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夢の途中「ドリームファクトリー」

窯焼きのピザというのも因果なもので、窯焼きがそうも珍しくもなくなった今では、お店のほうも「窯焼き」というその触れ込みだけでは生き残っていけなくなっている。

しかし、こちらのドリームファクトリーでは、薪をつかった大きな窯で旨いピザを焼く、そのことをアピールしなさすぎである。そんなんで大丈夫か?

前には白髪の名物親父がむすっと不愛想な顔で大きなマルゲリータを焼いてくれていたのだが、引退されたのか最近は見かけない。

その昔、私が何の気なしにテレビのニュースを見ていたら、浜松町駅近のビジネスホテルの新築工事中に、地面から白骨死体が出たという。そのニュース番組では近隣住民にインタビューしていたのだが、インタビューに答えていたのがドリームファクトリーの親父ではないか。

自分の店の近所から白骨死体が出るなんて、ちっともうれしい話じゃないと思うが、親父はにこにこ、心底楽しそうにインタビューに答えていた。あんなに機嫌のよい親父をみるのははじめてだ。

ちょっと変わっている。おいしい料理を作るひとによくある特徴である。

しかし、ピザっていうものは、窯で焼けばおいしくなるというわけでない、意外にも難しいところがある。すなわち、ピザ生地の性質、厚み、ソースの量、窯内の温度、赤外線の量…すべてが絡み合い、生地と、ソースと、何やかやが一体となって私たちに手早く提供されたときにはじめて「旨い!」となるものです。めんどうですね。

薪で窯を温めて、それもある程度年季の入った窯で焼く。ドリームファクトリーで毎日行われている仕業は、実はそんなにたやすいことではない。東京では店舗の広さや建物の構造などに制限が多いため、新規に薪窯を設置することが難しい。たいていはガス窯なのだ。

ドリームファクトリーの、かつてのマルゲリータは、薪を使った正統派の窯焼きで、薄い生地にたっぷりのトマトソース、モッツァレラチーズをぼてっと乗せたものであったが、現在では窯焼きと薄い生地はそのままに、チーズをふんだんにちりばめるスタイルになって、洗練されてきている。おやじのマルゲリータが復活するか、新しいスタイルが根付いていくのか、興味津々だ。

そして忘れてはいけないことは、こちらでは、ワインがかなり充実している。

砂糖と酢を混ぜたような無粋なテーブルワインは置いていないので、ワインリストから安心して注文することができる。いやむしろ、結構いいキャンティの赤が飲める。ビール党の私も、この店に来たならば、特別に…本当に特別の気分の日だが…キャンティを頼むことも。

浜松町駅の近隣には、イタリア料理の名店と銘打った店が出店してきており、竹芝桟橋方面に向けて新しい飲食街もできるようで、品川や新橋のようには大きくない、浜松町という中くらいのパイを飲食店があの手この手で奪い合っている状況だ。湾岸地域の発展に便乗して成功を夢見る料理人たちの熾烈なサバイブが繰り広げられている。

ドリームファクトリーファンとしては心そぞろ、気が気でない。

浜松町駅から大門方面へ徒歩5から7分くらい。大通りから少し入った場所にある。商売気はあるのだろうが、それがあまり伝わってこない、変に頑固でワインのおいしいピザ屋さん、それがドリームファクトリーだ。まだまだ発展余地あり。すべてはお客様次第。

週末はマルゲリータにキャンティで乾杯したい。欧米か!

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