見出し画像

火曜日しばらく雑記帳・34:新しい知識の獲得とボジョレ・ヌーボー

解り切った話だとは、誰も言うが、さて、承知しているのか、承知している積りでいるのか、容易には解らぬものだ。言葉に惑わされるという私達の性向は、殆ど信じられないほど深いものである。

小林秀雄「考えるヒント2」 - 学問 p.35

■先々週から会社のオンライン・ラーニングコースで携帯電話インフラで使われる基地局用アンテナに関するトレーニングを受講していた。全部で4時間ほどでアンテナに関する領域を広くカバーする盛沢山な内容だが、私の専門技術領域とかぶっている分野だし初等的なコースなので解りやすく「なるほどなるほど」とどんどん進み、あっという間に終えてしまった。

以前にメジャーなアンテナ・メーカ様のうち2社を訪問させてもらい工場を見学したこともあるし、中国のサプライヤ様の工場もオンラインで見たこともある。だから材料や構造といったハードウエア、製造工程や検査工程、設備や計測器などについてもおおまかに知っている。バックグランドにある基礎的な理論はおなじみのものだ。それでも、承知しているつもりで承知してなかったこともあれば、疑問に思っていたことの答えを見つけたり、新しい知識をいくつも仕入れることもできたし、そういった新たな発見が面白かった。

上述したように初等のコースなので入門程度でしかないが、非常に有意義だったと思う。

しかし、私は考えてしまった。新しい知識や概念あるいはこれまでとは違った考え方を仕入れることがいかに難しいのか、ということだ。振り返ってみれば、クラウドコンピューティングのトレーニングも受講したが、こちらも入門編で登場人物と役割を学ぶ程度だし新しいことばかりで面白いにもかかわらず、なかなか進まなかったうえ、しかも憶えていることが少ない。

マネジメントのあれこれや様々な思考法なども面白い。なるほどなるほど、と思わず膝を打つところも多いが、振り返ってみれば当たり前のことなのにそれでも出来ていないことを、繰り返し繰り返し、明るい笑顔でお説教されているようなところがあって、悩みはめったに解決しない。

苦手な政治経済に関して本を読んで最低限の教養を身につけようとしているものの、入門だけなのに理解が浅いしスピードが上がらない。

新しい知識を、今回のトレーニングと同様のスピードでものにできるようになるには、きっと、その分野で修練を重ねる必要があるだろうし、かかる年月はそれ相応に長くなるはずだ。

「なるほどなるほど、面白い」とずんずん進むような「学び」で本当に新しいことを学んでいるのか、そこは用心したほうがよいだろう。往々にしてすでに持っている知識の単なる確認や、自分のなかでの権威の強化 ー 「御意!」とか「この人もこう言っている」とか「こうういう視点でとらえてもやっぱり同じ結論」などなど ー だけになっていることが多いかもしれない。

自分にとって本当に新しく、過去の自分を脱却して真に変革するような、そんな新たな学びであるならば、それは難しくて辛抱強さが必要な時間のかかる長い道のりのプロセスであるはずなのだ。


自分が何を学んだのか、学んだつもりになっているだけなのか、容易には解らないだろう。しかし、そうして自分の胸に手をあてて考えることが大事なことかもしれない、と改めて思ったりもした。


組織として、どのようにして新しい知識を獲得するのか、獲得した新しい知識を、どのようにして新たな知の創造に結び付けるのか。共同化(socialization)、表出化(externalization)、連結化(combination)、内面化(internalization) のSECI (セキ) プロセスの理論がある。

また見直してみようと思う。


■閑話休題

フキはシーズンが過ぎたように思うが、先週、近所のスーパーで手頃な値段で綺麗な茎が売っていたので購入した。塩ふって板ずりし下茹でしてからスジと皮をむくのだが、その時の香りが好きだ。

下処理後のフキ

下処理を済ませたフキを醤油とみりんと酒で炊いて月曜日の弁当の一品にした。

2022/11/22 昼食 鶏とほうれん草の炒め物地中海風、レディサラダ大根、サツマイモ、フキの炊いたの、だし巻き、カブの茎の刻んだの、麦ごはんにふりかけ。
2022/11/18 昼食 牛ステーキ、ほうれん草、舞茸の焼いたの、レディサラダ大根、青のり入りだし巻き、しばづけに麦ごはんとふりかけ。

