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巨大隕石の衝突の可能性をアステロイド・デイに考える:竹内啓「偶然とは何か」

6月30日は、アステロイドデイということで、NPO法人スペースガード法人、JAXAはやぶさ2プロジェクトの主催でライブトークイベントが行われた。この日、私は余裕がなかったためにライブで視聴できなかったのだけれど、YouTubeで公開されているので、この週末にゆっくり視聴した。

なぜ6月30日がアステロイドデイなのか、というと、1908年のこの日にロシアのツングースカ大爆発があったことに因んでいるということである。

私は、岡山の美星天文台からのSNSへの告知でこのイベントを知った。大学のころの私の友人がこの天文台に勤めていて、地球を脅かす小惑星や人工衛星などのかけら(デブリ(*1))を夜な夜な観測している。つまり、宇宙の脅威から地球を守るスペースガードとして働いているのだ。

動画は、Part 1 が小惑星についての解説、Part 2が、みなさんご存じの「はやぶさ2」の解説、そしてQAの構成で、ためになる話が満載で楽しめる。

はやぶさ2はイオンエンジンの燃料がまだ半分残っているということで、それを活かして新たなミッションにチャレンジするということだ。しかも、想定寿命を超えたところでの運用、ということでさすがに、もったいないの国・長寿の国の日本ならではのミッションとも言える。

2031年に、たった30mの大きさの1998KY26小惑星への旅を狙った拡張ミッション。10分で1回という高速の自転する30mの大きさの小惑星に着地することを狙うというチャレンジだ。黄道光の観測や、系外惑星の恒星を横切るトランジット現象、他の小惑星にフライバイで接近と観測など、計画されている「ついでのミッション」も面白い。なかなかワクワクするではないか。たまには、太陽系の外側から地球や私達を考えてみるのもよい。

隕石落下というと、最近の例としては2013年にロシアのチェベリンスクに落下したものだろう。改めて見直すと、落下そのものではなくて、上空を超音速で通過していく隕石の衝撃波でガラスが割れたり、建物がえぐれるように壊れたりというところで被害が出て、かなり衝撃的だ。

このチェベリンスクの隕石の大きさは15m前後だという。113年前のツングースカの隕石が直径が 60m くらいと言われる。6550年前に恐竜の絶滅の原因と考えられている隕石は、直径10km以上だったと推定されている。もちろん大きさによって影響の大きさが変わるわけだが、大きいものであれば観測が可能だし、数も少ない。小さいものは無数にあり、観測も難しいが大気突入後に燃え尽きてしまうなどで逆に問題にはならない。その中間あたり、直径数10m程度の大きさのものが問題だ。

トークイベントで紹介されているが、

①大きさ 1000m 以上:942個存在、96%程度が発見されている
②大きさ 1000-140m 程度:25000個程度存在、37%(9133個)が発見
③大きさ 140 - 40m :数十万個存在、ほんのわずか(12897個)が発見
④大きさ 40m 以下 :数百万個以上存在 ごくわずか(~5000個)が発見

ということで、なるほどここまでわかっているのか、という気もするし、一方で、まだまだ未知の危険が無数にあるとも言える。

人類文明の存続の危機となるような問題は、上の①のようなものだが、これらはだいたい1億年に1回くらいの頻度で遭遇すると考えられている。

1億年に1回ということは、この先1年で発生する確率は1億分の1しかない。一方で現生人類が生まれたのはだいたい100万年前だから、これから100万年で人類が絶滅するとして、それまでの間で、1/100程度の可能性、隕石衝突によって人類が絶滅するよりも、他の原因で絶滅してしまうほうが可能性が高そうに思う。

しかし、都市が一個消滅するくらいの隕石落下ならもう少し可能性は高そうである。約115年前のツングースカの爆発では、幸いロシアの森林だったからよかったものの、爆発の威力は広島型原爆の185倍 (Wikipedia) ともいわれ、東京都を一発で消す可能性がある(*2)。

しかし実際、私達は、このような極めて小さい確率の事象は、起らないものと考えて行動している。それは絶対に起らないという科学的な根拠があるわけではない。むしろ科学的に考えるならば、いつかこのような事象が起こることを否定はできないし、太陽系を回る小惑星や彗星のことを考えるとあってもおかしくないわけだ。だから、このような事象を無視するというのは、科学的な根拠に基づく判断というよりも、行動原理であり、よりよく生きていくうえでの信念である。

ついこの間、竹内啓「偶然とは何か」を読み直したので紹介した。

人類全体も個人1人ひとりも「きわめて確率の小さいことは起こらない」とする前提にその存在を賭けていることになり、そこに本質的な不完全性が存在するというべきであるが、それはこの宇宙に生きる限りさけられれないものである。われわれはそのことを認識すると同時に、そのような危険は無視して生きなければならない。
竹内啓著「偶然とは何か」(p.205)

