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小説&ショートショート

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小説は主に短編です。フリー台本として、ご自由にお読みください。 (全部ではありませんが、「聴くっしょ!」にも投稿しています)
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#シロクマ文芸部

冬色のカーテン|掌編小説(#シロクマ文芸部)

「冬色のカーテンです。大切にしてね」  そう書いたメモと一緒に、白のレースカーテンが送ら…

トガシテツヤ
10か月前
79

夏雲|掌編小説(#シロクマ文芸部)

 夏の雲がふよふよと漂っている。群れからはぐれて、地上まで降りて来てしまったんだろう。ふ…

トガシテツヤ
2か月前
52

いつもの月|掌編小説(#シロクマ文芸部)

「月の色がおかしい」  同僚はそう言って、突然立ち止まった。 「そうか? かなり明るいけ…

トガシテツヤ
3週間前
65

金色の稲穂|掌編小説(#シロクマ文芸部)

 懐かしい色だった。  ――そうか。もうすぐ稲刈りか。  俺の地元では稲作農家が多く、そ…

トガシテツヤ
1か月前
61

イチョウの木|掌編小説(#シロクマ文芸部)

 12月の頭に帰省しようと思ったのは、年末年始の民族大移動に巻き込まれるのが嫌だったから。…

トガシテツヤ
10か月前
59

空色の鉛筆|掌編小説(#シロクマ文芸部)

 新しい色鉛筆を買った。とは言っても、それは「空色」と書かれた1本の鉛筆で、黒色の芯が付…

トガシテツヤ
9か月前
87

梅の実|掌編小説(#シロクマ文芸部)

 梅の花を見ると、亡くなった祖母を思い出す。  名前が「梅」だったんだが、それだけではない。  祖母の家は、岐阜県の山奥にある。子供の頃、秘境のような場所にある祖母の家が大好きだったが、あまりに田舎過ぎて、野犬やイノシシ、猿などが悪さをすると、たびたび問題になっていた。実際、僕も小学校の帰り道、野生の猿に執拗に追い回されたことがある。  そしてある日、僕は野犬に襲われ、左腕に大怪我を負ってしまった。病院から帰ると、祖母の家には大勢の人が集まっていて、なぜか近くのお寺の住

海砂糖|掌編小説(#シロクマ文芸部)

「海砂糖を1つください」  僕がそう言うと、店主は眉をひそめた。 「あなた、海砂糖を一体…

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ブルーハワイ|掌編小説(#シロクマ文芸部)

 かき氷を食べるカップルとすれ違う。さっき屋台の前を通ったら、「300円」となっていた。 …

トガシテツヤ
2か月前
55

味のしないコーヒー|掌編小説(#シロクマ文芸部)

 ――本を書くように読む。  もの書きに転職した友人が言った。意味が分からず、続きの言葉…

トガシテツヤ
9か月前
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桜色の季節とダメダメな私|掌編小説(#シロクマ文芸部)

 ――桜色の季節?  とんでもない。私にとっては、まさに暗黒時代の幕開けだ。 *** 「…

トガシテツヤ
6か月前
84

黒い紫陽花|掌編小説(#シロクマ文芸部)

「紫陽花を見に行こうよ。週末、晴れるみたいだし」  彼氏からのメールに、すぐに返信する気…

トガシテツヤ
4か月前
55

始まりはいつも夜|掌編小説(#シロクマ文芸部)

 ――始まりはいつだって夜から。  僕らが真っ暗な海の底から、小さな泡粒と一緒に生まれた…

トガシテツヤ
6か月前
59

キガラシの花|掌編小説(#シロクマ文芸部)

「春と風に中てられたんだな。何とも運が悪い人だ」  診療所に運ばれてきた若い女性を見ながら言う。いや、宮下が偶然近くを通りかかったので、運が良かったと言うべきか。 「死んでんのか?」  女性を運んできた宮下が心配そうに聞く。 「心配要らないよ。3秒で起きる」  気付け薬を女性の鼻のそばに持って行くと……。 「はっ!」  飛び起きた女性に驚いたのか、宮下は「おお!?」と変な声を出す。 「お姉さん、記憶は?」 「えっと……菜の花畑を見つけたの。そしたら、急にめまい