半年に一度のビーツの季節が来たので、また店頭に出回るようになった。朝からぼんやり過ごす雨降りの祝日の水曜日、昼は、小ぶりのビーツに火を通して、パスタとオリーブオイルで和えて、ソーセージを軽くあぶって簡単にすませた。

2022/11/23 昼食 ビーツは皮をむいて半割にして少しだけ水をふってサランラップで軽く包み電子レンジで3分半ほど加熱。自然な甘みが美味しい。

先週の金曜日はこの1か月ばかしの懸案事項が各方面トンっと整いアウトプット、いい気分で一週間を終え、口笛まじりでの夕食はトンカツ。

2022/11/18 夕食 分厚い200gの豚ロース肉でトンカツ、ジュワっと揚げて大根おろしをで食べる、レディサラダ大根とレタスのサラダにバジルのスパゲティ。

そして今年も、2022年の新酒、ボジョレ・ヌーボー。

土曜日の晩 、バレエの導師の友人(美しいと認識する力・7:バレエ「くるみ割り人形」)とZOOM越しに楽しく飲んだ。バレエの話は私にとって知らない話ばかりだ。

一本 3000円とか4000円とか出すのならもっといいワインを飲めるのに何をありがたがってヌーボーヌーボーとお祭りみたいにアホちゃうか、などと文句をいいながら、毎年、航空便の高いのを1-2本飲んでいる気がする。
さらに船便が来て少し安くなったのを1本、春から夏に売れ残ってだいぶんお買い得のを1-2本、という具合に飲んでいる気がする。
とくにパリピとつるんでいるわけでなく、じっくりとビンテージのレイティングを毎年しているわけでもなく、単に雰囲気とマーケティングに負けているだけだ。


新しい知識に新しいワイン。2時間足らずの間に一本開けてしまった。



■先週に耳にひっかかった音楽をいくらか。

1.オマール・ソーサが、ブラジルはバイーア出身のシンガーソングライター、チガナ・サンタナを迎えてのシングルをリリースした。ギターの弾き語りと、流れるようなオマールのピアノのバック、ソフトなパーカッションのアンサンブルが心地よい。

チガナ・サンタナはこのシングルで初めて知ったのだが、もの静かでゆったりとした内省的な声がいい。これからよく聴くことになりそうだ。


2.女性ジャズシンガーの新星、サマラ・ジョイ。この人の声と歌いっぷりには揺さぶられる。そして、なにより明るい表情と姿勢がいい。

Warm In December がリリースされたが、今年のクリスマスシーズンの歌の決定版かもしれない。

YouTube で、彼女のライブをいろいろ聴くことができるが、どれも力がありエモーショナルだが、過剰な湿っぽさをいっさい感じさせない。

次の動画はストリートでのライブだろうか。思い思いに楽しむオーディエンスも楽しく、飛び込んで一緒に踊りたくなる。

イタリア出身のギタリスト、驚きのテクニシャン、パスクァーレ・グラッソとの共演で初めて知ったのだが、知れば知るほど虜になっていく。


3.サックスのチャールズ・ロイドが、ギタリストに今注目のジュリアン・レイジ、パーカッションにタブラの巨匠、ザキール・フセインを迎えてのアルバム "Torio: Sacred Thread" が耳にとまった。

"Trios"と複数形なのは、チャールズ・ロイドは今年(2022年)になって3組のトリオを組んでアルバムをリリースしている。

ギターにビル・フリゼル、ベースにトーマス・モーガンを迎えたトリオと、オランダ出身の若手ピアニストのジェラルド・クレイトンとギタリストのアンソニー・ウイルソンを加えたトリオとの3組だ。

"Trio of Trios" 3組のトリオというアルバムもリリースしている。

騒々しい音楽に少々飽きたときにこういう音楽を聴いてみるとその魅力に取りつかれてしまうかもしれない。

それにしてもちょっと不思議なとりあわせのトリオばかりだ。チャールズ・ロイドは84歳だそうだ。なんともまぁ若々しい取り組みだろうか。


4.同じテイストの音楽が続くが、デンマークのギタリスト、ヤコブ・ブロが、私の大好きなドラマーのポール・モチアンへのトリビュートという "Once Around the Room"というアルバムをリリースした。

