照屋華子 ・ 岡田恵子「ロジカル・シンキング」
年末年始、9年前に読んだ照屋華子 と 岡田恵子 の「ロジカル・シンキング」を再読した。
論理学を駆使して考える方法の解説でもないし、論理学そのものの解説ではない。ビジネスの中で与えられた課題に対して結論を「ロジカルに」まとめあげる方法論を解説している。
ここでいう「ロジカルに」というのは説得力があり納得できる方法であることだと理解できる。すなわち、コミュニケーションする相手との関係を考慮し相手に期待するアクションを軸にして、考える筋道を決めていく、これらを大事にする態度のことだ。だから、「事実」の定義や「MECE」の切り口のつくり方・全体の組み立てかたなどは、実用的・実践的に説明されている。
コミュニケーションを、1. 共有する課題を設定し、2. 材料を集め分析し、3. 考察し結論を導いて、4. 相手にわかりやすく説明して、5. アクションを合意する、と単純に分けたとすると、本書は、4を念頭におきつつ、3 をメインにとくにそのなかでも結論をまとめあげるための筋道・枠組みと形式に焦点をしぼって解説しているということとなる。
課題の設定のしかたのノウハウ、具体的にどのように材料を集めてどのような手法で分析するか、という方法論やツールボックスはここでは扱われていない。そして、説明の手法や合意形成のあれこれの作戦なども扱われていない。なお、同じシリーズで 4. 相手にわかりやすく説明する、に焦点を絞った本もある。
さて、「考察して結論を導いて」という部分でも、その具体的な方法や手法を示すのではない。大事なことは以下の5点の枠組みだ。
事実と結論の階層構造(縦の関係)を意識する。
事実は切り口によって適切に分類し、したがって、複数の階層構想が並列で構成される(横の関係)。そのようなツリー構造を意識する。
事実と結論の間は、「それによって何が言えるのか」「なぜそのように言えるのか」という関係で結ばれる。
それぞれの階層で、全体像を失うことなく肝心な論点をつけるように切り口を適切に考える。
事実を並べて結論がおのずと浮き上がらせるように考えるか、判断基準を解説して結論を導くように考えるか、課題と各階層に応じて使い分ける。
「事実とはなんだろうか」とか「もれなく重複なくというのはそもそも成り立つのだろうか、そう簡単には割り切れないからなぁ」とか、「論理だけでは新しい何かを作り出せず、新たな知識の獲得にはつながらないのではないだろうか」とか、「そういえばこの間の報告書は自社にとって触れたくない事実をうまく隠して手前みそな結論を出しただけだったのではないだろうか。より深く根本的の事業課題には踏み込まず表面的で楽な解決のみをはかるものだったけれども、とはいえ顧客も上司もともに求めるところでもあったし、それはそれでロジカルに考えたうえでのことだったしなぁ」などとここでは考えないほうがよい。そこはヒマな時にじっくりと考えて、私が書くこのような駄文を書くときのネタにすればよいだろう。
認識が共有されるためには、形式が共有されていなければならない。そういう意味では、本書でははっきりと書かれていないが、時間軸の共有が大事なところだと常々思っている。もっとも、空間と時間の共有は、当たり前の前提だとされているからかもしれない。
とはいえ、どうしてもスタティックな問題の捉え方になりがちだ。関係する要素が多く動的に変化する、フィードバックを含む系やさらに非線形な関係があるなど、時間軸がからむ複雑な問題になると、システムズ・シンキングやシナリオ・シンキングを視野に入れないと歯が立たない。
スタティックな問題に対してロジカルに解を求めるのは基礎中の基礎であり、大事なフレームワークが綺麗に整理されていると思った。本書そのものが、ロジカルシンキングの形式にきちんとのっとっていることがわかるだろう。
出来ているつもりでなかなか出来ていないものである。どうしても、「楽に済ませたいし、落としどころを決めてからスタートしよう」とか、「まずは叩かれ台を出してからチャットとメールとレビューミーティングで叩かれながら仕上げていこう」などという具合に流れがちである。年始に自分の仕事を見直し点検し心を新たにするのによかった。
さて、帯には「論理思考で強くなる」と大きくアピールしてあるが、これに限ったことではないが、実践を通じて繰り返し鍛錬を重ねて身につけることが大事だ。それは本書の中できちんと指摘されている。
インスタントに自分が変身できる裏技はない、といつも私は思う。
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