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社内警察「先輩の弁当は手抜き過ぎるか否か」確かに…

経済活動がとうに本格化し、私の職場では「リモートワーク」と「通常勤務」の合見積を取れとの厳命が下った。月の勤務日数の1割から2割をリモートワークで実施するというものだ。なんだそれ

…もう「リモートワーク」の本質は失われている気もするのだが、それはそれで愛らしい、イッツアぷりてぃジャパニーズワールド

そうして、オフィスには期せず新しい生活様式が導入された。

「独りで食べる、お弁当タイム」

そう、従業員は各々時間をずらし、場所を違えて、個人個人でお弁当をいただく。なぜそうなったのか…は誰にもわからない。あたらしい生活様式の会社版だ。そして、外食三昧だった私もお弁当を持ち込むようになった…そうせざるを得なくなってきたのだ。

お弁当の先輩たちは会社内部の変化にも我関せず。粛々とお弁当タイムを満喫している。そこで、お弁当歴数十年の先輩が、何を食べているのかをうかがうことにした。

A先輩は、独身貴族の40代男性。世の中の流れに一切関与しないことを決めているようだ。先輩は職場に小さな丼を二つ、お箸を一善置いている。

お昼になると、まずイオンで買った白米のパックご飯をレンジで温める。

そして、小どんぶりにお味噌汁のもとを入れる。お味噌汁のもととは、乾燥のわかめや麩、あおさなどがブレンドされたもので、お湯にふやけて味噌汁の具になるものだ。

先輩は先祖代々職場で受け継いだ小さな冷蔵庫をデスク下に保有。そこからチューブタイプの味噌を取り出す。お味噌汁のもとの上に適量絞り出す。

あとはお湯を注ぐだけだ。

「先輩、おかずは?」

私は不安げに問いただす。先輩は案ずるなと得意げだ…

もう一つの小どんぶりにレンジで温めたご飯を盛り付け、デスクの引き出しから「ゆかり」振りかけを取り出す。

「もしかして、おかずはゆかりだけですか?」

私は白目で非難する。

しかし、先輩は気にもしない。

「んなわけない。」

先輩はくだんの小冷蔵庫から、大振りなタッパーをとりだした。自家製の味噌床に、小カブをいくつか漬けてあるのだ。

先輩の昼飯、それは即席の味噌汁と、ゆかりと、小カブの味噌漬け…と白ご飯。

「先輩、結局それ塩で飯食ってるだけですよね」

中高年にはきつくないでしょうか?

先輩は穏やかな顔でこたえた

「人生と同じ。なれると平気になる。」

私は、なるほどと思った。好いこと言うな。しかし、それでいて、先輩の真似をすることは決してないのだった。

私はリンゴを剥いて塩水にくぐらせてタッパーに詰めたものを頬張る。こりこりとうまい音がする。

先輩は私を睨みつけるが、何も言わない。

私と先輩の間にはアスクルで購入した樹脂製のパネルが立てられている。結構立派なつくりだ。それはふたりのあいだに毅然と立つ。

そして昼休みはあっという間に終わる。

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