「絶対無理」なんて「絶対」ない!
たまたま マネーの虎 に出演されていた社長たちのその後について取り上げていた動画をみた。私は当時リアルタイムでみていた世代なので懐かしくてついついみてしまった。
あんなに偉そうにしていた社長たちの何人かがその後に破産しているのを知ると、番組の演出もあるとはいえ、思うところはいくつかある。
ビジネスの成否は運や時勢に依るところもある
一時的に成功しても慢心してはいけない
他人に横柄な態度や傲慢な振る舞いをしていると勘違いする
おそらく社長たちにとって、あの番組そのものが転落の一歩を踏み出すきっかけにもなったように、いまとなっては別の見方ができる。
それはともかく、同じ破産した社長たちの中でも南原竜樹さんがすごい。年商100億まで成長した会社が、取引会社の破産を受けて、資金繰りが悪化し連鎖倒産した。そして、そのときに2年かけてすべての負債 (20億円) を返済して、本人もホームレスになって、そこから再起してまた年商100億の会社を築くまで復活したらしい。
オンラインで検索してみると、あまり新しい情報は出てこないことから、もう経営の第一線からは引退されているようにみえる。どん底の状況から見事に復活した実績に惹かれて、南原さんの経営の価値観を学ぼうと本書を手にとってみた。最初に断っておくと、本書は2012年2月に出版されたものでまったく新書ではない。書かれている内容のいくつかは時事的にいま読んでも役に立たないものもあるかもしれない。
私が若い頃に影響を受けた大川功さんの語録の中で印象に残っている言葉がある。経営においてトップの思想・ビジョン・価値観に筋を通す重要性を説き「思想のない会社は滅びる」と書かれていた。
私が南原さんのやや昔の著書を読む理由の1つに、経営の価値観について学びたいというところがある。そういった抽象的な内容というのは、たいてい10年ぐらいで色褪せるものではないように思われる。そして、過去に書かれた書籍を読む価値の1つに、歴史から答え合わせができるというのもおもしろい。10年前に書かれている内容が、いまの社会や経済や世の中と比べて妥当なのかどうかを検証をしながら読み進めることができる。
出版業界に参入する
本書は AT パブリケーション という、南原さんと桑田篤さんという方が設立した出版社から出版されている。桑田さんはその後 グラシア という会社で独立されたらしい。
AT パブリケーションという会社は4年ほどで別会社の出版部門へと移り、いまは LUFTメディアコミュニケーション という事業になっているらしい。
当初の想定通りのビジネスを描いたかどうか、外部からはわからないが、設立者が会社を去った後もビジネスそのものは継続できているようにみえる。大きく成功していないことは確からしくみえる。
この出版ビジネスの成否のみをもって本書を評価するつもりはない。そんな簡単にビジネスは成功しないし、大半は失敗して当たり前だという前提をもっている。従って、まだビジネスを継続できているなら収支が折り合うところはあるのかもしれない。
事業計画書を作って常に修正する
本書では大きな割合で事業計画書の作り方や、事業を行う過程でその内容をアップデートしていくことが強く推奨されている。おそらく南原さんの経営の型の1つとして、事業計画書をかっちり作って、その戦略にブレない経営を行うといったやり方にみえる。やはり「書く」ことは論理的でなければできないことから、南原さんにとっては事業計画書を書くことがビジネスモデルのロジックや経営におけるマネジメントの検証や遂行において大きな意味をもつのだろうと思う。
私は事業計画書のようなものをかっちり作ったことはない。その代わりと言えるかどうかは定かではないが、課題管理をもって事業計画をアップデートしている。課題管理システムに登録する issue の1つ1つが、事業計画の個々の施策であって、issue を登録したからすぐに取り掛かるというわけでもなく、その時その時考えた内容や施策を練かしておき、新しい情報があれば追記し、考え方が変わればまた追記し、あるとき優先順位をつけて、その課題に取り組むように再整理する。
