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SIX WORDS の楽しみ (7)

 不定期連載「SIX WORDS の楽しみ」第7回です。10年前に書いたものに少し加筆して再構成しています。第1回から第6回まではここにまとまっています。
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  Mother-in-law is one-person flash mob. 

 flash mob は21世紀にできた新語で、ネットやEメールなどによって事前に連絡し合った不特定多数の人間が、ある日時に公共の場に集合して、わずかな時間にパフォーマンスや集会などをおこなうことを指します。つまり "一瞬の群衆"ですね。
 flash mob は元来ちょっとした楽しいパフォーマンスが主流で、劇団などが公演の宣伝を目的としておこなうこともしばしばありましたが、最近ではこれが暴徒化して、集団強盗や破壊行為へとエスカレートすることも少なくなく、社会問題となっています。楽しいものも暴徒化したものも、どちらもYou Tube などでたくさん見ることができます。
 問題の six words は、義理の母がひとりで flash mob をやっている、いや、正確には、flash mob そのものだと言っています。真意はよくわかりませんが、さすがに暴徒だと言いたいわけではないでしょうから、気まぐれに突飛なことをやってのける女性のことをおもしろおかしく表現したと考えられます。あるいは、突然カッとなることがあると言いたいのか。「うちの姑、ひとりフラッシュモブ」。これがサイトに投稿されたときには "i feel your pain!!!" というコメントがつき、それに対して作者は "I hear it's a worldwide phenomenon(!) haha " と答えています。

  Our first divorce just didn't take. 

 最後の take の意味がわかりにくいのですが、結論から言うと「保たれる」などの訳語になるでしょう。くわしい英和辞典には、自動詞としての意味の何番目かに「(植物などが)根づく」という記載があり、これが近いと言えます。
 つまり、意味は「あたしたちの最初の離婚は長続きしなかった」。「結婚は」ではないところがおもしろいですね。要は、しばらくで再婚したということですが、ここで注意してもらいたいのは、あえて first divorce と言っていること。ということは、ひょっとしたら、second divorce が長続きしたのではないでしょうか?
 そこで、同じ作者の過去の作品をあれこれ調べたところ、"Thought the second time would work."(2回目はうまくいくと思ったのに)や "we married twice we divorced twice" というものが見つかりました。男と女というのはむずかしいものですね。

  Ponder America's preoccupation with Zombie Apocalypse. 

 zombie Apocalypseをそのまま訳せば「ゾンビの黙示」あたりでしょうが、わかりやすく「アメリカのゾンビ襲来ブームを考える」とでもしましょうか。作者がブームに対してどう思っているのかまではわかりません。
 zombie Apocalypse と聞いて思い浮かべるものは、アメリカであれ日本であれ、人によって色々でしょう。シューティングゲーム、映画、小説など、さまざまなジャンルにゾンビが登場します。わたし自身はジョージ・A・ロメロ監督による初期の映画を何本か観ただけですが、大好きな人は身のまわりに何人もいます。小説のジャンルでは、少し前に『高慢と偏見とゾンビ』『WORLD WAR Z』『憎鬼』といった傑作が立てつづけに翻訳され、ますますファンを増やしているという印象を受けます。
 SMITH Magazine のサイトでも、ゾンビをネタにした six words をよく見かけま同じ同じ作者が1日のうちに "Favorite zombie cocktail: blood from Mary." だの "Zombie sushi: your brains skin wrapped." だの "Zombies sign checks with your blood." だのと連続投稿しているのを見たときには、あまりのばかばかしさに噴き出したものです。

  Steve uploaded himself above the Cloud. 

 アップル社の前CEO(最高経営責任者)スティーブ・ジョブズが逝去した日にツイッターに書かれたもので、ダブル・ミーニングを鮮やかに駆使しつつ、ジョブズへの深い哀悼の意を捧げています。
 cloud (クラウド)とはむろん雲のことですが、最近ではデータをインターネット上に保存する cloud computing の略語としてもよく使われますね。マッキントッシュや iPod や iPhone などを生み出したカリスマ経営者ジョブズは、コンピューターを心底愛した創造者・芸術家でもあり、この先もどんな夢を与えてくれるのかと多くの人が期待していたので、56歳というあまりにも若い死はほんとうに残念です。この six words は、雲の上へのぼったジョブズのことを cloud と upload というその生涯を象徴することばで言い表したみごとな作品です。超訳気味ですが「スティーブ自身も雲(クラウド)のなかに」と訳しておきましょう。

  Like Brigadoon, they all just disappeared. 

 Brigadoon はアイルランドやスコットランドに古くから伝わる民話に登場する不思議な町で、100年に1度だけ現れて、ひと晩で姿を消してしまうと言われています。1940年代にはここを舞台にしたブロードウェイのミュージカルが、さらに50年代にはその作品をもとにした映画が公開されたので、アメリカ人にもよく知られています。タイトルはそのまま〈ブリガドーン〉。映画はヴィンセント・ミネリ監督、ジーン・ケリー主演によるもので、スコットランドの高原を訪れたニューヨークの若者が道に迷ってこの村を目のあたりにし、村の娘と恋に落ちる物語を幻想的なタッチで描いています。もちろん、ダンスシーンも満載。わずか1日しか与えられていないふたりの恋がかなうかどうかを知りたい方は、DVDなどで確認してみてください。
 冒頭の six words の訳は「幻の町ブリガドゥーンのように、みんな消えてしまった」。they はだれのことなのでしょうか。人ではなく、物なのかもしれませんね。あれこれ想像を掻き立ててくれる、奇妙な味わいの作品です。

  Fifty: It's the REAL f-word. Yo. 

 f-word というのは、英語の公の文章で表立っては使えない fuck という単語の婉曲語です(ただし、ここでは卑猥なニュアンスはなく、「くそったれ」などに近い罵倒語)。fifty も f ではじまるので、これもいわば f-word。50歳になってしまったことを嘆いているわけですが、ちょっと気がきいていますね。
 これに似た four-letter-word というのもご存じの方が多いでしょう。性や排泄に関連した下品な語には4文字のものが多いので、そう呼ばれています。上の fuck をはじめ、shit、piss、damn……などなど。
 問題の six words は残念ながら翻訳不能です。最後の Yo はいろんな意味にとれる間投詞で、「やあ」「おい」などがふつうですが、ここでは「あーあ」あたりが近いでしょうか。以前ツイッターで、fifty を forty に変えて、「不惑の不は、不安の不。オエッ」と訳してくれた人がいました。あまりにもみごとな、あまりにも豪快な訳なので、これを決定訳とさせてください。
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 書籍『SIX-WORDS たった6語の物語』は、残念ながら現在では入手困難です。ツイッターでは @sixwordsjp のアカウントで1日ひとつを紹介しているので、よかったらご覧ください。


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