カルチャーのダイリューションに抗う
こんにちは「すべての経済活動を、デジタル化したい」、石黒です。
成長フェーズのスタートアップで採用活動をしていると、頻繁に聞かれる質問があります。
「この先、組織が拡大すると思うんですが、組織文化が薄まったり、いわゆる成長痛が起こるかと思いますが、御社は大丈夫ですか?どんな対策を考えていますか?」
私は、前職では60人から1800人、現職では30人から330人(現在進行中!)への成長過程で、多くの採用面接・面談に関わってきました。その数百数千の入社したメンバーたちの面談やオンボーディング、入社後に日を経ていく過程でこの質問を何度も受け、またこの問題に直面し続けてきました。
前職も現職のLayerXも、「企業文化に投資する」会社です。
以下のfukkyyのnoteをぜひご一読ください(note内にメルカリの小泉さんの記事もあります)。
1. 成長とカルチャーのジレンマ
「カルチャーの希薄化」という問題はスタートアップの成長とともに浮上します。経験則から書くと、「問題が浮上します」ではなく「問題が浮上するように感じるメンバーが増えます」と言う表現が正しいように思います。
特に、事業成長と積極採用が組織拡大を促進するタイミングでこの問題が顕著になります。急速な事業成長に伴い、「採用するメンバーのマッチング精度を確保することが難しく」なり、濃度の濃かったカルチャーに変化が生じます。
2. 成長痛とは何か、カルチャーの希薄化が問題となる理由
そもそも成長痛とは何でしょうか。なぜカルチャーの希薄化が問題になるのでしょうか。
スタートアップにとってスピードは命です。圧倒的なスピードで価値を生み出し事業を成長させ、社会の価値観を変え、社会を変革していく。その実現には、事業に向き合うメンバー相互の信頼が必要であり、その基盤となるのが強固な企業文化です。
一方、事業成長が加速することで、相互信頼を積み上げるための会話やコミュニケーションが不足したり、日常業務での「違和感」をそのままにしたり、「しらけ」が発生するなどいわゆる成長痛が起こり始めます。
3. カルチャーのダイリューションに抗う
ジレンマにどう向き合うか、成長痛やカルチャーの希薄化をどう乗り越えていくのか、3つにまとめて具体のアプローチを書いてみます。
[1]小さな違和感をそのままにしない
あなたが向き合っているその違和感、本当に大事
違和感(=得体のしれない何となくこれまでと違う何か)をそのままにせず言語化し、イシューにして向き合ってみてください。「以前は公開されていた議事録やプロセスが見えなくなった」とか、「DMじゃなくていいものがDMになった」、「経営チームやLeadershipメンバーの行動や行動指針への納得感が下がった」、など。
小さな違和感へのアクションは会社の資産になります。長期視点での文化形成・カルチャー維持に大きな影響があることを数ヶ月、数年後に実感するでしょう。
その違和感って見えるの?経営やHRはどうやって対策するの?
当社で取り組んでいる(取り組んできた)具体の施策を紹介します。
LayerXでは以下のようなサーベイを用いて、組織や個人のコンディションの「定点観測」を実施しています。時間軸は半年/毎月/日単位と様々です
LES(LayerX Engagement Survey)
半年ごとに実施するeNPSを含めた40問程度の組織Survey
MCS(Monthly Condition Survey)
毎月第1週にSlackbotで5つの質問を聞く。回答は1-3min程度
1on1の実施状況、コンディションの変化、フリーコメント
日報(daily report)
日報の数や、一言コメントなども「違和感」に気づく材料になったりします
大切なことはこれらの施策の後のアクション
サーベイの内容を良く読み、「違和感」に蓋をせず、可能な限りQuickにアクションすること。これがサーベイを活用したPDCAサイクルを作るとても重要なことです
LayerXではサーベイの内容をもとに、オープンドアを実施したり経営<>HRの会議体でイシューレイズするなどサイクルを回して違和感に向き合っています
[2]「退職」と「採用」に徹底してこだわる、向き合う
採用にこだわり、退職から学ぶ
採用活動の重要性は様々なところで言及されています。あまり多くは書きませんがシンプルに「迷ったら見送る」という原理原則を強度高く遂行できるかという点に集約されると考えています。スタートアップの人事や採用責任者の役割はアーリーフェーズは採用そのものであり、とにかく候補者を集めることや採用広報に比重が置かれがちですが、成長期になればなるほど役割が「採用ガバナンス」にシフトしていきます。経験則ですが、この健全性をどう保つか、というところに勝負の分かれ目があるように思います。
同時に「退職」にも向き合っていく必要があります。一例ですが「Exit Interview」という退職者面談とアンケートを実施し、その内容に組織として向き合います。退職者の声に正面から向き合い、文化を維持し続けるためのヒントがないかを確認し続けます。
[3]あなたがオーナー
企業文化のオーナーはCEOでもなく、カルチャー担当の社員でもなく「あなた」
企業文化は一見、創業期のメンバーや、代表だったり役員だったり部長だったり、HRやカルチャー担当が担っているように見えます。私はここに大きく異を唱えたいと思っています。企業文化は毎日毎日変化するものであり、競争力の源泉となるものであり、その構成要素は一人ひとりの企業活動に関わるメンバーです。
誰かがサボったら劣化してしまうのもですし、誰かが磨き続けたら、より良くなるものです
組織規模が大きくなると「誰かが作った波に乗ろう」と思うメンバーがでて来ることがあるかも知れません。そんなときこそ一人ひとりがオーナーシップを持ち、滑らかじゃなくてもいいので企業文化を自分の言葉で語り、好きなところ、改善したいところをお互いで話し合ってみてください。オーナーシップを持つきっかけは様々なところにあります
一人ひとりが責任と自覚を持ってカルチャーのダイリューションに抗い続ける、これが私が考える今回の問いに対する答えです。
4. これから
「カルチャーは不変がいいのか、進化がいいのか。」
こんな質問も受けることがあります。
ダーウィンの進化論(最近は諸説ある)には「唯一生き残ることができるのは、変化できる者である」とありますが、企業文化には変化が必要だと考えます。カルチャーはアップデートされるべきで、大切なのは変わってはいけないことと、変わり続けることを明示し、定期的な見直しを行うことだと考えます。例えば当社の「LayerX羅針盤」は半年に一度見直しを続け、優先度の入れ替えを定期的に実施しています
これからも変わらずやり続けたいこととしては、小さな変化や違和感から目を背けないこと、そして変化を恐れないことです。これまで多くの失敗も経験してきましたが、それらを糧に素晴らしいメンバー、そしてこれから迎える未来のメンバーと成長していきたいと思っています。
5. さいごに
共に悩むみなさんへ。カルチャーのダイリューションに抗い、企業文化をアップデートし続け、「未来の希望を実装」していきましょう。