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優しくてちょっとアホな和歌(万葉集)

梅の花降り覆ふ雪を包み持ち
君に見せむと取ればにつつ
(『万葉集』巻十、1833)


(意訳)
梅の花に降る雪を袖に包み
君に見せてあげようと、取り出すけれど
すぐに消えてしまうよ


 そこに美しいものがあるから、愛する人に見せたくて、反射的に手に取る。それがあっという間に溶けて消えてしまうものであることを忘れて。なんだか愛らしい歌です。雪の白さも相まって、純粋無垢な印象を強く受けます。
 この和歌を知った時、隣に友人がいたので、「この歌かわいくない?」と共感を求めました。友人の返答はこうでした。

「なんか良守みを感じるな」

 良守とは。
 少年漫画『結界師』の主人公、墨村良守です。

 『週刊少年サンデー』に連載していた、妖怪退治物語の漫画のキャラクターです。ただひたすらに純粋で素直で優しくてまっすぐで、ちょっとアホ。いや、けっこうアホ。それが良守です。そんなアホの子良守には、想い人がいました。幼馴染であり、戦友であり、お姉さん的存在であるお隣さん、雪村時音です。良守は、ぞんざいに扱われながらも、時音のことをとても大事にしています。かすり傷ひとつに、「大丈夫か、時音!?」と大騒ぎします。それが良守です。

 「良守っぽさを感じる」という友人の言葉を聞いて、目ん玉が飛び出ました。何を隠そう、この歌を読んだ時に私の頭に浮かんだのは良守だったのです。
 好きな人のことだけを想って、他には何も考えず、思わず雪を手に取る、そんな無邪気さと恋する心の塩梅が、良守を思わせます。想い人の名前が「雪」村時音であったことも、イメージを結びつける要因かもしれません。

 想定していた範囲をはるかに飛び越えて、感覚を共有できたことがとても嬉しかった、良い思い出の一首です。


 10年以上前の少年漫画と古典和歌が好きで、この記事に共感する人がこの世にどのくらいいるのか、気になるところですが。


田辺イエロウ『結界師』第二話

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