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ずっしり手作りの重み「Pan屋K’eat」茗荷谷

某有名チェーンのパン屋、駅ビルなどに出店し、店内で焼きたてパンを提供する、「あそこ」でバゲットや食パンを購入すると、確かにうまい。いい小麦を使って、きちんと手順を守って製造されていると思われる。

そして、いくつかの街のパン屋で、評判のものを購入しようとすると、なんとなく昔風のコッペパンだとか、オイリーな総菜パンだとかそれでも嬉しいラインアップが目白押し。高級パンと、街のパン屋さんは上手に共存して我々を楽しませてせてくれる。しかし、今回ご紹介するパン屋は、そうしたパン屋の「成功者たち」とはなにか趣が違っている。

そのいでたちは街のパン屋の代表格のようなパン屋キート。茗荷谷駅の拓大側、坂道を降りていく途中に民家をリフォームしたような間口の小さな店舗でひっそりと営業している。こちらのパン屋は、ここから二駅、池袋辺りの有名高級パンがかすんでしまうほどおいしくてボリュームがある。パンが大きいのではないのだが、ずっしり、中身が詰まってる系のパン屋だ。

いつも購入するのが、甘さ控えめで小倉餡のたっぷりつまったアンパン。チーズが香るクロックムッシュ。そして、食パン。売り切れの場合の方が多いので、その時その時、そのパンに出会えたなら即購入するのが吉。そして、どのパンも牛乳やミルクティーと合わせて食べると、脳に幸せ物質があふれ出すかのように、不思議な高揚感を与えてくれる。これこそプロの「てづくり」パンの真骨頂。

ボリュームが大きいという風には見えないが総菜パン一つか二つでおなかがいっぱいになる。その理由は、この店の生地の素材、発酵方法が、他のパン屋とは一味違うのではないかと思われる。おそらく高級店がこの店と同じことをしたならば、採算が取れなくなってしまうのだろう。どのパンもまるで上質のベーグルのようにもちもちずっしり。もちろん、だからと言って素人が作成した発酵不足のパン(経験あり)というわけではない。小麦の甘みと食べ応えある、お食事パンとして満足できる素晴らしい仕上がりになっている。

パン屋キートは、ご夫婦で、自分たちが作れる範囲で商品を提供し、それ以上は「やらない」というスタンスのようだが、あえての茗荷谷、主要駅が一つしかない住宅と大学が共存する不思議な街でその方針が奏功した。早い時間で閉店してしまうのも、知る人ぞ知るラーメン店みたいでかっこいい。

いちど、店舗手前にある階段を上ろうとして、「二階は厨房です。家の」と、優しく奥様にたしなめられたことがある。店舗は一階のみ、小さなガラスケースの中に数種類のパン、そしてケース上に二つ三つ総菜パンが残っていれば、まだあなたは幸運な方だ。

焼きたての食パンが一斤、棚に置かれていたならば、ご主人に「まだ買えますか?」と聞いてみよう。

「半斤なら大丈夫そうです」優しそうなご主人がすまなそうに最後の審判を下すことがある。

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