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知は力なり2:山内一也「ウイルスの意味論」

先々週、武村政春著「生物はウイルスが進化させた」を読み、そのことはすでに書いた。先週はもう一冊、ウイルスの本を読んだ。それが本書である。


これは、皆に、強力におすすめである。こんないい本があるなんて、もっと早く読めばよかった。日本人でよかった。

意味論というタイトルは多田富雄の名著から来ていると思うが、また、目次も少々意味論ぽいのだが、むしろ思想や思弁的な部分は少なく、内容は、ウイルスとは何かについて、研究史を複数の観点からたどり、2018年ごろの最新の研究までカバーしている素晴らしい本だった。

なにしろ記述が簡潔で分かりやすい。ウイルスの多様性、そもそもウイルスってなんぞや、どんな種類があるのか、それぞれの性質はどんなん、人間や動物そして細胞との関わり合い、研究の動向、最新の発見、潜在的な脅威など、広くカバーしていて、具体的だし、コンパクトにまとまっている。

先週に紹介した武村政春著の「生物はウイルスが進化させた」はカジュアルな語り口で、自身の仮説を思いっきり展開している本だったので、少し偏っているかなと思ったのだけれども、そちらで得た予備知識もあって、本書は理解しやすかった。また、本書で知ったことから武村の本を振り返ると、ストレートな内容であったこともわかり、その点も面白かった。

特にウイルスは細菌とともに、人間にとっては、病気の原因として身近なものだ。ところが、それだけに、ウイルスの世界が、種類といい、その生活圏といい、生態といい、いかに多様なことか、驚かされ読むことができるであろう。それぞれのトピックについて、興味が尽きない。そして私たち自身や環境に深く結びついていて共生関係にあることがよくわかる。

そして、本書には記載はないが、COVID-19についてより理解が深まったと思う。ぜひ、この機会に手にとって読んでもらいたい本である。

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さて、ますます気になる COVID-19 。

ウイルスは人とともに生きる。

人の行動様式や文化、経済活動、人口密度、危機意識、そういったことがウイルスの感染効率に、大きく影響を与えるのは間違いない。

とにかくヨーロッパがもうひどい状況だ。他国の感染が大きく広がるのを見てから対策をとっていたら遅すぎる。感染が始まってから1-2週間遅れて感染者の増加がわかるのだから。

中国のピークのあと3週間後くらいからイタリアで感染が始まり、イタリアの感染拡大の1週間あとにフランスやドイツ、そして 1 - 2週間あと遅れてスペイン、U.K. に波及...。ヨーロッパはしばらく拡大傾向になるかも。

とにかく初動が大事。

そういう意味では、韓国と日本は、いろいろ問題はありながらうまく対処ができていると言ってよいと思う(*)。

中国は武漢も含め、ほぼ制圧、韓国はピークを越えてしっかりと減少傾向、日本はようやくピークか、ひょっとしたら今週か来週あたりがピークか、もう少しだらだら続くかも・・・今のままで油断しなければ。


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※添付の2枚のグラフ(+3枚目のグラフ)の縦軸のスケールが違うことに注意。
※添付グラフの数字はWHOの発表の数字を使用、作図は私、ひょっとしたらマイナーな入力ミスがあるかも。あったらすみません、こっそり直します。
※2月17日のデータは信頼性が低いと判断し、棄却しています。

中国が初動はミスったとはいえ、春節のころにも関わらず、武漢の徹底封鎖、移動制限、とかなり思い切った手を打ったのは日本や韓国にとってはほんとによかった。

たぶん、暖かくなってくると収束するでしょう(*2)。中国の専門家の予想は6月には収束。・・・・北半球は。

みなさん南半球を忘れてはいけない。6-7月から寒くなってくると、アフリカの都市部が危ない。中国とヨーロッパと関係が深いところが特に危ない、ってほとんど全土だったり。とはいえ、人口もそれほど多くないので初動を誤らずにうまく封じ込めれば大きく問題にならないかも。

オーストラリアはかなりまずいかも。あとブラジル。8月くらいがピークか。今のヨーロッパの状況を見て危機感をキープして初動を誤らなければ大きく広がらない可能性はある。とにかく初動が肝心である。

治療薬とワクチンは、安全性の確認などどうしても時間がかかる。そして、SARSの治療薬とワクチンが、15年以上たってもちゃんと開発できていないところ見ると、COVID-19に対しても、大きな期待はできない(*2)。

感染症は収まったあとが勝負。

という意味ではSARSから世界は学ばなかったというのが、今回の大きく反省すべき点だと思う。

・・・しかしですよ。日本のことわざは味わい深い。世界に通じるコンセプト。

喉元過ぎれば熱さを忘れる。

たぶん来年の冬、そして、間違いなく10年後くらいに、同じことを繰り返すであろう。

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■重要
W.H.O.
https://www.who.int/emergencies/diseases/novel-coronavirus-2019

厚生労働省のページ
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000164708_00001.html

新型コロナウイルスに関するQ&A(一般の方向け)(2020/3/14)
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/dengue_fever_qa_00001.html

新型コロナウイルス感染症対策専門家会議 「新型コロナウイルス感染症対策の見解」 (2020/3/9)
https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/000606000.pdf

考え方(これを意識することは、すごく大事だと思います。)
https://www.mhlw.go.jp/content/10200000/000603002.pdf

日本ウイルス学会:新型コロナウイルス感染症について
http://jsv.umin.jp/news/news200210.html

韓国の状況は、韓国のKCDCをチェックするのが一番わかりやすい。
https://www.cdc.go.kr/board.es?mid=a30402000000&bid=0030


■補足
(*) 韓国と日本が比較的うまくいっているというのは死亡者数が少ないから。

感染者数は検査のポリシーにもよるので、絶対値は0.5倍から2倍程度の差があると思われるが、死亡者数、重症患者数は、ごまかせないので、こちらを見るとよいと考える。

感染者数は、死亡者数よりもずっと数字が大きいので絶対値はともかく、変化を見るにはよい。変化ですよ。絶対値ではなく。一日の感染者数の増加に注目するとよいと思う。

なお、死亡者数は感染者数のあと2週間程度の遅れで変化が現れることにも注意すべきではないかと思う。

韓国は、宗教団体の集団感染以外はきわめて良好に対策をとれている。比較的最近のMARSの流行から学んだという話である。

(*2)上記リンクの日本ウイルス学会の記事にあるように、SARSによく似ている。ゲノムの80%程度の相同性、感染する機構が同じ。エンベロープウイルスなので高温に弱く、アルコールや洗剤などで容易に不活性化。・・・ということは2月の中頃にはすでにわかっている。



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