ポール・モチアンとビル・フリゼルとともにトリオを組んでいたサックスのジョー・ロバーノとの共演、ベースにトーマス・モーガンとアンダース・クリステンセン、ドラムスにジョーイ・バロンという、たぶん好きな人には「あーなるほど」の静かでありながら刺激的なサウンドがつまっている。

モチアンとビル・フリゼール(g)とのトリオで30年間(1981~2011)活動したロヴァーノは、「ポールはほとんど毎日、ニューヨークのセントラルパークの貯水池の周りをジョギングしていて、その儀式にちなんだ〈Once Around the Park〉という曲があったんです。コペンハーゲンのレコーディングでは、スタジオの中で全員がある種の円形の状況に集まっていたので、曲を演奏したりソロを取ったりしながら、部屋の中を回っているような感じだったのでこのタイトルにしました。バンドスタンドやスタジオで演奏するたびに思うのは、音楽は深い呼吸と耳を澄ませるものでなければならないということです。楽器の名人芸を披露するのではなく、即興の技術、その場にいること、音楽と一緒にいることが大切なのです」とこのアルバムについて語っています。

2022/10/7 CD Journal 「ヤコブ・ブロ&ジョー・ロヴァーノ、ポール・モチアンに捧げるトリビュート・アルバムをECMから発表」

ヤコブ・ブロは、ビル・フリゼルに似てなかなか繊細でいいギタリストだな、と思う。まだ強い印象を残すところまではいってないが、度々聴くことになるだろう。


5.アルゼンチンの Lorena Astudillo (ロレナ・アストゥディージョ)の新しいシングル "Te Veré en Mis Sueños" が素晴らしい歌声で何度聴いてもいい。

収録されている8曲入りで33分強のアルバムは "Peregrina" 、軽快なギターとピアノにパーカッションをバックに歌う1曲目の "Candombita"もいいし、全編、もの悲しさと陽気さも少し混じったフォルクローレのアンサンブルと美しいビブラートに揺さぶられっぱなしだ。


6.トッキーニョとカエターノ・ヴェローゾのデュエットで、"Tarde em Itapuã" 。

大御所二人の楽しい演奏、いい声、いいハーモニーだ。



■木曜日の昼いちのミーティングで私の順番が終わって少しほっとした瞬間、娘からLINE電話がかかってきた。

「仕事中ごめん、買ってきてほしいもんがあるんやけど」
「あとにしてくれんかな、このあと別の会議もあるし」
「何時くらいだったらいい?」
「16時半」

15時から16時までのほぼ聞いているだけの会議(*1)がどんどん伸びて、16時半すぎに "ntd tyvm (*2)" とchat に入れてドロップ、見計らったようにその瞬間に連絡がきた。

Puma のスニーカーでSnowmanとのコラボの商品があるが、北九州では購入できない、横浜だと何軒もABCマートがあるしきっとまだ在庫あるだろうから買いに行ってほしい、ということだった。

こういうチャレンジは大歓迎だ。

17時、ぱっと身支度をして地下鉄に飛び乗り、6店舗ほどある店のロケーションをチェックし、想定シナリオごとに行動プランを練りながら移動、12分で横浜駅に着いたらば、出口を駆け上がったすぐにある一軒目で難なくゲット、すぐにまた地下鉄に飛び乗って事務所に戻り、ちょいと仕事、荷造りして宅配便で発送、娘にLINEで問い合わせ番号など連絡して、19時にdone。

16時に終わっていたはずの会議がまだ続いていたのにはビックリだった。

9 people 9 colors / PUMA ユニセックス スウェード ライト
PUMA公式 Snow Man Puma Court Style

Snow Man もスニーカーも私にとって新しい知識分野ではあったが、我ながらよくやったなぁと思いつつ、てきぱきと親切に対応してくれた若いイケメンの店員さんに感謝だ。



■注記

(*1)聞いているだけの会議に参加、なんて無駄じゃない、アホらし、というかもしれない。そんなことはない。自分の仕事に大きく影響しそうな議題が扱われている場合、どのように何が決まってどんなインパクトがありそうか、その場で把握して準備することは大事なのだ。

(*2) need to drop, thank you very much の略である。念のため、日本語訳は「用あるんで落ちるわ、ほんとありがとうね」といった感じだ。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?