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タルタルチキンで「ときめき弁当」浜松町

浜松町駅から数分の場所に、大きな高級高層マンションが建設され、地元民が口を揃えて言うところの、「都内最大の再開発失敗地域」との呼び声が高かった浜松町の街並みが少し変わった(もちろんいい方向で)。薄暗い浜松町北口の近隣、昔からあるいくつかの通りに、それなりにちゃんとした飲食店が入居するようになってきた。一昔前、浜松町の雑居ビルなど、上階にはビルオーナーが経営するマージャン店や、うさん臭さの残る「〇〇診療所」などが入居していて、とてもじゃないけど港区の感じはなかった。時が移ろうのはあっという間だということだ。

ただし、界隈の会社員たちにとってなくてはならない店も健在だ。「ときめき弁当」は、浜松町に一年以上勤めていれば知らないなんてことはありえない、おなじみの弁当屋。コスパに優れ、盛りよく、なによりおいしいお弁当を長年にわたって提供してくれる、ランチの救世主的存在だ。

ときめき弁当はあまりメディアで取り上げられることはないのだが(店長の、そういう主義、だろう。)、古くは90年前後に、糸井重里さんのエッセイに登場したこともある。バブルの萌芽が開き始めたころ、浜松町から歩いて10分くらいの、竹芝桟橋に有名な写真家などのスタジオがあり、当時のメディアの寵児たちが好んでその近くに事務所を構えていたという。やがてそれは青山や六本木、新宿などなどにステイタスアップして旅立っていくわけだが。

おそらくそのころには既にときめき弁当はコスパの良い弁当屋としてちょっとした有名店だったわけだ。建て替えによりもともとあった場所から十メートルくらいの場所に移転したが、はっきり言って、もはや老舗の部類に入る、それだけの年月を経てなお人気の店なのだ。

私がときめき弁当で買うのは、通常はその名を冠した「ときめき弁当」。ハンバーグや生姜焼き、豪華な主菜が二種類に、さつまいもの炊いたのと、ひじきの煮つけ、こんにゃくのピリ辛炒めに香の物、プチトマトなどなど。昼間から元気いっぱいのラインナップ。少し野菜不足だと感じるときにはゴーヤチャンプルー弁当。スパムを使った本格派だ。ゴーヤがたっぷり入っているので健康にも良さげである。しかし、しかし本当に食べたい弁当というと…

チキン南蛮弁当である。

こちらのチキン南蛮は、ちょうどよい大きさの鶏モモの揚げたものを、さっと甘酢ソースに絡ませて、タルタルをかけた、オーソドックスなものである。しかし、当然ながら、チキン南蛮である。マヨネーズたっぷり、ゆでたまごと玉ねぎたっぷりのタルタルが、これでもかとチキンに降り注がれているのである。さすが老舗だ。みんなの食べたいチキン南蛮というものがどういうものなのか知りぬいているようぢゃ。

カロリーのことは気にせずにチキンに乗せられるだけタルタルを乗せてかぶりつくと、甘酸っぱさが口いっぱいに広がる。しあわせっていうのはこういうことである。

一年に何度か、ついタガが外れて頼むチキン南蛮弁当。大きな声では言えないが、みんながときめくのはこんな弁当に違いない。

好いマヨ使っていますよ。それだけはわかる。


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