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Sara Paretsky "Dead Land"

シカゴを疾走する女性探偵、Vic こと V.I.ウォショースキーが活躍するサラ・パレツキーの シリーズ最新作だ。

私はアメリカのハードボイルド・探偵小説が好きで、1986年ごろ、おおかた35年前か、大学にいたころに、ダシール・ハメット、レイモンド・チャンドラー、そして、ロバート・B・パーカーに没頭した。

この Vic のシリーズは、山本やよい氏が翻訳版を早川書房から出している。シリーズ第一作が1982年米国で発行、日本では1985年だ。それ以来のファンだから、まぁまぁオールドファンのうちの1人と言えるかもしれない。1-2年に1作のペースで、たまに3-4年あくことがあったが、コンスタントに新作を発表してくれている。

訳者の方には申し訳ないが、原書で読むのは楽しい。翻訳本が出るのを待たずに最新作を読めることと、英語の文章のほうが、英語独特の言い回しや冗談、文化など、異国情緒を自分なりに楽しめることだ。

もう一つ私が洋書を読む理由としては、英語の勉強でもある。前にも書いたが、一年に12冊程度のペースを目標に、軽いビジネス書や流行りのハウツー本や、哲学や人文系で300ページから700ページあって文字がぎっしりと詰まった読み応えのある本、そして、好きな探偵小説やSF小説、5:4:3くらいだろうか。あと、ほかに、仕事で必要な分厚い専門書を1-2冊。本当はもっと読みたいが、時間の確保が難しいし、スピードは少しずつ上がってきてるとはいえ、なかなか思うようにいかないものだ。

ところで、洋書を読むときに、わからない単語に出会ったときに辞書を引きながら読むかどうか、というのは人によって意見がわかれるところかもしれない。私は断然、辞書を引きながら読む派だ。「何べんも読んでいると意味は自ずからわかる、そういうことが重要だ」という人もいるかもしれないが、単語の意味や構文をきちん理解したうえで文章をしっかり理解できなければ、読み進んでいくとチンプンカンプンになること請け合いである。英語に限らず、わからないところは、その時その場で、とりあえずでも、解決しておくのがよい。

自分自身を振り返ってみたときに、外国語でなくても、相手の言っていることをちゃんと聞かずに、「あー、それはこういうことだね」と、なんとなく聞き取れる文脈をつなぎ合わせて、自分の想像だけで整理して理解したつもりになっていることも多いとは思わないか。相手の言いたいこと、せっかく新しい概念やアイディアや面白さがあっても、まったく違った意味で受け取って「わかるわかる」と自分の考えの内側だけで理解したつもりになっている。これはもったいない。

わからない単語ならまだいい。わかったつもりになっている単語はたいそう危険だ。わからない単語は辞書を引く、だけではなく、わかっているけど、なんかしっくりこない単語も辞書を引く、そのくらいが必要だと思っている。・・・なかなか実行は難しいけれども。

しかし、とはいっても、探偵小説・ミステリー系は、あまり英語の勉強にならない。これも前にも書いたが、ちょっとわからない文章や単語があっても、ストーリーが面白いすぎて、どんどんすっとばして読んでしまう。佳境に入ると、よくわからない段落さえすっとばして、先へ先へと読んでしまうこともあるかもしれないくらいだ。

まぁ、でも、いいではないか。本の楽しみかたはいろいろあっていい。

さて、この V.I. Warshawski のシリーズを読むとき、私は、ところどころでGoogleマップをひいてストリートビューを見るのが楽しみである。地名や道路の名前など実在の場所だから、推理しなくてもすぐにみつかる。便利な時代になったものだ。

たとえば、カンザス州のサライナから、ハイウエイ140を走る、というのはこんな風景だ。

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さて、ネタバレぎりぎりを狙ってあらすじを紹介しておこう。

今回も Vic は、ひょんなことから事件に巻き込まれていく。

シカゴ南部の女子サッカーチーム・South Side Sisters が、チームの健闘を、スポンサーであった SLICK "The South Lakefront Improvement Council" のコミュニティミーティングで報告し、拍手で迎えられた。親戚のバーニーが、Sisters のコーチを大学のインターンで勤めていたので、一緒に参加したのだ。

しかし、その場は、47th ストリート周辺のミシガン湖岸再開発のプランで揉めていた。

帰り際、Vicとバーニーは、道端でおもちゃのピアノを叩き、調子はずれた歌を歌っていたホームレスを見るが、伝説の女性シンガーソングライターのリディア・ザミールだとバーニーが見抜き、ひと悶着がある。一方で、コミュニティミーティングで開発計画のプレゼンをしていたバーニーのボーイフレンドは、その後その近所で殺害されてしまうのだ。ザミールは姿を消し、彼女の庇護者として振る舞うキレがちな謎のホームレス・クープも、彼の犬をVicに託して忽然と姿を消した。

ところで、ザミールの歌の作詞者にして彼氏でもあったヘクターは、数年前のカンサスの野外コンサートでおこった銃乱射事件の17人の犠牲者の一人だった。そしてヘクターの父の故国のチリ、チリの政治と資本、銃乱射事件の背後と真相、湖岸再開発プロジェクトと巨額の利権、そういったすべてがからみあい、つながりそうでつながらないまま、最後の最後まで息をつかせない。カンサスの草原で何度もピンチに陥りながらも、一歩もひかずに見えない敵と渡り合う。本当の敵は誰なのか。

いつも通りのハラハラドキドキの展開だ。

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青系のビジネススーツがよく似合う細身で長身、スマートで頭がよく、運動神経抜群、時には不法住居侵入なども辞さず、大企業やコンサルティングファームなどが背後にいる凶悪な敵に対しても一歩もひかず、自らの命もリスクにさらし、時には瀕死の重傷をも負いながらも、最後はなんとか解決に持ち込み、大事な人たちを守るのだ。

もちろん、私はこの主人公 Vic にぞっこんなわけだが、脇を固める面々も個性的で楽しい。レギュラーの登場人物たちの魅力は語りつくせない。Vic の行きつけのバー "The Golden Glow" の Sal には一度でいいから是非お会いしてみたい。かなわないことではあるけれど。

また、時代の変遷とともに、Vicの使う小道具もどんどん変遷し、前はタイプライターに書類と郵便物の山だったのが、今は、Lap top 片手でスマートだ。そんなところも面白い。

まぁ、ここまでこの記事を読んでしまった人には「おすすめ」する必要はまったくないと思うが、とりあえず書いておく。

おすすめだ。多くの方に、是非、読んでほしい。


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