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読書感想【紛争の戦略 ゲーム理論のエッセンス】

前からゲーム理論に興味はあったものの どの本を読めば良いのかよく分からなかった。しかし最近良い感じの本を見つけたので 買って読んでみた。

出版されてから時間が経っているものの 勉強になることが多く 古さを感じなかった(もちろん私がゲーム理論を初めて学習するから,という理由もあるだろう)。良い本は時が経っても輝きを失わないものだ。


ゲーム理論は他者がどう行動すると予測するかに各当事者の最適な行動が依存している状況を扱うものだ。

軍事でよく出てくる抑止の脅しは この定義によく適合する。そのため ゲーム理論は戦争の理論と思われやすい。しかし戦争や脅しといった軍事的な物事はゲーム理論の分析対象の一つにすぎない。本を読んでいると経済学的な側面が大きいと私は感じた。


本書の内容は難しいものの 二次元のグラフや利得行列を使って説明されているため ある程度は理解できると思う。

数式の変形はよく分からなかったので 苦手な方は流したほうが良いかもしれない。私は少し数式と格闘したが 無理だった(第Ⅳ部の数式)。

(数学者ではないなら式が変形された結果を信じてその結果をどう見るかが大事。本のとおりに変形できなくても落ち込む必要はないと思う。私は式の変形も納得したい人間なので数式を見るとなぜこの形になるのか考えたくなる。そのため式の変形がより詳細に書かれていたらうれしかった。ただし これによって本書の評価が下がることはない。)


印象に残った部分は「暗黙の調整」と「コミットメントのランダム化」のところだ。言われてみると確かにそのとおりだなと目から鱗が落ちた。

また補遺Aには核兵器の章がある。そこで書かれている「核兵器が使用されたとき,新たに確立されることになるパターンや先例が何なのか,そこで採用される核の役割が何なのかについて,関心をむけなければならない」という指摘は現在でも重要だと考える。

近年,安全保障環境の変化から 報復より損害限定(拒否的抑止)という考えが重視されている。そのため限定核戦争が起こる可能性は昔よりも高くなっていると感じる。

そのとき どのような行動が必要となるのかしっかりと考え 信頼できる抑止を構築できなければ,世界の平和を崩す悪い先例が作られるかもしれない。

核兵器の役割をめぐる暗黙の交渉(駆け引き)は現在進行形で起こっている。日本は被爆国であり 核が使われるかもしれない地域の最前線にいるのだから,無関心ではいられない。



以上。

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