見出し画像

BARってなんだろう「クエルクス (QUERCUS)」大門

BAR、バーである。バーってなんだろう。木のカウンターとグラスと、バーテンダー。バーで小粋にお酒を愉しむ人って、本当に存在するのだろうか。酒とたっぷりのつまみがないと楽しめない性質なので、遠い国のおとぎ話のような存在だ。

ゆえに、一度は行かないと。

ある日思い立って、バーに行くことにした。大門の、駅から少し離れたところにあるクエルクス。

ことらのバーでは、地元の会社員たちが気軽に立ち寄ることでも知られている。浜松町から大門にかけて、「元」赤坂プリ〇スのバーテンダーでした、とか、「元」〇〇ホテルのバーに勤めていました、なんていう、「元」のひとが自分の城を持つことが良くあるのだ。いや、ほかの地区でもあるかもしれないが…何にせよ、そのため、近隣ではバーの居酒屋使いという荒業を披露する猛者どもが結構いる。そして、こちらの店では普通にカウンターに座って、酒を注文すればよいようになっている。簡単なメニューも用意してくれていた。良かった。

とても若いころ、名古屋の有名な老舗バーに行って飲み食いしたことはある。居酒屋を二軒はしごした後、もう少し飲んでみようという話になったもの。こちらで人生はじめてのドライマティーニを飲み、やっぱりスーパードライのほうがいいな、と失礼な感想を抱いてしまった。しかし、アボガドとエビとホタテとサーモンのタルタルサラダを頂き、冷っとした食感にこれはうまいと感動した。今でも特別の日にはアボガド、ホタテ、サーモン、茹でエビ、トマト、キュウリを食べやすい大きさに切って、たっぷりのマヨネーズで和えるという禁断のサラダを作ることがある。お勧めの一品だ。

クエルクスは、バーに行き慣れていない中高年のことも無碍にせず、むしろさりげなくエスコートしてくれるので安心だ。オーナーバーテンダーの人徳を感じる。せっかくのバーなので、ビールは封印して、ウィスキーを頼むことにした。

ボウモアとラフロイグ。一昔前にはウイスキーと言えばジョニ黒がテッペンだったが、シングルモルトの一大ブームは日本にすっかり定着した。シングルモルトを試したことがない方など、雑誌やネットの情報も良いが村上春樹さんのエッセイなどに目を通すのも楽しいものでお勧めです。

ラフロイグは、海藻や海苔をたっぷり含んだピートの香りが特徴。ピートの煙で麦芽を乾燥させ、そのいぶした香りが麦芽につくことによって、特有のスモーキーな香りが生まれるのだという。ここだけの話、飲むたびに「お、正露丸。」といつも思う。ただ、正露丸液を飲まされるというのでは単なる罰ゲームにすぎないが、一流のシングルモルトである。すっきり、カラッとした炎の酒が喉元を通ると、心が沸き立つような喜びにあふれてくる。蒸留酒の洗練ここに極まれりだ。

ボウモアはラフロイグに比べるとピート香、ヨード臭ともに抑えられ、スタンダードな旨さ。一口口に含むとふわりとアルコールが膨らんで美しい香りが鼻に抜ける。村上春樹さんのエッセイでは、本当にいいウィスキーはシングルでストレートで飲むのが良いというようなくだりがある。大人のお酒のたしなみというものだろう。いいウィスキーを前にすると、ウソ偽りなくそう思う。

画像1

クエルクスで、ウィスキーに合わせるのは、薄く削って花のように盛ったチーズと枝付きの干しブドウ。ふわふわのチーズが美味い。お替りが欲しくなる旨さ。

大人の遊園地、クエルクス。最後にやっぱり、ソーダ割も頼んでしまった。いつかボウモアやラフロイグの好いやつでハイボールを作ってみたいという不遜な欲望を胸に秘めて大門の夜は更けていく。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?