【読書】田中陽希『日本百名山ひと筆書き グレートトラバース』
このゴールデンウィーク、故障で走れない日には、田中陽希さんの『日本百名山ひと筆書き グレートトラバース』(NHK出版, 2015/4/25)を読んで過ごしました。
(この読書メモは、2015年5月に書いたものです)
大方のネット通販ではすでに在庫切れ。Amazonでは古本の値がつり上がってます。やれやれ、発売前に予約して良かったなあ。でもまあこれほどの人気なのだから、きっと増刷するのでしょう。
田中陽希さんの魅力は、ひとつにはその素直さ、人がらの良さにあると思います。テレビでも本でもその印象は変わりません。
文章は飾らず、テレビのコメントにも気負いがない。これほどストイックなテーマに取り組んでいながら、いつも謙虚で、一般のファンに寄りそっている感じがします。だからぼくらは、つい陽希さんを友だちを応援するかような気持ちで見てしまう。テレビが生み出したとても身近なヒーローと言えるかもしれません。
四国、石鎚山から剣山に至るロードでは、ひたすら「カツ丼」を目指して走ります。関東、丹沢山から筑波山への移動中には、たまたま出会った綾瀬川の清浄化を行う市民団体を手伝って、チェーンソーで林の手入れをしたりします。
でも、疲労の蓄積と熱中症に苦しんだ谷川岳や、右すねの故障との格闘となった幌尻岳、分けても、風速20mの暴風の中、利尻水道をシーカヤックで横断するくだりは、このチャレンジがまぎれもない「冒険」であることを思い出させてくれます。
恐らくご本人が思いもよらない形でメディアの寵児となった陽希さんは、一時は視聴者やファンとの関係に悩みもしたようですが、おこがましいのを承知で言えば、陽希さんが相手にしているのは、まず以って巨大な「自然」なのだから、まわりの人びとに気をつかってペースや判断を左右される必要はないんじゃないかと伝えたい。
本書ではテレビで語られない心情などにも触れられていて、興味深く読むことができました。超かけ足で、陽希さんの208日と11時間、7,800kmを一緒に体験することができます。
欲を言えば、百名山の紹介や、踏破ルート、装備などについて、もっと詳しく触れられていたら、さらに読みごたえのある一冊になったんじゃないでしょうか。それだけのボリュームを以って語られるに足るチャレンジだったんじゃないかとぼくは思います。
そんな本が出たら、きっとすぐに買っちゃうなあ。NHK出版さん、ご検討ください。
(2015/5/12 記、2024/10/14 改稿)
田中陽希『日本百名山ひと筆書き グレートトラバース』NHK出版(2015/4/25)
ISBN-10 4140816724
ISBN-13 978-4140816721