情報をやりとりしながら、創造性のある仕事をすることが重要である。
といった内容です。
 弁理士も、たぶん専門職に属する仕事なので、なかなか他人事では済まされないテーマですね。
 ただ、弁理士の場合にちょっと事情が異なると思うのは、明細書作成などの左脳的なルーチン業務を考えると、言語の問題や、発明の個別性という特性から、コンピュータやインドによって代替することは難しいのではないかということです。よって、弁理士業は他よりも左脳で食べていける期間が長くなりそうな感じですが、それをよしとして左脳型の仕事に満足していると、右脳と左脳のバランスで勝負する他の分野のビジネスマンとの感性の差は、ますます拡大していってしまうでしょう。何とも恐ろしいことです。
 「弁理士はビジネスセンスがない」という評判を耳にすることが少なくありませんが、ビジネスセンスとは全体を把握する力や想像力に関わる右脳的なものだと思います。これはある意味、弁理士業という仕事の性格上、左脳的な業務に埋没してしまいがちなことの帰結なのではないかという気がします。
 弁理士から芸術家に転身しようというわけではないので「右脳を強くする」ことを目ざすわけではありません。だから、もっと絵を見よう、音楽を聴こうという話とは少し違います。「右脳と左脳が連動する」のが目指すところなので、これは日常の仕事のスタンスから意識していかないと、なかなか実現できないのでしょう。

 なんだか恐ろしい予言をしていましたが、まさか自分が15年後に美大で学ぶことになっているとは...

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