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寂しい人発見

最近の週末はほとんど予定がない。彼女がいた時はデートをしていたが、ちょっと前に別れてそれもなくなった。朝9時半頃に起きてテレビをつけ、朝ごはんを食べながらニュースを見る。活発な日は昼前に図書館に行ったりもするが、夕方までYouTubeを見たり昼寝をしたりでゴロゴロする日の方が多い。

先週の日曜日はちょっとだけ活発だった。昼過ぎに自転車で大阪・池田市まで行き、池田図書館で1時間くらい本を読んだ。腹が減ったので、定食屋を検索した。「にんじん」という定食屋がヒットした。

「にんじん」に入ると、店長はびっくりしていた。客が1人だけいて、世間話をしていたところだった。常連しかこない店なんだろう。ましてや若者など、という顔だった。カウンター席が6つか7つだけの小さい店。席に座ると「前にも来たやろ?」と言われた。もちろんなかった。

店の口コミにあった通り、壁一面にハリウッド女優の写真が貼られていた。マリリン・モンロー、ヘップバーン、ミランダ・カーなどなど。BGMも古いアメリカのポップス限定のようだ。僕はチキン南蛮(700円)を頼んだ。大盛りだった。

ウチ、タルタルちゃうけどええか?と確認された

常連客が帰ると、すぐに店長は話しかけてきた。僕はガストややよい軒などのチェーンに行くことが多いので、こうやって個人の飲食店に入り、普通に店員に話しかけられるのが新鮮だった。いつものようにYouTubeでジャルジャルを見ながら密かに食べたい、という思いはあった。 
しかし、それをして何になるというのだ? 店を出たらまた図書館に行って本を読むか、家に帰って寝るか、だ。そんなこと、先週もその前の週もやったじゃないか。

店長はいきなり、「俺、女の太ももが好きやねん。胸やないねん。ガリガリなんもあかんねん」とニヤニヤしながら言ってきた。確かに壁一面の写真は胸ではなく、太ももが強調されていた。僕は一気にその店長が好きになった。

それから1時間以上、店長はひたすら語った。74歳であること。数年前に妻を亡くし、毎日暇なこと。仕事以外の日は寝て過ごしていること。妻の看病は大変だったこと。若い頃は貧乏で、毎日味噌汁と漬物だったこと。数十年前、妻が「たまには旅行行こうや」と言い出したこと。それから二十年近く、毎年沖縄旅行に行ったこと。独り身になってからは旅行をやめたこと。その原因が頻尿であること。少し前、休日に神戸の中華街に行き、相席したのが同年代の夫婦で、幸せな風景を目の前で見せられ、以降外食をしなくなったこと……

結局、1時間半くらい喋っていた。そのうち僕が口を開いたのは5分もなかったろう。少々疲れたが、放っておけない人だった。
こういう人本当にいるんだ、と思った。

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