本書は、このような遭遇したらいっかんの終わり、という事象に対して確率論を適用して論じることの欺瞞を鋭く指摘している。隕石の衝突や、その他、地球全体を揺るがすような天変地異、人類全体でなくても、たとえば大地震のような事象に対して、私達はコントロールする術を持たないから、これは上記のような行動原理が妥当である。だが、原子力発電所や全面核戦争といったようなことに対して、発生する確率が極めて低いから無視してよいということにはならない。

例えば、「百万人に及ぶ死者と出すような原子力発電所のメルト・ダウン事故の発生する確率は1年間に百万分の1程度であり、したがって「一年あたり期待死者数」は1であるから、他のいろいろなリスク(自動車事故など)と比べてはるかに小さい」というような議論がなされることがあるが、それはナンセンスである。
 そのような事故がもし起こったら、いわば「おしまい」である。こんなことが起こる確率は小さかったはずだなどといっても、何の慰めにもならない。
竹内啓著「偶然とは何か」(p.202)
大きな危険が人間の行動によって引き起こされる可能性がある場合には、その確率がきわめて小さく、実際には起こりえないといえるようにしなければならない。原子力発電所のメルト・ダウン事故や、全面核戦争などは典型的な例である。このような場合にはその発生する確率を一憶分の一あるいは百億分の一というような小ささにしたうえで、それは起こらないこととするのでなければならない。
竹内啓著「偶然とは何か」(p.207)

この本が出版されたのは2010年9月である。

確率や統計に基づく議論を、盲目的に科学的な議論だと勘違いしないようにしたいものである。その科学的な側面をうまく利用して、自分の都合のよいように議論を導こうとする人、悪用して自分自身の利益・権益に結び付けようとするもの、そして社会に大きな問題をもたらすもの、そのような話が後をたたない。1か0かで結論を早急に求める風潮が後押しし、科学の威をかりて、エセ科学を信じ、あるいはスピリチュアルに流れることで、ますます勢力をはっているようにも思う。反知性主義と科学万能主義のはびこる温床でもあるとも感じている。

予測がつかない未来だからこそ、未来について想定するシナリオごとに確率を考えて行動を意思決定する。ここで考える確率は、どうしても主観的なものとならざるを得ないが、よりよく未来を見通すためには、自分がどのように考えているのかを批判的に意識しつつ、現状を正しく観測し過去も含めて分析することが大事だ。

壊滅的な結果をもたらすような隕石衝突のリスクについていえば、幸いなことにスペースガード協会他の活動によって、現状の認識と将来の予測はある程度できていると言える。

youTube動画の中でも言及されているけれど、だから、まごやひ孫の世代くらいまで、つまりこの先100年くらいの間は、隕石の衝突による人類の絶滅に関しては、確率が0と言ってもいいのだろう。

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ところで、このような壊滅的な偶然事象でさえ、単に「種の絶滅」や「壊滅的打撃」というようなネガティブな側面だけではなく、生命の起源や進化にも積極的な側面もあることは注意するべきであろう。ペルム紀末の90%以上の生物種の絶滅を経て恐竜が生まれ、恐竜が絶滅したから私達がいる。

私達が絶滅するその先に私達の想像を超えた新しい知性を持った生命が生まれるかもしれない。私達の理解を超えた、もはや知性とはいえない能力を持っているかもしれない。・・・あるいは、そういう種は生まれないかもしれない。

小惑星が生命の起源だとする説もある。地球、太陽系の起源を記憶している小惑星。興味はつきない。



■ 注記

(*1) デブリについて言うならば、監視できている(軌道がわかっている)ものが2万個程度あるそうだ。そして監視できない小さいものがその他無数にあるらしい。地球周回軌道(高度400〜700km程度)のものでは10cmより大きいものは監視できている。とはいえ、1cm より小さいものはぶつかっても大丈夫。だから危ないのは1cm から 10cm 程度だということである。

Jaxaのこのページが詳しい。

(*2)そういう意味では、富士山の爆発や東南海・南海地震の可能性のほうが断然高い。東南海・南海地震の可能性がこの先30年以内に発生する可能性は70%以上と言われている。実は、30年前からずっと同じ予想なのだが、それはあたりまえである。これまで30年間起こらなかったからといって、それだけで来年発生する可能性が増えたり減ったりするわけではないからだ。

そういえば、スーパーボルケーノ。


■関連 note 投稿、関連サイト

YouTubeの動画の中でも紹介されている1991年の隕石衝突のイラストはNASAのサイトで見ることができる。
https://www.nasa.gov/topics/solarsystem/features/planet_growth_spurt.html

下の画像は、著作権的には問題あるかも、だが、人目を惹きたいので上記NASAのサイトから貼っておく。

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