読書感想【政府債務】
著者は日本の債券市場の分析者である.その方が政府債務に言及していることに興味があったので,読んでみた.
日本では,膨大な政府債務が積み上がっているので,国債市場の暴落やハイパーインフレーションなど破局的な事態が起きるという人がチラホラいます.
しかし著者は,日本の信用力は現時点において高いので,すぐに破局的な事態は起こらないとし,そのような安易な予想をすべきでないと指摘する.
日本の信用力が高い(日本の国債市場は十分にコントローラブルな市場である)と予測する理由として,世界で増加する過剰貯蓄と,日本が保有する潤沢な対外資産の存在を挙げている.
現代の先進工業国では,経済成長,資本ストックの蓄積と長寿化の影響により,貯蓄が過剰である状況が恒常化している.得た富の価値を安全に繰り延べたいという安全資産への需要が,債券市場を支えているようだ.
前に,国債投資家懇談会(PD懇)の議事要旨を読んだとき,「20年債へのニーズが強い」といった日本国債の需要があるという,出席者の意見が記されていた.要旨を読んだときは,「日本は膨大な債務があるのに買う理由があるのか?」という疑問を持っていた.
しかし貯蓄が過剰で,顧客が長期間貯蓄をするとなると,安定して利益を得られ,為替の影響を受けない長期固定債は,金融機関にとって魅力的な投資先になる.そのため,日本国債の需要はまだあるということか,と少し納得した.
現在,債券市場は安定しているので問題ないように見えるものの,著者は過剰貯蓄が恒常的なものなのか,考える必要があると言う.
私は,少なくとも日本の過剰貯蓄は解消されていくという考えだ.
少子高齢化の影響などにより,貯蓄を崩す人が貯蓄を積む人よりも増え,過剰貯蓄は解消されることになるだろう.
もしそうなった場合,債券市場を安定してきた柱を一つ失うことになる.
(もちろん,そのとき日本銀行が買い入れれば市場は安定すると思う.しかし,財政ファイナンスと受け止められるリスクが発生する.そのとき日本銀行は金融緩和の出口に向かう意思を,しっかりとアピールしておく必要があるだろう.)
日本の投資家で支えられない場合は,海外投資家を頼るしかない.実際に,海外勢は着々と日本国債の保有割合を増やしている.
日本国債を投資先として選んでもらえることは,大変良いことだと思う.
しかし将来,海外投資家が低金利の債券に満足せず,政府債務の水準が高いというリスクに見合った高い金利を要求する可能性はある.もしリスクに見合う金利を付けない場合,容赦なく売り浴びせるだろう.
著者は,日本の国債市場は十分にコントローラブルな市場であると指摘するものの,日本の政策当局が適切な措置をとっていけばという条件つきである.
今は膨大な政府債務が大きな問題にならなくても,リスクをコントロールする手段は考えていたほうが良いだろう.ただ財政バラマキを主張することは,良くないことだと思う.
もちろん政府債務の水準が十分に低いなら,内外からの信認を得やすいため,あまり難しく考える必要はないのだが.
日本は,起こりうるリスクをうまくコントロールできるのだろうか.私はできないと思う.
この記事が参加している募集
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?