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ぎこちなく走るキリン

 20世紀イタリアの作家カルヴィーノの『パロマー』という小説を読んでいる。
 連作小説としての一篇に「キリンの駆け足」というストーリーがある。そこで主人公のパロマー氏は、動物園のキリンの走る姿を観察している。
 
 短編集の中では、ほんの4ページほどの物語なのだが、読んでいて感じたことは、そういえばキリンの走る姿を、あまり明確に思い起こせないという事実の発見。
 なるほどキリンという動物は、その特徴的な見た目から、はっきりとイメージができる上、僕自身も動物園で実際に見たこともある。
 
 それに走る姿もなんとなくおぼろげに想像はつく。
 形状から言って、馬やシマウマの類なのだから、足の動きは同じだろう。だが、馬ほど優雅に走るという訳ではなく、きっとぎこちないものだろうとも考えた。
 さっそく「キリンの駆け足」を読み終えると、次の物語に進む前にYouTubeで「キリン 走る」と、なんとも間抜けなワードで検索してみる。
 作中にも示唆されていたが、やはりどこか機械駆動のように見えなくもない。大きい上に、細い四肢であるが故に、ひとつひとつの動作がはっきりと目に付くのだろう。

 ところで、今更ながらキリンの走る姿に関心をもったわけだが、実は幼い頃にキリンにはもう一つ思うところがあった。水の飲み方だ。Wikipediaには、水ではなく地面にある草のようなものを食べる絵があったので、そちらを参照しておく。

Wikipedia「キリン」より

 なるほど、生物進化学的に言えば、より高い位置にある植物を食べることができる種が環境に適応できた例として今日まで生き残れることとなる。だが、それとは別に、水は上部にあるというよりも、やはり川や池、水たまりなど、地面にあるものだ。
 幼く率直な当時の僕にしてみれば、バカっぽく見えた。確かにライオンなどもいるだろうが、それにしても、足を折り曲げるであったり、もう少しマシな飲み方もあるだろうと感じていた。あるなら、もとよりそうしているはずなのだが。
 オカピという動物とキリンのみが、キリン科に属する。オカピの方は決して首が長い訳ではない。森林をとったオカピ、草原をとったキリン、という分け方が、後の進化の説明の補助線となる。

 一方で、そんな不思議な動物・キリンだが、戦闘能力は高いらしい。
 身体の構造的にも、武器として発達していることがナショナルジオグラフィックでも言及されている。
 知れば知るほど、僕の中では分からなくなる動物。それにやはり恐怖もあるにはある。走る様子には、ぎこちなさがあると表現したが、決して遅い訳ではない。一歩一歩が大きい上に、素早さもある。僕が単に巨大生物恐怖症なのでは、と疑う以前に、キリンには迫力がある。
 もしかすると「麒麟きりん」という空想動物が発生したのも、キリンの容姿だけでなく、その在り方の不可思議さによってなのかもしれない。


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