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読書感想【国際秩序 上・下】

元になった本は,2014年に出版された「World Order」という本である.文庫版が昨年出版されたため,入手しやすくなった.ちょうど読んでみたいと思っていたので,今さらながら購入して読んでみた.

約10年前の本ではあるものの,国際秩序がどのように変化していったのか,その過程がうまくまとまっているため,今でも十分読む価値はあると思う.



特に印象に残った章は,ヨーロッパと中東に関する章だ.


ヨーロッパでは三十年戦争のあと,ヴェストファーレン和平条約が結ばれる.帝国,王国,宗教的権威ではなく,国家がヨーロッパの秩序の基礎単位であることが確認された.

正統な権力は一つだけとされていたものを,多種多様な社会があることを前提として,秩序を模索するようになった.戦争を経て,ようやく宗教的な衝動から政治体制を切り離すことができた.

日本でも宗教に関する戦いはあったものの,三十年という長い期間に及ぶものではなかったので,「なぜそんなに戦うの??」と不思議に思ってしまう.それだけ宗教というものが,国の制度や正統性に関わっていたということだろう.

個人的にヴェストファーレン条約で注目した点は,特定の同盟の取り決めがなかったところだ.弱い側が強い側に対抗できるように,力の均衡が流動的になっていた.

同盟を組み,特定の陣営に居続けることが普通である,と思っていた私からすると,なかなか新鮮に見える.イギリスという大国が存在したからこそ,実現できた秩序だったかもしれないが.


ヴェストファーレン条約による秩序,そして次の秩序であるウィーン体制では,大国同士が調整して力の均衡を維持することで,平和を保ってきた.

しかし,ドイツ帝国のビスマルクが登場したことにより,状況は変わっていく.

普仏戦争後のビスマルクは,ドイツ以外の国がドイツに対抗するため,連合を組むと見抜いていた.そこで,ドイツに対抗するよりも,ドイツと協力するほうが大きな利益を得られるように,周辺国と複雑な同盟関係を結んだ.

これにより,ドイツと敵対するフランスがひとりぼっちとなり,力の均衡が流動的ではなくなった(ドイツを含む同盟国とフランスが敵対する形になった).

ヴェストファーレン条約とウィーン体制による秩序の柱の一つであった,流動的な力の均衡は,ビスマルクによる天才的な外交へと取って代わった.

天才的な外交は,いつまでも続くことはない.ビスマルクの首相辞任後のドイツは,他国との繊細な関係を維持することはできなかった.ロシア,フランスとイギリスが協力するようになったため,今度はドイツがひとりぼっちとなった.

ロシアとフランスが同盟を結んだ時点で,力の均衡の考えからすると,ドイツはイギリスと手を組むしかないはずだ.それにもかかわらず,ドイツはイギリスの制海権を脅かすおそれのある,海軍の軍備増強計画を企てた.ウィルヘルム二世は敵を作る天才なのだろうか?

平和な秩序の柱の一つであった柔軟な力の均衡は,忘れ去られていた.

この後,ヨーロッパにとって悲惨な戦争であった第一次世界大戦が起こる.

先人たちが築き上げた国際秩序(ヴェストファーレン条約,ウィーン体制)の崩壊は,ヨーロッパの崩壊をもたらしてしまった.


ヨーロッパの歴史を見ると,秩序を維持するためには,力の均衡が重要な要素になっていることが分かる.そして均衡を築くことができる大国は,当然ながら軍事力を持っている.力を持たない国は,そもそも秩序を維持する役割を果たせないのだ.

さて,日本はアジアの秩序を維持するプレイヤーになるのだろうか.日本国民を見ていると,あまりプレイヤーになる気はなさそうである.

「われらは、平和を維持し、専制と隷従、圧迫と偏狭を地上から永遠に除去しようと努めてゐる国際社会において、名誉ある地位を占めたいと思ふ。」

これは,日本国憲法の序文に書かれていることだ.

日本が力の均衡に参加することで,国際社会の平和を維持できるなら,プレイヤーになる価値はあると思う.

いい加減 加害妄想を捨てて,「普通」の国になってほしいが,まだ時が必要なのかもしれない.



中東は,宗教と政治が深く関わっているため,秩序の維持が難しい地域だ.

ヨーロッパでは三十年戦争が行われ,ようやく宗教と政治を分離させることができた.しかし現在は,昔のように大きな戦争ができる世の中ではない.

そのため我々は,「イスラムの教えを広めることが,全人類の統一と平和をもたらす」という考えの国(欧米のような主権国家とは違う歴史を歩んだ国)と,うまく付き合っていく必要がある.

アメリカは,アジア太平洋戦争後の日本のように,中東でもうまく占領統治ができると思っていたようだが,失敗は明らかだろう.自分たちの国内で通用した事柄が,他の地域に必ずあてはまるとは限らない.日本は特別だったことを認識すべきだ.

日本は力があまりないため,中東の安定に軍事的な介入は難しいだろう.日本のできることはあまりないが,強いて言えば,国際社会の法の支配はしっかり機能する,ということを示すくらいだと思う.


今の私は,中東に関する知識が貧しいと感じた.これらを学ぶことが,これからの課題だ.



以上.

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