戦略を練るフォーマットやスタイルは異なれど、戦略なくして経営できないというメッセージは強く受けた。
情報に先んじる
「失われた30年」で日本が得た教訓の1つとして、管理監督だけやって変化の早い時代には追随できないということではないかと私は考えている。私の周りでは、内製回帰、自分たちのビジネスのコアは自分たちで作るという会社が増えてきたようにみている。
私が若い頃は現場の仕事は新人や経験の少ない人たちがやって、それを管理することがキャリアのステップアップのようにみなされている風潮があった。それが行き過ぎて、現場の経験やスキルもない人に管理者を任せるようになった。私の周りで実際にあったもっともひどい話の1つに、プログラミングスキルの低い人は現場で活躍できないからプロジェクトマネージャーを任せるという人事が少なからずあった。これは戦力にならないメンバーを解雇できないという、日本の大きな雇用問題の1つでもある。マネージャーや管理職はどちらかというとスキルがある人よりも、スキルがない人の方が多かった。おそらく欧米の外資企業では異なるのではないかと推測する。
閑話休題。一定の経験がある人がメディアなどで、自分がドメイン知識をもつ分野のニュースや記事などを読むと違和感を感じることがたまにあると思う。それは専門分野が高度化・もしくは複雑化してしまい、専門知識のない記者が書いた記事では、正確且つ簡潔な内容を書けないのだと推測する。これは管理監督者があげる報告も同じである。門外漢が書いた記事や報告では、当然のように不適切な内容であったり過不足が多分に含まれるため、その情報を当てにして意思決定をするのは危険だという認識はもっておくとよい。
本書においても、南原さんが常に現場へ出向き、自身の肌感覚でその状況判断をしていることが書かれている。逆に市場レポートのような情報には発信側がその情報をどう受け手に届けたいかという意図が含まれていることにも注意を促している。
これは私の経験則だが、本当によい仕事をする人たちの多くは、できる限り、現場の人たちに要件をヒアリングしたり、現場の情報を得るために努めようとする。これは損得で動く人たちにとってコストパフォーマンスが悪いため、大きく差別化できる領域の1つにみえる。言うなれば、損して得取れといった戦術になる。私も直接、顧客とやり取りしてシステム開発する経験が多かったから分かることだが、課題に対する責任の所在はどうあれ、困っているお客さんを目の前にしてその状況を放置するのは大きなストレスがかかる。そのストレスを避けるために顧客の前に出ていかないという方針を取る人が少なからずいる。社内から受けた報告の範囲内だけで仕事をしていれば自身の責任は果たせる。当然、このやり方の方がコストパフォーマンスは高い。見た目上、うまくいっているようにみせることもできる。この機微の違いがわかる人とわからない人では1次情報が異なり、結果として働き方も大きく異なる。
起業の3本柱
私自身そうだったのだが、長年に渡って普通のサラリーマンをやってきた人間が会社を経営するにあたり、初めて取り組まないといけない課題が財務 (会計 + 税務 + 予算もしくはキャッシュフロー) になる。
私の場合、起業してから最初の1-2年は本業よりも財務を安定化させるための取り組みや勉強に多くの時間を割いた。ここで経営者自ら会計や税務をするかどうかという判断軸がある。経営者は自身の専門分野の業務に特化し、財務を会計士さんや税理士さんに依頼するという選択肢もある。どちらを選ぶかは経営者の価値観次第だが、私は自分でやることを選択した。
自分でやるメリットとして次があげられる。
財務を学ぶきっかけになる
経費を削減できる
キャッシュフローを自然に意識するようになる
橘玲氏の著書に影響を受けているのもあり、私は起業してから財務を学ぶことにしていた。
閑話休題。本書では南原さんが起業家にとっての3本柱として次をあげている。
マーケティング
財務
経営
私のような、専門職で働いてきた人間はどれも苦手なものだと推測する。もちろん苦手なものを他者に委譲するというのはなにも問題はないが、委譲したからといってこれらの分野に無頓着であったり、無責任であることとは違うと私は考えている。
