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【読書】小島剛一『漂流するトルコ―続「トルコのもう一つの顔」』

先ごろ読んだ小島剛一さんの『トルコのもう一つの顔』の続編です。

── トルコ共和国では首相が政治の実権を握っている建前になっており(実はこの時代には軍部が国政を牛耳っていた)、大統領はほとんど名誉職である。(中略)トゥルグット・ウザル氏は、「自分はクルド人だ」と言えば投獄される時代にクルド人であることを黙秘して政界入りし、トルコ共和国の大統領になった人だ。(P141)

── トルコでは、大概の多党制議会のある国と違って、国粋主義は右翼の占有物ではない。(P214 注釈)

ゴーイチ・コジマ先生(現地でそう呼ばれるらしい)の公式クルド語調査は1986年。二度目のクーデター(1980年)後に民政移管した第三共和制成立後にあたります。

山川出版社『西アジア史2イラン・トルコ』では、このクーデターの目的が第二共和制の機能不全の解決にあり、その意味では一定の効果をあげたこと、またその後の憲法草案では共和国の体制維持を優先して国民の自由や権利が制限された一面もあったことが説明されていました。

リスキーな現地調査に敢えて挑むゴーイチ・コジマ先生の姿勢は、学者というよりも冒険家か戦場カメラマンのように思えてしまいます。本作もノンフィクションと思えない展開で、一気に読ませる面白さでしたが、なんだか前作より感情的な表現が多くなった気がしました。出版社が変わって抑えていたものが解放されたのでしょうか。

ところで、ちょうどこの本を読み終えたころ、イスタンブールで反政府デモが激化(発端となったタクシム広場の事件は、5/27)(※注意)。トルコには先日、勤め先の会社の現地法人ができたところで、現地の状況がちょっと気になるところです。現地オフィスはイスタンブールにあるらしいのですが、Googleマップで見ると、一応、デモと警察の衝突多発区域(ヨーロッパ側)とオフィス(アジア側)は、ボスポラス海峡で隔てられているようでした。まあ、ぼくが行くことは無いと思いますが(行ってみたいけど)、何事もないことを祈る次第です。

(2013/6/11 記、2024/1/28 改稿)

※注意 2013年の話です(2024/1/27 記)


小島 剛一『漂流するトルコ―続「トルコのもう一つの顔」』旅行人(2010/9/1)
ISBN-10  4947702680
ISBN-13  978-4947702685

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