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MLB Column 2007: 12. 選手は商品か① -トレード編-

【こちらのコラムは筆者がMLB選手エージェント事務所にてインターンをしていた2007年当時のブログからの抜粋です。当時の記憶を保存することを目的としているため、修正なしで掲載しています。現在とは異なることもありますので予めご了承下さい。】

⚾︎▶︎▶︎ 選手は商品か① -トレード編- ◀︎◀︎⚾︎

MLBにおける自由なトレード市場は7月31日で締め切られた。8月1日以降、トレード成立となるのは、球団が保留選手をウェーバーにかけた場合に限る。NYヤンキースの井川投手がこのウェーバーに出されたという。そのため獲得の意思を示した球団のうち、昨年の成績が最も低い球団が交渉権を得ることとなる。

さて井川投手の動向も気になるところではあるが、このトレード市場という概念には少し疑問も残る。

もちろんプロとして契約している選手たちであるから、チームの方針には逆らえない部分はある。それが嫌な場合、「同意なしのトレードは行わない」という内容を契約に盛り込むことも可能である。とはいえ、これはごく一部のエリート選手に限ってのことだ。

経営サイドが自由にトレードを行える期限である7月31日に迫った7月下旬、現在自分が働かせてもらっている事務所からも選手がひとりチームを移籍することとなった。彼の場合、元の球団では出場機会に恵まれていなかったからよかったと言えるかもしれない。しかしそれ以上に驚いたことは、選手及び代理人にもトレードに関する口出しは、ほぼ出来ないということであった。

実際この選手に関しても、移籍になったという事実と共に、事後報告という形で話が伝わってきた。Philliesの正二塁手が故障したため電撃移籍となった井口選手にしても、いつものようにWhite Soxの本拠地での試合に出向いたところ、突然このトレードを伝えられたという。選手本人が電話して、初めて代理人の耳にも入ったとのことである。

選手はそれぞれに特殊な能力を持っているから、各球団がその需要に応じて選手を「商品」として捉えるのは仕方ないことなのかもしれない。しかし選手を将棋の駒のように「商品」として、球団同士が売買することには多少の違和感を覚えるのも事実である。

戦力均衡やシーズンのクライマックスを盛り上げるための手段として、MLBにおけるトレードは非常に有効な施策といえるだろう。しかしそこには社会の倫理規範に触れ兼ねない”人身売買”という矛盾も存在するのではないだろうか。スポーツビジネスの世界では、選手である人間を「商品」と成し得る特異性を持っているから、このような矛盾が生まれてくるのは仕方ないことなのかもしれないが・・・。

このような形で、プロ選手が「商品」とされる場面にはしばしば遭遇し、その「商品」を楽しむためにファンも代価を支払っているから、この矛盾に寛容になれるのかもしれない。またこういった制度が、リーグ全体を活性化させ、より充実したコンテンツの提供に繋がるということは紛れもない事実である。

しかしこれがアマチュアの選手ならばどうだろうか?
次回はアメリカにおけるその実態に触れていきたいと思う。


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