本書から引用すると「事業は通常先払い」になるという。つまりどんな事業であっても最初は赤字から始まる。赤字の時期をどうやって補填しながら事業を始め、売上を上げて、利益を増やし、最終的には最初に投資した資本を回収するかという計画が必要になる。その過程を財務が支える。私はまず財務から会社の足固めを始めて、最近は別のことに注力できるだけの基盤は整ってきたところだ。
私自身、4年ほど経営をしてきて、経営というのは千差万別、その人の価値観だから多くのケースにおいて良し悪しはないのだと考えている。その価値観が世の中の変化、その時代の流れにあうかどうかで成否が語られたりするのではないかと思う。わかりやすい例として、年功序列と終身雇用という雇用慣習も、高度成長期には世界中から称賛され、いまとなっては悪しき慣習とみなされたりしている。そして、いまでもこの慣習を継続していて、成功している会社もあれば、そうじゃない会社もあると思う。
これからプロダクトを開発していく段階なので、マーケティングはこの先の数年をかけて取り組んでいくことになるだろう。
ひらめきとイノベーション
本書を読んでいて、あまり見聞きしたことない内容だったのが次になる。
私の過去を顧みても、そういう場面もたしかにあったなと思う。抽象化すると、一定のストレスがないと脳が楽をしてしまって怠けてしまうところはあるのだろう。それはモノゴトがうまく進捗しているときよりも、うまくいっていないときの方が真剣さや集中力を増すことは多い。さらに忍耐や持久力も必要になってくる。
この南原さんの仮説では、失敗をしてすぐにやめてしまったり、精神的に参ってしまったりするのは「ひらめき」を起こす上では不利になることが伺える。
私の場合、失敗の多い人生だったせいか、若い頃に何度も挫折して、もうダメかなというところをなんとか生き残ってきたので失敗に対する許容度は高い方だと思う。失敗耐性と呼ぶのか、それは若い人に比べて経験のある年配者の方が有利な点かもしれない。もちろん失敗を前提に事業をしているわけではないが、確率的に言えば、失敗する方が大勢なのだから、自分のやることが想定通りに進むわけがないと客観的にみている自分もいる。
最初から想定できることは、最初から対策を取ることができる。しかし、そうじゃないことや実際にやりながら対応していくしかない。その常々の失敗、小さいものも大きいものも含めて、南原さんの考え方で言えば、イノベーションの種になっていると理解できた。
経営者の資質
本書では経営の本質の1つとして、人を動かすことについても書いてある。
私はいま1人で働いて1人でやりくりしているため、社員にお願いして仕事をしてもらうことができるのかどうか定かではない。そして、これまでそういったヒューマンスキルをないがしろにしてきた態度もあったため、最近はマネージャーをやりながらどうやってメンバーを指導すべきかに悩んでいたりする。自分自身が他者をうまくマネジメントできないだろうという自覚もある。これは練習で身につくスキルというよりも、その人の性格や資質に依るところも大きいのかもしれないなとも考えている。
いま私が考えている経営は、うちの会社に社員を雇うというよりも、個々のマイクロ法人が協調して一緒にプロジェクトを取り組むといった形態を考えている。そこには組織の上下関係も指示系統もなく、それぞれが個々の強みを発揮した結果におけるビジネスを想定している。もちろん、それでもまとめや調整を担うマネージャーは必要にはなるだろう。しかし、それも役割であって組織のラインや階層関係にとらわれない形が望ましいだろう。
いずれにしても、これは組織の階層をもって上意下達するよりも、コミュニケーションとしては高度なやり方になるだろう。いまどきの経営は1社に閉じなくてよいのではないかと考えている。
POINT の抜粋
それぞれの節ごとに「POINT」というまとめや要点が書いてある。見返すときに便利だと思うのでこういった注釈を書いてある索引がほしいと常々思ったりする。私が参考になったものだけを次に抜粋する。
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