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他人の芝は、青い「餃子荘ムロ」高田馬場

高田馬場駅戸山口出口から数分、大通りへ出る坂道の途中に餃子荘ムロはある。こちらの店は、池波正太郎のエッセイにも登場しており、ご存じの方も多いだろう。昔風の、薄皮餃子を出す老舗である。

古めかしい木戸はなぜか赤色のペンキで塗られており、ムロのレトロな看板とあわせていい雰囲気を醸し出している。

餃子は注文してから作り出すので、ある程度時間がかかる。そのため、注文するときに気持ち多めに頼んでおく。その時に難儀することが、なんの種類の餃子を頼むか、である。

ふつう、にんにく、チーズ、カレー、…。「ふつう」と「にんにく」の棲み分けがどうもよくわからない。「ふつう」にはにんにくが入っていないということか…。明日は仕事だし、「ふつう」にするか…。

この思考に陥った人々は(わたくしもだが)、後々、相当後悔することになる。ここの餃子は、明らかににんにくのほうが美味そうなのだ。なぜにそう思うかというと、隣に座った客がまず間違いなく「にんにく」「チーズ」など、インパクトのある餃子を頼むもので、わが「ふつう」の餃子をじっと見つめて、「ああ、無理してでもニンニクを頼めばよかった。」と自責の念に駆られながらビールを啜る、というのがこの店のお決まりのパターン(?)なのだ。

長ネギのおつまみをつまみながら、なおもずずっとビールを啜っていると、夜7時過ぎ辺りからだろうか、客入りがピークになり、厨房で餃子を包む手も一層忙しくなっていく。そのうちに、店の方が餃子を山と詰め込んだケースを二段、三段と積み上げて持ち帰り用のビニールに入れていく。餃子のたれのケースも適当にガサガサ放り入れると、時間ぴったりに常連客が店を訪れ、品物を受け取って帰っていく。

昭和ですか、ここは。

お店でもされているのだろうか。それとも家に食べ盛りの野球少年が5、6人いるのだろうか。真実は不明だが、優に20人前を超える餃子を消費するご家庭が高田馬場近隣にはあるらしい。

ネギみそやザーサイといった一軍選手のおつまみも池波先生がご存命のころからのメニューかと思うと愉快な気持ちになってくる。ザーサイで二本目のビールを飲み干し、少し一服。齢を重ねると、餃子をそうそう何皿も平らげることができなくなってしまうので、次こそは、「にんにく」で行こうと決心して店を後にする。

しかし、隣のひとの餃子の、なんと美味そうなことか。



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