見出し画像

"監視資本主義"の読書感想文

監視資本主義を読んだ。オバマ大統領も2019年にベストブックとして選んだベストセラー。当たり前のように浸透している検索サービスやSNSから膨大な行動データが抜かれることによって、人が長い歴史の中で獲得してきた"個人が未来を選択する権利"が侵され、昔とは違った形の全体主義が作られつつあることを警告する本。

彼らはクッキー、独占的分析、アルゴリズムソフトウェアといった幅広いメカニズムを統合するとともに、新しい市場形態の基盤として、監視と行動データの一方的な収拾に乗り出した。この発明は、フォードの発明に並ぶほど衝撃的だった。

監視資本主義

この本はメインはグーグルの歴史から始まる。上記はIT企業にいると何をそんな当たり前のことをと思うが、改めてその誕生の歴史を説明している。Googleは当初から検索エンジンをやっていたものの、もともと全く収益を上げていなかった。ただネットバブルがはじけて是が非でも生き延びなければいけなくなったことで収益化に乗り出す。それにより、2001年には、純利益で8600万ドル、2002年には3億4700万ドル・・と急成長を遂げる。

ユーザの目的は無視され、ユーザは他社の目的を果たすための手段になった。

監視資本主義

人々の真のニーズに応えることは、彼らの行動予測を売るのに比べて儲けが少なく、従って重要ではないということがわかってしまった。ユーザの行動データは原材料となり、そこから製造した独自の「予測製品」を販売するための市場を作り出したのだ。

わたしたちはもはや、価値実現の主体でない。また、一部の人が言うような、グーグルの「商品」でもない。そうではなく、わたしたちはグーグルの予測工場で原材料を抽出・没収されるものに過ぎない。

このように人は"監視資産"になり、"監視収益"を追求する企業を太らせ、"監視資本"に転換させていくのだ。人は"他社の目的を達成するための手段"に成り下がる。Googleが繁栄し始めた当初からこれは問題となっていた。しかし、

国の諜報機関と、創業間もない監視資本家グーグルとの選択的親和性は、緊急事態の最中にピークに達し、歴史的な変わり種、すなわち監視例外主義をもたらした。

これが9.11でコロッと変わる。この事件により、情報を支配することにより国を守ると熱狂が生まれた。9.11により、グーグルは政府の興味を立法の対象から重要な使命に変わった。緊急時に特定サービスが伸びるのは3.11でLINEがサービスとして急成長し、何の問題もなくこっそり電話番号の連絡帳情報を抜き出せるようになったことに似ている気がした。

選挙運動でオバマ陣営は「オバマに投票するよう説得しなければならない国内のあらゆる浮動票について、名前、住所、人種、性別、収入全て」を把握しており、これらの人々にテレビ広告をターゲティングする手法を割り出した。特に画期的だったのは、「パースエイジョンスコア」[説得値]で、誰に投票するかを決めていない有権者を、オバマに投票するよう説得できる度合いを数値化した。

9.11を境に国が行動データを使うようにもなっていった。オバマは選挙でデータ分析とターゲティングを行なった。これが意味するのは、未来を自分で選ぼうとする人々を、新たな形の支配によって抑え込むようになったと言うことだ。

千年に及ぶ競争と犠牲の結晶として、人間がようやく手に入れた成果なのだ。自由は私たちが意志の力を働かせ、約束することとそれを守ることのギャップを埋めようとして初めて繁栄する。

意思の自由を主張することは、未来への権利を人間の生活として主張することと等しいため、これは歴史の中で勝ち取ってきた、未来を選択する権利を再度手放すことになる。

わたしたちは自らの姿勢を確立すべきだ。不確かさは混乱ではなく、むしろ今を生きるために必要な生息地である。わたしたちは支配的な権力や計画による専制政治よりも、選択や問題解決に失敗する可能性を選択しよう。

未来を選択する権利を手放さないためには、不確かさに身を置くべき。

意思の自由を得るための代償であり、未来に対する権利の基礎になるものだからだ。この自由がなければ、未来は崩壊し、単なる行動の連続に成り果てる。そこには、主題も計画もなく、ただ対象があるだけだ。

ここに気づくことができる人がどれだけいるだろうか。

集めるものと集められるもの、採掘者と原材料、実験者とその自覚のない被験者、未来を自ら選択する者と、他者のために保証された結果へとおいやれられる者に二分する。

デジタル構造に気づいてコントロールする側に回れる人か、気付かずにコントロールされる人に二分される。産業資本主義は、利益最大化、競争、生産技術の精緻化による労働性の向上、余剰の再投資によって、危険なまでに自然を破壊した。一方、監視資本主義は人間の本質を侵していく。

監視資本主義は社会的繋がり、情報へのアクセス、時間を節約する利便性、そしてサポートの幻想という形で、個人に解決策を提供してきた。しかし、その解決策は、社会的信頼の腐敗、絆の断絶、危険なまでの不平等、排他的な体制といった要素を是正するどころか、むしろそれらがもたらす脆弱性を利用しようとする。

これが監視資本主義が導く暗い未来だ。

フェイスブックで遠方の友人を増やして、ソーシャルネットワークを拡大することは、ユーザの否定的な感情を刺激し、害を及ぼす可能性がある。

これは以前書いたスマホ脳のレビューでも書いてあったが、SNSは人の心に対して悪影響を及ぼす。

「7度目の絶滅」が死に追いやるのは、自然に属するものではなく、人間の本質の中で最も貴重とされてきたものだ。意志のための意志、個人の高潔さ、親密な結びつき、約束で私たちをつなぐ社会性、そしてそれらが育む信頼である。

改めてだが、監視資本主義で失う最も大きいのは、人間の依頼の権利の滅亡だ。

民主主義が今後数十年間で再び活力を取り戻せるかどうかは、私たちが激しい怒りの感情と喪失感を取り戻せるかどうかにかかっている。

硬直した運命に支配される時代にあって、なおも無傷なまま残っているのは、自由そのものの力、何かを始める能力である。それはあらゆる人間の活動に生命を吹き込み、ひらめきを与える・・・それは偉大で美しいあらゆるものの隠された源である

自らの知識を使って、自らの姿勢を取り戻し、他の人々を力づけ、新たな始まりを見つけられるかどうかはわたしたち次第だ。産業資本主義に征服された自然界の犠牲者は沈黙していた。しかし人間の本質を征服しようとする者は、彼らが狙う獲物は強い声を持ち、危険を名指しし、それと戦う準備ができていることを知るだろう。

この本では、だからどうすべきだという解決策は示されてはいない。個人の自由を取り戻すために、人が持つ創造力と行動力を使って、戦っていこうと問題定義をして終わる本でした。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?